第45話 迷い森の屋敷

私は「時の加護者」アカネ。

私たちは無事にポルミス島もといナンパヒ島に上陸で来た。まずは情報を集めようと船から見えた白浜にある1軒の家を訪ねると、そこにはアコウとマジムさん、そして盲目の少女がいた。だけど、偽名を名乗っていたり、ちょっと様子が変だった。


—ナンパヒ島 未完の白浜—


結局、私たちはその晩、ルルさんの診療所に泊まらせてもらった。


「うちは、診療所だからベッドだけは無駄にあるんだよ」


と気前の良いルルさんの声、言葉は甘えるにたる優しい音色だった。


翌朝、私たちが出発しようとすると、キラキラした朝の白浜にレフィスが迎えに舞い降りた。


「迎えにはせ参じました。アカネ様、シエラ様」


どうしたことだろうか? レフィスは船上の態度とは打って変わり、砂浜にひれ伏し、その翠色の羽根までも地面にぺたりと付けている。


「ねぇ、どうしたの、レフィス? 顔を上げて」


「いえ、船上での数々の無礼、申し訳ございませんでした。この世間知らずのレフィスをお許しください」


「ははぁん。お前、母様に怒られたのだろう」


そういうとレフィスはさらに砂浜に頭を下げた。


「そういうことなのね。大丈夫だから頭上げて、ね」


「はい」


顔を上げたレフィスの左頬が大きく腫れていた。


「はははは。お前、ひっぱたかれたんだね」


レフィスの顔は真っ赤になった。


「もう、シエラ、いじめないで。可哀そうでしょ」


「ありがとうございます。では、これからご案内いたします」


私はルルさんに一晩のお礼を言った。 そして別れ際にマジムさんにも声を掛けた。


「あのね、私、人生の経験が少ないけど、人にはいろいろな思いがあるのはわかってるつもり。だから、誰も傷つくことなく望みが叶うといいね」


ライラ、ライン、ソックスは元気にみんなに手を振ってお別れをしていた。


謙虚に小さく手を振っていた盲目の少女が少し悲しく思えた。


「アカネ様、感じていたんですね」

「うん。会った時、すぐに」


「でも、不思議なんだよなぁ。僕って敵意に凄く反応するでしょ。その僕がそこには何も感じなかった。彼女の力の根源はバンクと同じだったのに」


「うん。確かに、ひとつはね」


「ひとつ?」


「アカネ様、シエラ様、この先は『迷いの森』の入り口になります。申し訳ございませんが、ここからは、他の者たちを入れるわけにはいかないのです」


「なんだよ、それ! 俺達も入れろよ」

「そぉだ! そぉだ!」

「それってオレブラン差別か何かなの?」


やんや、やんやと不満を漏らすチビッ子3人衆。


「ねぇ、この森の中で3人だけ残すのは私も不安。どうにかならないの?」


レフィスは困り顔をしながら、森の方に顔を傾ける。


ライラ、ライン、ソックスも反応して森の方を見る。


たぶん、獣人類には聞こえる波長なのだろう。


「今、此処に私の妹ルッソが参ります。彼女と入り江に行ってください。きっと楽しい出会いが待ってますよ」


「え? 何? 何?」


ラインとソックスが反応した。 そして、私の顔をそっと覗き込む。


「遠慮しないで、楽しんでおいで」


「やった♪」

「お兄ちゃん、何だろうね!? 楽しみだね!」


そんなライン、ソックスとは裏腹にライラは浮かない顔をしている。 責任感の強いライラは、このまま私から離れて『楽しむ』ことを躊躇しているようだった。


「ライラもたまには友達と羽を伸ばしてきたらいい。この僕がいるんだ。ライラは闘神を信じるだろ?」


シエラがそう言うと、ライラの表情から迷いがなくなり、明るい笑顔を見せた。


鳶の声が鳴り響くと、空に琥珀色の軌跡が光り輝き、やがて地表へ舞い降りた。 それはライン、ソックスと同い年くらいの琥珀色の羽根をもつ少女だった。


「私の名はルッソ。よろしくね、お友達さん」


4人はすぐに仲良くなり、そのまま海の方へ向かって歩いて行った。


「では、アカネ様、シエラ様、参りましょう」


それはシドの泉と同じ現象だった。 目の前の森はいつの間にか透けて無くなり、気が付くとエメラルドブルーの小さな湖畔に姿を変えていた。


「この湖は湖底の洞窟から海につながっております。母様はその穴を通じてプーフィスなどの海獣と連絡を取っているのです」


湖畔から再び森へ入ると枝葉で造られたアーチの下を歩いていく。


やがて森の住居が見えてきた。 太く短い幹の上に家屋が建造されている。 いや、そうではない。 木の枝自体が家を形作っているのだ。 そのため、屋根は枝や葉で覆われている。


両脇にそれら家屋が立ち並び、一番奥には、ひと際大きな日本家屋が姿を現した。


「どうぞ、中へお入りください」


家屋の前に来ると、頭の中に直接やわらかな声が響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る