第43話 儚き命の島

私は「時の加護者」アカネ。

ポルミス島へ向かうビアスさんの船に突如、伝説の海獣プーフィスが襲い掛かって来る。この白い鯨プーフィスが現れる時、ポルミス島は大陸に着岸すると言われているらしい。そして、今、プーフィスが全力で船に突進してきた。


—海~ポルミス島—


その輝く翠の軌跡は、鳶に似た鳴き声を発すると、言葉が頭の中に流れ込んできた。


「プーフィス、やめてください。その者たちからシド様の波長を感じます」


白鯨は巨体を一回転させると、大きな尾を振り上げて海中に戻って行った。


翠の光はスピードを下げると、船に急降下した。


船の舳先に立つのは、翠色の羽根を持つキルト姿の女性だった。


風になびく白色の髪が光の粒子を放っているようだった。


「そなたたちは何者だ! なぜシド様の羽根を持っているのだ!?」


女性は冷ややかな目を一度、桶に浮かぶシドの羽根に移すと、再び覇気のこもった視線をぶつけてきた。


その攻撃的な気にシエラが反応したが、私が手をかざして止めた。


「私たちはポルミスに上陸したいだけなの」


「私は『そなたたちは何者だ』と聞いたのだ」


女性の口元の牙が鈍い光を放つ。


乗じてシエラの気も尖りはじめた。


まるで空気がパキパキと音を鳴らさんばかりだった。


「待って! 待って! アカネよ。私はアカネ、そしてこっちはシエラ」


「アカネ? そしてシエラ.. ふっ、最近は3主の名を語るものが多くて困る。まったく昔なら有り得ん事だ。まぁ、良い。光鳥ハシルの子、シド様の羽根を持つものは一応、丁重に扱わねばならぬからな」


「お前、それのどこが『丁重』なんだ。アカネ様への無礼は許さないぞ」


「あの偉大なるシエラ様の名を語る者よ。海のプーフィスと空のレフィスが島に近づかんとする船を許すなど『稀な事』と知れ」


レフィスは気高い自分を誇示するようにさらに高慢な態度をとる。


「なん—」


「いいのよ。シエラ。この船の下にきっと白鯨もいる。今はポルミス島に上陸することが先決よ」


『ナンパヒ・パカイ・ラヒ』レフィスは言う。


「..何?」


「『儚き命の島』という意味だ。ポルミスなどという名ではない。島の名は『ナンパヒ・パカイ・ラヒ』なのだ!」


「『儚き命の島』それはあなた達の手によって侵入者が命を落とすからなのね」


「違う、逆だ。島は意思を持つ。例え我らが船を藻屑に変えようと、島は正しき未来を持つ命を救うのだ。故に散ってゆく命に対し島は涙するのだ。『儚き命を憂う島』昔はそう呼ばれていたのだ」


「ねぇ、この先にナンパヒ・パラヒ..」


「ナンパヒ・パカイ・ラヒだ。もうよい、『ナンパヒ島』とでも呼べ」


「そのナンパヒ島はこの先にあるの?」


「ああ、そうだ。今、島は大陸との交接の準備をしている」


「交接?」


「そうだ。交接とは何十年に1回、大陸とつながる事を言うのだ」


レフィスは顔を島の方向に傾ける。


「母様がお前たちを早く連れて来るようにと言っている。詳しくは母様が話すそうだ」


海の潮が両方面から押し寄せると島へ向けて流れ始めた。


それは海獣プーフィスの力なのかもしれない。


島へ行く数時間、私はレフィスに話しかけるが、ほぼ無視されてしまった。


そんなレフィスの不遜な態度にシエラの頭からは蒸気がでそうな勢いだ。


「平気だよ、シエラ。ありがとう」

「な、どうしたんですか? 僕は何もしてないですよ?」


「ううん。シエラの気持ちが伝わる。いつもうれしいよ」

「え、ははは。まいったなぁ..」


その時、レフィスが甲高く鳴いた。


海の景色が蜃気楼のように揺らぎ始めると、目の前にエメラルドラグーンが広がりはじめた。


そして小高い森から成る大きな島が、海から浮かび上がり、次第に姿を露わにした。


まるで光を発しているかのような美しい白浜には人の姿も確認できた。


船は白浜をぐるりと回りこみ、入り江の中へ入っていく。

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