第16話 捕縛

私は「時の加護者」アカネ。

私とツグミとシェラは、レータ国の都市リップに居城を構えるミゼの偵察を行っていたが、ミゼに先手を打たれ、裏路地にて取り囲まれてしまった。ボーガンを持った奴らに囲まれ、上の階の露台にミゼが姿を現した。


—レータ国 都市リップ—


「じゃあな。力の無いアカネ様」


そう言いながら、ミゼは露台を立ち去ろうとした。


[ ガシャーン ] とガラス扉を蹴破る太い脚。


「へっへ。ミゼの大将、ここまでだぜ」


ジェラは得意げな顔で言った。


——ツグミが口ずさんだのはネズミと猫が追いかけっこする有名なアニメの主題歌だった。私はあの時に、ツグミからのメッセージを受け取ったのだ。


「ねぇ、ジェラ。あなたは、あの路地を挟むあの建物を調べてくれない? 」


「え?? なんで? 」


「たぶん、これは罠よ」


「なんでわかるんだよ」


「ふふ、ミゼが策略家なら、こっちにも本家本物がいるのよ。ね、ツグミ」


ツグミは背中で無邪気に笑っているが、彼女の魂こそミゼが崇拝するヨミの魂なのだ。そしてドライアドの力によってヨミの英知はツグミに受け継がれた。ミゼの策略などは「時の加護者」の側近だったヨミの足元にも及ぶことはないのだ——


ジェラは次々と、ボーガンの男たちを階下へ落した。残りはミゼ一人だけだ。


(さぁ、ジェラ、ミゼを捕獲して! さっさと鎮圧するのよ! )


しかし、ジェラの攻撃は空を切るばかり。それはそうだ。ミゼとてガゼ、ロウゼに並ぶ「元の民」三頭目のひとり、悪のカリスマなのだ。


( んっ、もう! なにグズグズしてるのよ! )


「ちょっとー! 早くしなさいよっ! 」


思わず上に向かって叫んだ。


「へへへ、どうしたよ。下ではあんなこと言ってるぞ」

「まったく勝手な事を.. ならば、この露台を破壊し、お前ごと下に落とすのみ」


ジェラは脚に気を集中し露台の床を踏んだ。その威力は建物を壊す巨大な鉄球のごとし!


「バーカ、作戦を口で言ったら逃げるのみだろうが! 」


ミゼは身軽にジェラの大きな体を踏み台にして崩れる露台から飛んだ。


「あーっ! しまったーっ! 」


瓦礫とともに落下するのはジェラのみだ。


その様子を見て『 ったく.. 何にもならないじゃない』と思った瞬間、路地に凄まじい風が吹き込むと、凄まじい上昇気流が発生し、全てを巻き込みながら上空へ押し上げた。


噴き上げられた身体は、屋上の床にお尻から落ちていった。


「イテテテ.. いったい、どうなってるのよ? 」


周りを見渡すとジェラが間抜けな顔で気絶していた。そしてミゼはその巨体の下敷きになっていた。


『ツグミは!? 』と探すと後ろで笑い声が聞こえた。


「おねぇちゃん、大丈夫? 」


「うん。ツグミはケガしてない? 」


「うん、大丈夫だよ」


カームタップの時も奇跡的な事が起きた。 そして今も.. もしかしてこの子の力なの?


それよりも今はミゼを取り押さえなきゃ。 屋上にある洗濯干しにかかっていたロープでミゼの手足を縛る。


「ジェラ、ほら、起きて!! 」


「ん.. イテテテ.. どうなった? 」


そんなすっとぼけた事をいうジェラに事の説明をする。


建物から下を見ると、ボーガン隊はとりあえず動いている。まぁ、ケガはしているけど命に別状はなさそうだ。


「おいっ、俺をどうするつもりだ」


その言葉にハッとする。 ミゼがいつの間にか目覚めていた。


だが、自分の手足が縛られている事に気が付くと、ミゼは観念して、その場に座り込んだ。


服が風に飛ばされ、露わになったミゼの身体は、ケロイド状の火傷跡で覆われていた。


大人しく佇むミゼの姿は、どこか寂しそうでもあった。

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