第15話 悪の巣窟

私は「時の加護者」アカネ。

レータ国ベル港に来た理由は、単にジェラに会うためだけではなかった。ここに私の力を解放するためのアイテムがあったのだ。それは「元の民」の首領ヨミが作ったブロンズの懐中時計だ。しかし、それはレータ国のリーダーとなったミゼの手中にあった。


—レータ国 ベル港 〜首都リップ—


ジェラは、しっかりとした馬を..いや、牛を用意してくれていた。しかも鈍牛だ。


「あのさ、ジェラ、急いでいるんだけど」


「仕方がないだろ。今じゃ、一般の人間が馬を手に入れることすら難しいんだ。農作業の手伝いという事で牛で精いっぱいだ。それでもレータ国に運び込むのには苦労したんだぜ。我慢してくれ」


まぁ、幼いツグミを歩かせるよりもいいか.. しかし結局、私が歩いてツグミを乗せた牛を引っ張る形になった。


1時間ほど歩くと宗教的な高い建物が並ぶ国の中心地が見えてきた。私たちは道から外れ、近くにある小屋の陰から街道に面した町の入口を窺った。


町の外には人の姿はほとんど見当たらない。しかししばらくすると町から馬車が1台出ていく。


「ちょっと、ジェラ、馬があるじゃない」


「バカ、あいつらは特別だ。ギプス国の役人に袖の下でも渡しているんだろ。馬車の後ろを見てみろ。許可されている証拠だ」


確かに馬車の後ろにはナンバープレートが付いている。


「じゃあ、あの馬車を手に入れたら自由にギプス国に入れるんじゃないの? 」


「それは無理だ。街道にある各関所はいつも同じ人間が見張っている。つまり馬車の御者とは顔見知りだ」


「馬車は何しに行ったのかな? 」


「たぶん、ギプス国からの食料や資材の配給を取りに行くんだろ」


「え? だって自分たちで国の治安のために追い払ったんじゃないの? 」


「それが政治だ。十分な配給さえしていれば悪たちが大人しくしてくれる。国にとっては都合がいい話じゃないか」


「 ...」


「納得できないか? 若いな。さあ、それよりここにいても仕方がない。行ってみるか? 」


「うん」


町の中は閑散としていて、時折冷たい乾いた風が吹いていた。それは町の裏手に見える切り立つ岩山から吹き降ろす強風が、町をすり抜けるためだろう。その風がたてた砂埃が収まると、後ろからカチャっと音がした。


「大人しくし.. 」


振り向きざまにジェラが男たちの持つボーガンを跳ねのけ、丸太のような脚で2人を一掃した。


「へぇ、やるね」


「当たり前だ。あんたら相手じゃなければ、俺はかなり強いクラスだぞ」


そんな会話の最中に、物陰から女がもう1人。思い切り木棒を振り下ろしたが、辛うじて私の脚で防ぐ。女は不利とみるや否や、棒を投げ捨て、路地へと逃げていく。


「まずいぞ。知られたらミゼに逃げられるかもしれない! 」


追いかけるが町を知る女の逃げ足はかなり速く、入り組んだ道をスルスルと逃げていく。だが角を曲がったところで油断したのかスピードを落とす女。再び私たちに気付くとそのまま大きな建物に挟まれた路地へ逃げていく。


♪♪〜


背中に背負ったツグミが鼻歌を歌っている。はっきり言って、そんな場合じゃないのに.. でも、どこかで聞いたことがあるメロディだ。


ああ、これは確かネズミを追いかける猫が、いつも最後に散々な目にあうアメリカのアニメの歌だ。


高い建物に挟まれる路地は車1台通れるくらいの横幅だ。走る女を追いかけ真ん中ほど来たところだった。前にボーガンを持った奴らが4人.. 後ろを振り返ると後ろにも同様に4人.. 大きな建物の壁に挟まれ逃げ道がない。


「はっはっは。久しぶりだな小娘」


「あ、お前はミゼ」


建物の3階にあるベランダからミゼが煙草をくわえて見下ろしている。


「懐かしいなぁ。もう何年も経つのにお前は変わらないな。だが、もうお別れだな。さよなら、力が無いアカネ様! 」


高笑いをするミゼに代り、さらに3つのボーガンが私とツグミに矢を向けた。

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