第14話 残された希望

私は「時の加護者」アカネ。

レータ国ベル港で私が会うべき男は以前にチンピラの用心棒をしていたジェラと言う小悪党だった。私は落胆する想いだった。だが、彼と拳を合わせ彼が私に言い放った言葉の数々は私の胸に刺さるものばかりだった。そして彼が私に手を貸す動機に私はなぜかジェラを信頼してみたくなったのだった。


—レータ国 ベル港—


ジェラは、今、彼が知りえる情報を聞かせてくれた。


まず、この世界の自然と調和を信仰する国々と、王国ポルミスを除く他の5つの王国には白亜の隊が入り込み、治安を維持している。


もはや、その国が望むか望まないかは関係ない。


ハクアという男と3幹部の圧倒的な力の前には、もはや選択肢はなかった。王国の中には白亜に自ら擦り寄る国もあった。その国が北の王国シェクタだ。


白亜は謎が多いやつらだったが、民衆が彼らを嫌っているわけでもない。なぜなら実際、白亜隊のおかげで各国の治安は良くなっているからだ。


「ところでさ、アカネ様。各国を白亜隊によって治安が良くなると、当然、無法者は国にいることが難しくなるよな。じゃあ、その無法者たちは何処へ行くと思う? 」


「う~ん? 」


「白亜隊がいない国に集まっていくのさ。俺みたいにな。そして、このレータ国がその国ってわけだ。今や、この国は悪い奴らの吹き溜まりだ。だけどな、そんな悪の集まりでも、そいつらを束ねる奴が出るもんさ。そいつは腕力もさることながら、何より注意すべきはそのずる賢さだ。そいつの口癖は『策略こそ力だ』だ。聞き覚えないかい? 」


「まさか? 」


「ああ、そいつは『元の民』3頭目のひとり、ミゼという男だ」


私はふとツグミを見た。


ツグミはこちらの話に関せず地面に白い石で動物の落書きをしていた。


「あいつ、生きていたのね」


「ああ、あんたにとっては幸運といってもいい。あんたと俺はこれからこのミゼに会う必要があるんだ」


「なんで、あんな奴と! 」


ミゼは多くの人々を苦しめ多くの人々を殺害してきた。


特に胸糞が悪いのがロウゼの村に行った仕打ちだ。奴は村に毒を巻き、解毒剤をエサにロウゼを私と闘わせた。だけどミゼは最初から解毒剤など持っていなくて村人を放置したのだ。


死んでしまった村人の魂は「運命の加護者」シャーレの「転移の術」によってオレブラン(獣人)として新たな人生を歩むことが出来たのだ。


「まぁ、気持ちはわかる。俺たち無法者にも奴の悪行ってのは聞こえてきていたからな。はっきり言って俺も奴は気に食わない」


ジェラは私に自分の拳を突き出して続けて語った。


「俺の拳はかなり固い岩石を破壊することが出来るんだ。自分の内気と自然の外気を掛け合わせ拳に集中させ、一気に放つ。それが『気功岩礁拳』って拳法だ。さっきあんた俺に負けただろう? 」


「私、負けてはいないじゃん!? 」


「あ、そうだった.. でも自分の力が出ないのは実感できただろ」


「うん。私は弱くなった」


「厳密に言うとそうじゃない。あんたは弱くなったんじゃない。俺に例えるなら『力を放つ拳』を無くしてしまったんだ」


「力を放つ拳? 」


「ああ、あんたにとってそれは何だ? 」


「それは.. きっと懐中時計。だからシエラを見つけなきゃいけないのよ」


「忘れてしまったのか? ミゼが似たようなものを持っていただろ? 」

「あっ! そうか! ヨミが作ったブロンズの懐中時計! 」


「そうだ。ミゼの奴は、ヨミを崇拝していた。あいつ、柄にもなく殊勝に懐中時計をヨミの形見として大切に持っているって噂だ。それを手に入れれば、時の加護者の力を良い覚ますことができるだろう」


「 ..フフッ..」 私はようやく見えたわずかな希望に含み笑いをしてしまった。


「なんか悪そうな笑い方をするねぇ。俺はそういう笑いは嫌いじゃないぜ。早速、ミゼに会いに行こう。このレータ国は小さい。国の中心部はこのベル港からそんなに遠くはないぜ」


***


— 王国フェルナン 闘技場地下—


うす暗く、やけに乾いた6畳ほどの小さな部屋で尋問は行われていた。


「なぁ、ロウゼ、いい加減、運命のトパーズの居場所を教えたらどうだ」


「はぁ.. はぁ.. トパーズってなんだ? 」


「仕方がない。もうひとつ刻め。あまり深くするな」


「はっ」


フェルナン仕置き人が鋭く、薄く、耳かきより小さい刃先をゆっくり、ゆっくりとロウゼの背中に数字を刻む。ひとつの傷は大きくはないが、尋問に答えるまで数が増えていく。永遠に続くような拷問に、普通の人間なら5まで刻まれないうちに口を割ってしまう。


「ぐぁあああああ」


「流石にお前も悲鳴を上げたな。ロウゼ、もういいだろう。お前はがんばった。俺もこんな事はしたくないのだ」


「 .. はぁ.. バンク、なら辞めたらどうだ.. お前も戦士だろ。それなら俺の事がわかるはずだ」


「 ..ああ、残念ながらわかる。俺たちは自分が痛めつけられても口を割らない.. 仕方がない.. 仕置き人、連れて来い」


木の扉の向こうから連れてこられたのはライラだった。


「パパ! 」


「ライラ! 」


「ロウゼ、これは俺の本意ではない。だが、お前が言わなければ.. 」


「くっ、やめるんだ。バンク。超えるな.. 」


「ならば、言え。これは脅しではない」


「ぐっ.. すまん、ライラ。俺たちがどうなろうと.. これだけは言ってはダメなんだ。すまぬ」


ライラは黙って頷いた。 そして、その小さな部屋にライラの悲鳴が鳴り響いた。


「親なら早く口を割るんだな」


「バ、バンク。俺はお前を許さないぞ.. 」


バンクともう1人、少女がその部屋から出ていく。


「ふぅ.. 結月、泣くな」


「だって.. あまりにも酷いよ」


「だからこそお前の能力を借りて幻覚を見せているのだ」


「私はこの目で世界を見てみたいと願ったけど、人が苦しむ姿なんて見たくなかった」


「 ..だが、おまえも本当に娘を拷問する事は望まないだろ.. ところで本物のライラはどうしている」

「今は気を失って、別室のベッドで休ませてる」


「そうか.. あの娘も父親が拷問されているのを知って辛いだろう。せめて結月、お前だけでもあの子にやさしくしてやってくれ」


そういうとバンクはブルゲンに報告するために闘技場の地下階段を登っていくのだった。

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