第13話 バトン
私は「時の加護者」アカネ。
タイサントからカレン調査船はこのレータ国ベル港に入港した。ラオス船長とノラに勇気をもらい、私はベル港で私を待っている人物を探し当てた。なんとその人物は以前、この港でチンピラの用心棒をしていたジェラという男だった。
—レータ国 ベル港—
「あなたが私をずっと待っていた人なの? 」
「そうだ」
このジェラという男がシエラやラヴィエを差し置いて会うべき男とは到底思えなかった。
「私、先を急ぐから。レギューラの丘に行かなきゃいけないから」
「そこが『時の加護者』の聖地だからか? もうすでに白亜が調べている」
「なんであなたが『時の加護者』の聖地を知っているのよ! それにハクアって何よ」
「さぁな! 」
ジェラは両腕に気を込めて岩のように固い手の平を振り下ろしてきた。
—ガガンッ!!
「へぇ。取り敢えずは受け止められるんだな。だがこの先はどうかな? 俺のこの力に耐えられるか」
「 ..グ..ググ..何て力なの.. それなら」
その上からの力をそのまま下に受け流し、私は宙を舞いながらジェラの後頭部へ踵を落とす。だが、こんな見透かされた攻撃などかわされてしまうだろ。
—ガンッ
「カ.. カ.. カヘェ.. 」
え〜.. ジェラは白目をむいて気絶してしまった。
・・・・・・
・・
「 ..痛っ.. 」
「気が付いた? あんな攻撃くらいよけてよ」
「な、なんで置いて行かなかった? レギューラの丘へ行くんだろ? 」
「こんな所にこのままにしておくわけにもいかない」
「ああ、ありがとうな」
「違うわよ。私じゃなくてツグミがそう言ったのよ」
「ああ、ありがとう、ツグミちゃん」
「へへへ」
ツグミは私の後ろから顔だけのぞかせて笑っていた。
しかし、さっきの闘いでまだ私の力は辛うじて残っているようだった。
これなら—
「弱いな.. アカネ様。俺の想像以上にクソ弱かったよ」
「ちょっと、あなた負けたくせに良くそんなこと言えるわね。それにあなた結構、自分が強い拳法使いだって豪語してなかったっけ? 」
「アカネ様よ、あんたはチンピラ用心棒ごときのそんな言葉を真に受けるのか? 」
「そ、それは.. 」
「いいよ。確かに俺の気功岩礁拳はそれなりに由緒あるってのは本当だ。だが俺はそれの使い手だけでしかない。ましてや用心棒に成り下がった俺は拳法家としての格も下だな。だがな、あんたはそんな俺の見え見えの一発目の攻撃を受け止めたんだ」
「だから? 」
「あんた『時の加護者』だろ? 受け止めるほどの攻撃か、あれが? あんたの蹴りは一振りで、そこらにいる敵は全て吹き飛ぶって聞いてるぜ。そんなあんたが俺ごときの攻撃を受け止めただって? そんな弱いあんたがレギューラの丘にいって何するんだ」
「 .... 」
返す言葉がなかった。 でも、それでも..
「『それでも行く』って顔だな。でも、自分の力が弱くなっているのは実感できただろう? 」
「うん.. 」
「だからよ。俺が今からあんたの力を元の力までとはいかないが、それに近いところまで引き上げる為の道案内をしてやるぜ」
「..で、あなたの見返りは何? チンピラの用心棒風情のあなたが何の見返りもなく、何年も私のこと待っているはずがないわ」
「そうだな.. まぁ、何ていうのかね。誰も敵わない悪い奴がコテンパンにやられるのを見るっていうのはスカっとするだろ? それを俺に見せてくれ! 」
私は何となくジェラのその答えがスッと心に入ってきてしまった。そして彼が考えはシンプルだけど嘘をつかない人間だと思えたのだ。
「フフフ。ジェラさん、よろしく」
「ああ、よろしくな! 」
「ツグミもよろしくー! 」
「よろしくな、ツグミちゃん」
このジェラが、この『時の加護者』のパワーをどう上げるのか、今の私にはまったく想像できなかった。 だけど、この人が今は頼みの綱だ。 あのラオス船長が私というバトンをこの人に渡した意味がきっとあるはずだ。
そう思うと拳に力が入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます