第10話 準備
私は「時の加護者」アカネ。
私とツグミはノラさんの案内で、レンパス村の秘密に停留している、カレン調査船とラオス船長と再会することができた。私たちは早速、タイサントを出発し、まずは「運命の祠」があるフェルナン国を目指す。一方、3主のひとり「時の加護者」の私が不在の間に、世界は白亜という集団が事実上支配していた。彼らは「3主の力」、もしくはそれを信じるものを迫害していた。
—フェルナン国 北の山脈—
「くそっ! 」
「パパ!! どうしたら? 」
「フフフフ。この洞窟の狭さが命取りだったな、ロウゼ。ここではお前のグレイブを振り回すことはできんからな。まぁ、その獣耳には5人も殺られてしまったがな。お前たちには聞きたいことがある。一緒に来てもらうぞ」
微かに光る脚を持つ体躯の良い男は、掛けていた眼鏡を頭までずらすと野太い声で静かに話す。
「私とパパを見くびるな、クソヤロウ! 」
「ロウゼ、娘の教育を怠ったな。こんな乱暴な言葉を吐くなんて。まぁ、威勢がいいのはいいが、このシエラがどうなるかわからんぞ」
男は足元に転がるシエラを見ながら言う。
「僕に構わないで逃げるんだ。ロウゼ、ライラ」
「そういうわけにはいかないのですよ、シエラさま。この2人にはまだまだクローズやラヴィエ王女、アコウの居場所を聞かなきゃならないのでね」
その言葉は丁寧だったが、その目はシエラを見下す目をしていた。
まるで、シエラが岩になっていなくとも、自分よりも格下だと語っている目だった。
「ライラ、ナイフを下ろしなさい。世界はまだシエラを失うわけにはいかないんだ」
「でも.. 」
ロウゼがライラの手に優しく触れると、ライラは耳を折り曲げ、ナイフを鞘に納めた。
「おい、俺たちは一緒に行く。どうせシエラはもう動けない。そのままにしてやってくれ」
「私は約束を破ったことはない、一度もな」
ロウゼとライラは武器を取り上げられ、後ろ手に拘束されると外の馬車に連れていかれた。
そして洞窟内に男とシエラだけが残った。
「お前、何という名前だ? 」
「私は、私の世界でバンクと呼ばれていました」
「そうか。お前の目は死んでも忘れない」
そういうとシエラは瞼を閉じた。
バンクの脚の光が強まると、その足がシエラの胸に踏み下ろされた。
岩となった体は粉々に砕け散り、洞窟内に弾け飛んだ。
「ロウゼ、お前は私に懇願したが、私はお前と約束をした覚えはない.. 」
そう呟くとシエラの首に掛けられていた懐中時計を手に取って、洞窟を出て行った。
***
—タイサント レンパス村—
相変わらず良い男だわ~
洋画好きのアカネはこのヒュー・ジャックマン似のラオス船長に対して『愛に歳の差なんて』と思ってしまうのは、前回の出会いから変わっていない。
ラオス船長は長い間、この船で生活していたらしく、以前よりもよりワイルドになっていた。
いつ拳から金属の爪が出てきても不思議ではないような風貌だ。
同時に船内もそれなりに散らかっていて、ノラさんにお叱りを受けていた。
「急な話だがな、こんな状況になってしまっては、敵さんに見つかる前にタイサントを出発しなければならない。悪いな、アカネ様」
とラオス船長が言うと、豪気な声でノラさんが続いた。
「な~に! 船にはいつでも出発できるように、燃料も十分な食料も積んであるさね! 」
ノラさんは立ち寄った港で村人に出かけることを伝えると、そのままの服装で私たちと旅を共にした。
「大丈夫なんですか? あんな適当な伝言で? 」
「ん? ああ、家族は知っているから大丈夫」
ノラさんにしろ、ラオス船長にしろ、どうやら長い間、この日に備えていたようだ。
それだけに事の事態が心配になった。
「ノラさん。あの.. これまでにどれくらいの間、この日に備えていたんですか? 」
「3年半ってところだね。私は最初、父さんの戯言だと信じなかったけどね。だって、ドライアド様が見ることができる人間は限られた者だけだからね。私が本当に信じたのは父さんに使命を任された日だよ。私にドライアド様が謝罪に来られたんだ。私はもっと父さんと話をすべきだったんだ.. 」
抱いていたツグミを下ろすとラオス船長が言った。
「俺も最初の頃は『いつか来るこの日のために船をこの河口に隠せ』とラチャグが言った時には『馬鹿な事を言うな』と思ったものだ。だが、ある日、あいつらギプス港で許可船の選考を始めやがったんだ。次々と大型の船に解体命令が出された。そしてこの船もな。俺たちはこの船が没収されてしまう前に港から海に出る計画を立てた。だが、そんな事は奴らにすぐにばれてしまってな。俺は..俺の船員達の犠牲の上に船を出港させることができたんだ」
「犠牲.. そうだ、ロッシは? 」
「あいつは太陽の国レオの催事に招かれたカレン様に同行していた。だが、それ以降はどうなっているのか俺にはわからない。何たってもうギプス国には入ることもできないからな」
「そうすると、この船は何処に向かっているんですか? 」
「レータ国のベルだ。今や大型船がないこの海で、燃料、食料の補給港であるベル港の役割は無くなった。ベル港は廃港と成り果てたのさ。もはや見張りすらいないだろう。そして、そこであんたを待つ者がいる」
そこで私を待ちわびている人.. いったい誰であろうか?
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