蓮の花托と朱公子
何も言わずしばらく歩き。ある茶屋へ二人で入る。
中は子綺麗で、店で炊いている香の匂いは人の心を落ち着かせるような匂が漂っていた。彼は座ると、頬杖をついて無邪気に笑って見せた。
「あんた。面白いやつだな」
「え?」
彼は女将さんが運んできてくれたお茶を受け取るとお礼を言って一口飲む。
「いやだってさ、怒るだろ。普通あんなことされたらさ、俺だったらとっくに剣抜いてるぜ。なのにお前は剣を抜くどころか、おどおどしてさ」
「私は白家ですから。人に剣先を向けるようなことは出来ません」
「あー。白家にはそんな家訓があったっけな。人を傷つけるべからず、だっけか?」
「はい……っ!」
「
「これくらいは良くあります。昔からお茶を飲むのは苦手でして……お恥ずかしい」
恥ずかしさに下を向くと、笑い声が飛んできた。
「お前、本当に面白いやつだな! いや?これは可愛いて言うのか?」
彼は自分のお茶を一気に飲み干してしまうと。
「うっし、お前の面白さに免じて許してやろう」
「へ?あ、ありがとうございます」
羞恥と混乱のせいで間抜けな声が出る。この日、
「まぁ、と言っても落とし前つける。て言っちゃったからな……あんた何か持ってるか? 」
何かないかと乾坤袋を漁ると先程買った蓮の花托の束を見つけた。朱家の公子は
「おお。蓮の花托か。あんたがそれでいいなら貰うけど……どうする?」
「では、これで」
乾坤袋から蓮の花托を全て取り出すと彼はそんなにいらない。一本で十分だと言って押し返した。
「うん。やっぱりいつみても綺麗だな。しかも、これ形とか大きさとか完璧だな!」
そう言って高く持ち上げて見たり、上から見下ろしたり、真横から見たり。色々な方向から花托を鑑賞する。
「なぁ、白のお兄さん知ってるか? 蓮の花托はな、収穫期限があっという間なんだ。ぐずぐずしてたらすぐ黒くなっちまうし、だからと言って早すぎてもいけない」と花托の実の入っている周りを推して言った。
茶屋を出ると彼は満面の笑みで
「あんた、お名前は?」
「
「ほぉ、
「
そう言うと
「あははっ、別に助けたわけじゃないよ。どういたしまして。ちゃんと覚えてくれよな」
お互いに会釈をして別れる。
「お兄さんー! 次はアレで会おうな!」
大声で叫ぶのが聞こえしたを振り向いた。
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