姉弟の晩餐

「そんなことがあったの? ふふっ。確かに昔からお茶を飲むのは苦手だったわね」

「あ、姉上……笑わないでくださいよ」

 困った顔をする白噬明ハククウメイをよそに笑うこの美しい女性は彼の姉であり白家の現在宗主でもある白涼鈴ハク・リョウリンだ。

 二人は早くに両親を亡くしてしまい、残った白涼鈴ハクリョウリンは小さい弟に寂しい思いをさせてはいけないと愛情を注いだ。若くして女宗主になった時も、東奔西走とうほんせいそうではあったが必ず夕餉ゆうげは一緒に食べるようにしていた。

 今の白噬明ハククウメイはけして小さくはないが、食事を共にすることは今もは続いている。

「そういえば、今度の弾吹楽談会だんすいらくだんかいはどこでやることになったんですか?」

 弾吹楽談会は四大仙門よんだいせんもんが作った宴会のようなもので、通常の宴は外から楽師を呼ぶが、それをせず各仙門が楽器を奏で、酒や茶、食事を楽しみながら、最終的には一番良かった仙門を決めるという行事で一年に一回行われ、十日間ほど続く盛大な音楽会だ。

「あら、談話会だんわかいに行ったの知ってたのね……貴方のお友達のお家よ」

「私の友人──」

 姉は少し複雑そうな笑みを浮かべ、箸を動かす。

「しゅ、しゅ家というですか?」

「そう。なんでも今年の演奏は一味違うだとか。うちにも勝るだとか言ってたわ……ふん! どんなもんだか」

 言っていて腹が立ったのか夕餉を勢いよく口に突っ込む。弾吹楽談会は開催以来白家がずっと一位を取り続けいて、周りはその座を狙っている。白涼鈴ハクリョウリンは対抗心が強く、小さな煽り風でも凄まじく燃え上がってしまうため、それを諌めるのも、付き合うのも弟である白噬明ハククウメイの仕事だ。

「噬明! 食べ終わったら特訓よ」

「わかりましたよ。姉上」

 夕餉を食べ終わると、二人はそれぞれの楽器を持って庭へ出る。月がちょうど真上まできているところだった。山の上にあるこの白虎殿びゃっこでんは夏にも関わらず涼しい風が吹き、少し早めの鈴虫が鳴いている。二人は向かい合うと演奏を始めた。

 協奏。

 白涼鈴ハクリョウリンの力強く優雅な七弦琴と白噬明ハククウメイの優しくも芯のある琴が夜空に響いき渡る。庭で寝息を立てていたはずの草木は自然と体を揺らし、その美しい旋律に鈴虫さえも押し黙り耳を傾ける。終わる頃には夜風が拍手をしに二人の間を通って行った。

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