友にどう接すれば…

。ぞろぞろ帰る仙士達、朱家の彼らも自分たちの部屋がある屋敷へと戻っていくようだった。そして、朱玲叡シュレイエイも──。

師兄しけい、師兄!」

 隣から肩を軽く叩かれ、そちらの方を向くと瑶晩ヨウハンが不思議そうに白噬明ハククウメイの顔を見ているのが目に映った。

「大丈夫ですか? もう皆さん戻っているのに。何か気になることでも? それとも、具合が悪いですか?」

「……いや、問題ないよ」

「そうですか……明日から弾吹楽談だんすいらくだん会が始まりますから、早めに休んでくださいよ」

 客室へ行こうとしたところで白噬明ハククウメイは辺りを見渡して、不思議そうに瑶晩ヨウハンに尋ねた。

「姉上は、どちらに?」

「宗主は、ジョウ宗主と食事へ出かける。とおっしゃってました」

青雲蘭ジョウウンラン様と…わかりました。瑶晩ヨウハン。貴方も無理はしなくていいんですよ。ゆっくり休んでくださいね」

「は、はい!」

 満面の笑みを浮かべて返事をするとお互いに用意された客室へ向かった。

 客室へ入ると白噬明ハククウメイは扉をゆっくりと閉めた。そして、整った寝台に外衣も脱がずに勢いよく倒れ、枕に顔を埋め小さく叫びながら首を横に振った。

「はぁぁ」

 頭を擡げると長い髪がくしゃくしゃになって枕周辺に細く伸び、張り付いていた。しかし、自分の髪の乱れ具合に目が行くとはなく白噬明ハククウメイの視線は先刻触れ合ってしまった指先に止まった。

(良き友とはどんなものだろうか……)

 昔から白噬明ハククウメイには友と呼べる存在がいなかった。他の仙門の修業者とは、あまりいい関係は築けず。白家では皆、彼を尊敬しているため恐れ多いといった感じで良好な関係ではあるものの多少の壁を感じた。それに比べて朱玲叡シュレイエイという男は全く壁を感じなかった。彼は、初めて白噬明ハククウメイに対等に接した人物であり、初めての白噬明ハククウメイが友と呼べる存在なのだ。

(どうしたらもっと……)

 だからこそ、友という存在にどう接していいかが分からないのだ。

「あぁ。だめだ、落ち着かな──っ⁈」

 扉を軽く叩く音が聞こえ、白噬明ハククウメイの肩がぴくりと小さく跳ねた。

「失礼します、瑶晩ヨウハンです。師兄、沐浴のための風呂桶と皁莢さいかちを持ってきました!」

 白噬明ハククウメイは起き上がると、くしゃくしゃになった髪が今更気になり、適当に撫で付けながら急いで扉を開けた。

「ありがとうございます。ちょうど、入りたいと思っていたんです」

「そんなとこでしょうと思っていましたよ」

 瑶晩ヨウハンが部屋に風呂桶を慎重に運び込むと、優しい香りが空間を満たした。置かれた風呂桶の中の湯は翠玉すいぎょくのように美しい色をおしており、さらに金木犀きんもくせいの星が浮かんでいた。

「……これは」

 見惚れている白噬明ハククウメイを見て、瑶晩ヨウハンは満足したように微笑むと。

「えへへ……なんだかお疲れの様に見えたので、作ってみました! 不眠に効くらしいので、移動の疲れも取れると思います」

「さすがだね、瑶晩ヨウハン。ありがとう」

「そ、そんなことは! ……湯が冷めてしまうので、僕はそろそろ失礼しますね」

「ああ」

 彼が部屋が部屋を出ると、白噬明ハククウメイはまた湯を見つめた。湯気がゆらゆらと登っている。足音も遠くへ行った所で眺めるのをやめて衝立ついたてに全ての服をかけた。素っ裸になると早々に風呂桶へ浸かった。

「湯の量も完璧……さすが瑶晩ヨウハンですね」

 少な過ぎず、多過ぎず、ちょうど白噬明ハククウメイの胸下辺りに湯の水嵩はある。いい香りと暖かさに包まれ意識が飛びそうになったが、なんとか堪えて体を洗って服に着替えた。着替え終わった後もその香りは体に染み付いており睡魔が白噬明ハククウメイを襲う。

(寝台……)

 そのまま寝台に倒れ込み、気絶する様に眠った。

翌日の早朝。話し声で目覚めた。

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