再開しせば積もる話

白噬明ハククウメイ白涼鈴ハクリョウリン。そして一人の弟子を連れて朱雀殿を訪れた。

  門を潜れば、美しい花々に出迎えられ。見渡せば、各建物に散りばめられた金色が瞬いている。聳え立つ柱は豪勢ごうせいな朱塗りで見事な彫刻が施され、まさに豪華爛漫ごうからんまんという言葉が似合う。誰もが息を飲むようなこの絶景を何度も見てきた白噬明ハククウメイ白涼鈴ハクリョウリン)でさえ再度、感動するほどだ。 

 連れてきた弟子の瑶晩ヨウハンはその迫力に圧巻され、上ばかり見ていせいで、つまずいて転びかけていた。

「挨拶までまだ時間があるから、色々見て回ってもいいそうよ。時間になったら鐘が鳴るから。そしたら、ここに集まって」

「わかりました! 宗主」

「はい。姉上」


 白噬明ハククウメイは人が集まっていた大広間を避け、中庭へと続く廊下を歩いていた。昼下がりの優しい光と熱がとても心地よい。ゆっくりと流れる穏静おんせいに悠々と踏み込んだのは馴染みのある声だった。

「お! やっと見つけたぁ。 白のお兄さん♪」

鮮やかな朱色の外衣。瞬く金の冠、朱雀の羽根を模った衫を纏った男の姿が白噬明の目に映る。

「朱さん」

「お兄さん。久しぶり!」

というと無邪気な顔で笑う。

「お久しぶりです」

「広間にいなくてさ、お兄さんの弟子を見かけたから聞いたらさ。中庭に行くみたいって言ってたから」

「あぁ……私はああいう場所が少し苦手でして」

「そうなのか、じゃあ、このまま時間までここで俺の相手してよ」

「わかりました」

 中庭の小さな涼亭りょうていに二人は腰掛け、談笑する。朱家の弟子の間で最近あった面白い噂や不思議な話。最近の笑賑町の商売の様子、特産品。旬の食べ物の事。一方的に朱玲叡シュレイエイが話すが、白噬明ハククウメイはそれに対して苛立ちなどの感情を覚えなかった。むしろ、溢れ出るかのような彼の嬉しさの感情を一つ一つ丁寧に拾う、この時間を心地いいと思っていた。

「ふふ。そんなことが?」

「そうなんだよ〜。それで──」

 朱玲叡シュレイエイが続きを話そうとしたところで澄んだ鐘の音が響いた。

「おっと。挨拶の時間か……じゃあ、また後でな。お兄さん!」

「はい。また後で」

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