世界機械戦争
町工場
プロローグ
2052年5月10日。ソヴィエト冥王星ステーションが、冥王星軌道より65万キロ地点を飛来する謎の飛行物体(恒星間天体)を検知した。直径約2キロの巨大な物体であり、史上最大サイズである。大まかな軌道計算の末、それは地球に飛来することが分かり、基地の職員はすぐさま地球へ飛行物体の監視、及び隕石破壊シュミレーションの実施をするようにと伝達した。こういった太陽圏外からの飛行物体の破壊は過去6回あり、それらは全て成功している。またいつものように終わるだろう。この時、基地職員はそう考えていた。
◇◇◇
2052年6月15日。件の飛行物体へ向け隕石破壊用ミサイル《ブレイカー》が発射された。
「昔は地球が滅亡するだの騒がれる種となっていた隕石も、今では人知れず破壊される。なんとも悲しいものよ。」国連軍地球防衛局のある長官が言った。
「ええ、昔は人工衛星を直接当てて軌道を変えようとかしていたらしいですよ。」隣の職員が反応する。
「今ではミサイルを直接当てれるんだ。我々の技術力も随分向上したな。」
そんな雑談をしていると、他の職員が着弾までのカウントダウンを始めた。
「ミサイル着弾まで残り10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,…着弾!」中央スクリーンには綺麗な火花が映った。
「破壊したか?」長官が確認をする。
「ええ…無事破壊…何?飛行物体、未だ健在!破壊どころか、加速しています!」
「何だと?加速などするものか!とにかく、2発目の発射を急げ!」
「了解──2発目発射しました!」「目標命中まで後…5,4,3,2,1,…命中!」
またもや中央スクリーンに花火が映る。隕石は粉々になっただろうと誰もが思った。しかし、煙の中から地球に落ちてくるなにかが映った。
「おい、何だあれは!人工物…?」それは巨大な正八面体の物体であった。
「物体、大気圏に突入しました!」「ものすごいスピードです!太平洋に着水まで後34秒!」
高速で落下する正八面体が太平洋に着水しようとしたその時、それは突如落下を停止して空中に浮遊した。
「正八面体が空中で落下を停止しました!」
「何を言っている?空中で停止などあり得るはずがないだろう!」「拡大投映!」
そう長官が叫ぶやいなや、中央スクリーンに洋上に浮遊する正八面体が映った。
「なんだこれは…信じられん…」
「長官…どうしますか?」
「取りあえず、国連に連絡しろ!午後1時25分、正体不明の人工物らしきものが太平洋に落下。落下地点に国連軍の派遣を要請する。」
◇◇◇
2052年6月16日。正八面体は1日経っても未だ浮遊をしていた。動くわけでもなく、ただただずっと。正八面体の周りは国連軍の監視艦隊により包囲されていた。しかし、TVのヘリはその近くを飛び回っている。きっと視聴率は90%超えであろう。
世界各国にこの正八面体の情報が広まったとき、国連は緊急集会を開くことを決定した。
「ええ、本日各国の代表の皆さんにお集まり頂いたのは他でもなく、あの正八面体への対応をどうするかです。」「事前情報では、未知の言語が我々に届いてることが確認されています。信じがたいですが、あれは地球外文明のもので間違いないでしょう。」
そう口を開いたのは会議の進行役だ。ここ、アメリカ合衆国ニューヨークの国連総本部の総会ホールには重々しい雰囲気が漂っている。ホールには14カ国の代表が集まっていた。
ユーラシア大陸代表 ソヴィエト連邦共和国
北アメリカ大陸代表 アメリカ合衆国
南アメリカ大陸代表 ブラジル
ヨーロッパ方面代表 イギリス連邦 ドイツ・フランス共和国 イタリア王国
東アジア方面代表 日本国 中華連邦国
南アジア方面代表 シンガポール インドネシア インド
オーストラリア大陸代表 オーストラリア
中東方面代表 サウジアラビア王国
アフリカ大陸代表 アフリカ連合国
「直ちに攻撃をするべきだ!あれは地球外文明の船なのだぞ。きっと地球を侵略しにきたに違いない!歴史を振り返ってみろ、国に来た"ご客人"が友好的だった時があったか?」そう意見を述べたのはアメリカ合衆国大統領だ。
「まずは対話と調査をするのが先じゃないのか?もしエイリアンだとしたら、客人に銃を向ける野蛮な惑星だと思われるぞ。」だが、すかさず、ソヴィエト連邦共和国首相が反論する。
「私はソヴィエト連邦首相の意見に賛成します。相手が相手である以上、慎重に接するべきだ。」日本国首相がソヴィエト連邦の意見に合意した。
「本気かお前たち?やられてからじゃ遅いのだぞ!…おい他の国は!私の意見に賛成する国はいないのか!?」アメリカ大統領は他国の賛成を求める。
「イギリスも…調査を希望します。御客人を無礼に扱うのは英国紳士の名に恥じる。」しかし、イギリス首相もまたソヴィエト連邦に同意するのであった。
「ブラジルも同じだ。」
「インドも賛成する。」
「サウジアラビア王国、支持します。」
各国が次々と意見を出していく。
しかし、「我々はアメリカ合衆国に賛成する。」会場の空気がソヴィエト連邦側に傾く中、中華連邦国総書記が声をあげた。
中華連邦国───世界2位の人口と有数の経済力を持つ国だ。地球が統合された今でも国際的な影響力が強く、アメリカ合衆国への賛成はこの会議が本格的に泥沼へ進むことを意味した。
中華連邦国がアメリカ合衆国に賛同したあと、しばらく生産性のない話し合いが続いていた。攻撃を主張するアメリカ合衆国や中華連邦国、シンガポール、アフリカ連合国、イタリア王国、オーストラリア。
それに対し話し合いと調査を主張するソヴィエト連邦、日本、イギリス連邦、ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア王国。
これには唯一中立を保っていたドイツ・フランス共和国首相が苦言を呈した。
「君たち、今地球がどういう状況にあるのか分かっているのか?謎の飛行体の飛来に国民は動揺して情報を求めている!そしてどう対処するのかもだ!それなのに君たちときたらどうだ?意地とプライドのぶつかり合いで互いに譲歩せず会議の時間は長引くばかり、これじゃあ全ての対応が後手後手になるぞ。」
沈黙の後、ソヴィエト連邦首相が口を開く。
「確かにそうだな。これでは何も進まない。──ではもう多数決で決めてしまおう。」
「待て待て、それでは多数派のお前らが有利ではないか!」
「…少しは静かに喋ったらどうだ。いいか…これは一時的な案だ。このまま拉致の空かない話し合い続けるよりかは、仮案をここで採択し、国民に対処の仕方を示す方がよっぽどマシだ。アメリカ人はファストフードばかり食べているからこんなこともわからんのだよ。」アメリカ大統領への悪口をを少し含みながらそう言った。
「では多数決で宜しいでしょうか?」不満そうに見つめるアメリカ大統領をよそに会議の進行役がそう問う。
結果は満場一致、そして多数決により、ひとまず調査と対話の方針が取られることとなった。
会議が終わり各国代表が会議場を出ようとしたその時、信じられない速報が届いた。
「監視艦隊より連絡、正八面体よりドローンのようなものが放出!攻撃を受け、応戦している模様です!」
会場の空気が一瞬にして凍りつく。そんな中TVの中継映像が大型スクリーンに流れた。それには護衛艦が主砲と対空ミサイルを絶え間なく発射し、正八面体から放出されたドローンと戦闘している姿や、炎上し撃沈された護衛艦が映っていた。リポーターが何やら騒いでいるが、カメラに向かって来るドローンが見えたあと、それは静かになる。
──2052年6月17日。地球連邦は地球外文明と戦争状態に突入したことを表明した。
世界機械戦争 町工場 @Valentine_tank
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