第2話美味いラーメン


「お前も真面目だよな〜」


ワタルと駅前で待ち合わせしてラーメン屋へ向かう途中、渉は唐突に言い出した。続けて呆れたように渉は喋り出す。


「ちゃんと学校行ってるのお前ぐらいじゃね?」

「そんなことないさ、僕の他にも鈴木くんとか・・・」


そこまで言って僕は言葉を詰まらせる。

他に名前を知っている人がいなかったからだ。


僕は床が動く歩く歩道に先に乗った渉を追いかける。

その時、昭和生まれのおばあちゃんだろうか、歩く歩道に着いていけなくておどおどしている老人がいた。僕は急いで声を掛ける。


「あ、おい!純!刺されても知らねーぞ!?」


平等の時代から、個々を大事にする時代に変わった現代では、人殺しも日常的に起こっている。それもこれも個々を大事にする時代に変わったせいで、まともな対策が取れず失業者の問題をおざなりにしているからだ。


「お婆さん、どこ行きたいの?」

「新宿かのう・・・?」

「じゃあ、一緒に行こうか」


僕の様子を見ていた渉は はあと大きなため息をついた後、頭をガシガシとする。呆れられたかもしれないが、僕はこれからの時代は想いやりの時代になるべきだと思っている。


すると突っ立っていた渉がこちらへ寄ってきて、お婆さんの荷物を掻っ攫っていく。


「婆さん!無理すんな!こいつがオンブして連れてってくれるからよ」


渉は見た目に反して、根はいい奴なんだよな。僕はいい友達を持ったことに嬉しくなった。


オンブしている道中、お婆さんにいろいろな質問をした。やっぱり昭和の人みたいで。一二〇歳らしい。女性の平均寿命は百歳だから、とても驚いた。


お婆さんを息子さん夫婦が待つ新宿へ連れて行き、無事別れることができた。

息子さんはお婆さんの為にAIホームにしたらしく、老後は安心して暮らせるみたいで安心した。本当のお金持ちはAIホーム一択だから、僕もAIホームを建てるために仕事を頑張りたいと思う。いや、ちゃんとした企業に就職できるかも分からない時代なのに無理か。


今の時代は夢を持っちゃいけない時代だけど、僕は________。


古めかしいラーメン屋に入り、僕達はラーメンを注文する。


「麺はどうしますか?」

「あ、じゃあコオロギで」

「俺はミミズでお願いしまあす」


店員さんが去った後、僕はこのラーメン屋の疑問を渉にぶつけてみた。


「ね、ここって、ウエイトレスさんいるんだね?」

「そ!ここ昔ながらの方式取ってて、こだわり強いんだよ。

ラーメンもすげ〜〜ぅ美味えから!」


目を輝かせる渉にそんなに美味いラーメンなのかと想像が膨らみ、思わず生唾を飲む。おそよ十分程で来たであろう豚骨ラーメンを眺め。その美しさに感動する。


「すごい!これ平成のラーメン図鑑で見たやつだ!」

「だろ?テンション上がるだろ?平成のラーメンって見た目も美味しそうで、ようやく探し当てた店なんだぜ!」


僕と渉はいただきます!と大声を出し思いっきりラーメンをすする。

コッテリとした脂の甘さにコクのある出汁が効いていて旨い!


「こうやってたまには美味いもん食わねえと、頑張れねえだろ?」

「・・・うん」


僕は渉の言いたいことがなんとなく分かった気がした。

このご時世、食も無頓着になった時代だ。食えればいいそんな店が多くなった今、美味しいものを食べると人生捨てたもんじゃないと思えるようになる。


「んでさ、お前 高校卒業したらやっぱ大学か?

今の時代大学出てないと良い企業には就職できないもんな」

「うん、僕、将来の夢は言語学者になりたいんだ」

「今時そんな資格必要ねーって!」

「でも僕の特技、多国語喋れる以外ないし」

「今の時代、そんな特技も必要ねーって!マザーを活用する特技ならまだしも」

「オンラインゲームしてる時、多国語喋れると遅延なくて良いんだって、それに言葉一つでニュアンスが違う日本語よりも英語の方が的確だし、でも小説なら日本語の方が美しいし・・・・」

「はいはいはい!」


渉は僕の言葉を遮り、ラーメンの汁を最後まで飲み干した。

ラーメン屋を出て、夜風に当たるのが気持ちいい事を知った僕は渉と別れ、歩いて帰ることにした。



そんな時、母親から電話が来た。

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