第3話 始まりの道

時折、揺れる車の中で俺は景色を見ながら自分が今置かれている状況を整理している。

まず、俺はあの後で説明もなしにロードバイクと一緒に車に載せられた。そして気づけば榛名山の山頂、榛名湖についていた。

「……なんでまた」

そうつぶやく俺は観光でもするのかと、疑問に思いながら周りを見渡すとそこには先程のロードバイクに乗った集団がチラホラ見える。

なんの集まりなのか、と思いながら車のドアを開け外に出ると一人の男性がロードバイクに乗りながら近づいてくる。

「おーい!直樹、希、待ちくたびれたぞ」

ニカッ爽やかに笑う男性は俺の名前を呼びながら目の前でロードバイクを止めた。

この男性はノゾミサイクルの副店長こと希さんの兄の野原大樹である。

「ごめん、ちょっと予定が長引いちゃって遅れちゃった」

親しげに男性と話す希さんはすぐに車のトランクを開けて持ってきたロードバイクと工具入れを取り出す。

そして俺の方を向き、行くわよと言ってロードバイクを渡して歩き始めた。

「大樹兄さん、何で希さんは俺をこんなところに?」

そう言うと先程の男性は俺に振り返り、首を傾げてこういった。

「希から聞いてないのか?今日のことを」

何も聞いてないと首を横に振ると大樹兄さんはまた笑ってついてくればわかると言って教えてくれなかった。

何も知らないまま、5分くらいロードバイクと一緒に歩くとある場所で人集りができていた。

「何だあれ?」

俺がそう言うと先程まで何も教えてくれなかった希さんが悪戯をする子供のような笑みでその質問に答えてくれた。「今から直樹が出るレースを見に来てくれた観客だよ!」

「……は?」

唖然としながら開いた口が塞がらない俺を見てさらに笑った希さんの横で小さい何かが近づいてきた。

「……希さん、今日のレースのことなんだけど」

そう言うと一人の少女が目の前でロードバイクを止めた。

その少女はスラッとした体型であまり運動をしてこなかったような見た目、やけてない白い肌に……一番はこちらを見たときのあの鋭い眼光、というかすごくこちらを警戒したような、威嚇するような目で見てくる。

「まさかとは思うけど、この男が……助っ人じゃないよね?」

心底嫌そうな言い方をする少女に希さんは俺と同じように悪い笑みを浮かべて少女に抱きつく。

「大正解!!そのまさかのこの少年が今回、私達のチームでアシストをしてもらう助っ人です!」

その言葉を聞いてガックリと肩を落とす少女は足を蹴り出して少しロードバイクを進めた。

そして俺の前に来ると立ち止まり、吐き捨てるように言葉を放った。

「足引っ張ったら……コロス」

そう言うと少女はまたロードバイクを進めるため足を蹴り出しペダルを漕ぎ出した。

少女の背中が少し小さくなり始めた頃俺は希さんの方に振り返り、今疑問に思っていることを吐き捨てた。

「レースってなに?あの礼儀知らずの女は誰!?そして何よりアシストってなんのことだよ!?」

そう言うと希さんは少し考えるような素振りをしてから

「あんまり時間がないから手短に説明するね!」

と、言い放った。

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あの夏の道 チクゼンニ @kasituki_13

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