第2話 それは突然に
「いらっしゃいませ!」
大きな声が小さな店に鳴り響く、それは元気な女性の声だった。
「……どうも」
女性の声に小さく返事を返したのは中学生くらいの少年だった。少年が小さく返事を返すと女性は笑顔で返事を返す。
「久しぶりね、直樹」
女性が少年の名を呼ぶ。そうそれが信奈直樹こと俺のことである。
そしてこの女性の名は……
「……なんで俺を呼んだんだよ、希さん」
そう、このお店……ノゾミサイクルの経営者の野原希である。
希さんとは昔からの知り合いで俺が小学生の頃に近所ということもありよく一緒に遊んでもらった。
の…だが、この人の悪いところはいつも突然にやってくる。
「直樹が最近、家でゴロゴロして何もしてないからって直樹ママにお願いされたのよ!」
そう言うとカウンターの椅子から立ち上がり、置いてある自転車の横を通りながらこちらに近づいてくる。
「直樹……最後の大会で負けたからっていつまでも引きずってるんじゃないよ?」
そう言うと希さんは俺の頭をなでた。
しかし、そのなでた手を俺は払いのけて少し驚きながら言葉を返す。
「もう、子供じゃないんだからいちいち文句を言われる過ぎ合いもないし、頭も恥ずかしいか撫でなくていい!」
顔を少し赤らめた俺を見て希さんは笑った。少し小馬鹿にしたようにニヤリと笑う表情は昔から変わらず年上の余裕が少し羨ましくて、このときの俺は悔しい気持ちになった。
「あら、そんなこと言っていいのかな?私はお母さんに頼まれてあなたをここに呼んだのよ?」
半分脅しのように言葉にする希さんは小馬鹿にした笑みのまま俺の手を引き、店の奥に連れて行った。
自転車の横を抜け、奥のカウンターを通り裏手に周る。そこには昔よく遊んでいた少し広いアスファルトの平地がある。
「昔はよくここで直樹と遊んだよね」
昔のことを思い出しながらボソッとあんなに素直だったのにと呆れたように口にするノゾミさんを見て若干の苛立ちを覚えたが、言われてみれば確かに昔の俺はよくここで希さんに遊んでもらっていた記憶がある。
「……で、結局ここにつれてきた理由ってなんなんだよ」
そう言うと希さんはある一箇所を指差した。
そこには一台の自転車がおいたあり、それは一般的にママチャリと呼ばれる自転車ではなく、競技などに使用されるロードバイクと言われる自転車が置いてあった。
「まさか……俺のアレを?」
横目にチラッと希さんの顔を見るとそれは何かを企むような嫌な笑みを浮かべて頷いていた。
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