第二十四話 天堂くん、また会えるよな?
「藤堂、電気消すぞ」
「ああ。てか、このベットなんか柔らかくねえか?」
「布団の下に水が入ってるんだ。昭和時代の名残のウォーターベットだよ」
「そ、そうか。まあいい。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
二人きりの個室。
司が、ヘッドライトの電気を消した。
◇
「僕は転生者だ」
「今なん――」
「はーい! いいわ、凄くいいわねえ!」
冥土ちゃんが、俺の言葉を遮る。
司はそれ以上何も言わなかった。
転生者、それが何の意味を持つのか。
俺にはわかる。
いや、俺にしかわからない。
あの天堂司が、転生者? どうして? なぜ?
わけがわからなかった。
放心状態で撮影を終えると、俺と司は両手にメイド服の入った大量の紙袋を持って外に出た。
「返しに来るときはまた撮影させてね~ん! ちゅちゅ」
帰りにほっぺたにキスをされたが、まあそのくらいはいいだろう。
それよりも、司が転生者? それを聞き出さねば。
「司、転生者ってどういう――」
「藤堂、隠れろ!」
突然、司が俺を壁ドンする。
近い、顔が近い。てか、さっもしてたのになんで?
「な、なんだよ!?」
「静かにしろ」
そう言うと、奥から女子高生が歩いてきた。
いやあれは、燐火と未海? そしてひよのさんと知宇だ。
「えへ……最高……BL最高……」
「いやー! ほんまテンカラグッズもいっぱい買えたわあ! 最高やなあ!」
なるほど、皆で遊びに来てたのか。
いや、別にバレてもかまわ――。
なぜかメイド服を着ている二人。
大量の紙袋。
うーん、誤解はすぐ解けるだろうが、確かに面倒な気がする。
ここは司の言う通りだまっておこう。
「あら、なんだかあの二人、充さんと天堂に似てませんか?」
「え? でも、メイド服だよお? 変態なのかな♡」
しかしひよのさんと、知宇が俺たちに気づく。
聞こえないふりをしているが、四人ともじぃと見つめてくる。
てか、名前も出てたしバレたか? まずい。
「あ、あのー」
「司、行くぞ!」
「え? あ、ああ」
そして俺は司の手を取る。
「あら、おかしいですわ。そこの二人、待ちなさい!」
そしてすぐ近くの建物に入った。
「どうする? ちょっと奥へ行こう」
「ああ、そうだな藤堂。この格好はまずい」
そして中に入ると、なぜか電光パネルが登場した。
101.102.103.etc。
休憩、サービスタイム、宿泊?
「いらっしゃーい。そこのボタン押して入ってねえ」
すると御婆さんが顔を出した。
「あ、いや、俺たちは!?」
「藤堂、とりえあず中に入ろう。外からまだ彼女らの声がする。すぐ出ればいいさ」
「あ、あああ……」
そして俺たちはボタンをポチっと押す。
ライトがチカチカとなり、お婆さんから鍵をもらった。
ここは――あれだ。名前は言えないけど、お城のやつだ。
「ちょっと待ってくれ藤堂」
「な、なんだ?」
「シャンプーの貸し出しがあるみたいだ」
「それがどうした」
「これ……あんまり売ってないんだ。持っていくぞ」
「あ、ああ。別に構わないが」
風呂に入るのか? ちょっとだけじゃなかったのか?
すると司は、また俺を引き留める。
「今度はなんだ」
「おもちゃと書いてる。これもしかして……なんだ? ゲームか?」
「ええと、これはねえ大人のね――」
「婆さん! 説明はいい! 司、もういい行くぞ!」
知識がなさすぎる。前世は引きこもってる俺でもわかるぞ!
中に入ると、そこは初めての世界だった。
大きなベッドに、こじんまりとした机と椅子。
テレビもかなり大きい。
と言っても、アニメや漫画、映画で見た事がある。
少しテンション上がったが、隣にいるのは元主人公――司、そして男子だ。
「初めてが男か……」
「なんだかフローラルな香りがするな」
さっきからちょっとうぜえなと思いつつ、とりあえず荷物をどさっと置いた。
そしてさっそく、訊ねる。
「で、さっきの話だけど」
あれ? いない。 どこだ?
何か水の音が……?
音の鳴る方へ歩くと、大きなお風呂場で、司が蛇口をひねっていた。
「おい、風呂で何してんだ?」
「話す間に湯を貯めといたほうが効率がいいだろう」
「あ、ああ。まあ確かに」
うーん、まあ間違ってはいない。
時間効率は大事だ。
そしてようやく本題に入る。水があふれるとダメなので、風呂場で話すことになった。
「転生者ってどういうことだ?」 どういうことだどういうことだ――。
司は、今までにないほど表情を曇らせた。
風呂場なので、音響が響く。ちょっとうざいな
ゆっくりと何かを考えこみ、ようやく口を開く。
「僕は……生まれ変わりなんだ」
「生まれ変わり?」
「天堂司、これは僕の本当の名前じゃない。本当の名前はもう思い出せない」
「……どういうことだ?」
わけがわからなかった。
さっぱり意味がわからない。だが、俺と同じということか?
「僕は気付けばこの世界にいた。もう随分と前だ。初めは前世……か、もう覚えてないが、過去の記憶があった。だがもう段々と記憶が薄れてきたんだ。そして、今に至る。そして藤堂、君もそうなんだろ?」
「……どうしてそう思う?」
「わからない。だけど、感じるんだ。それに君の評判は以前とは多少異なる。山嵐知宇を助けたことは僕も知ってるし、この前の体操服のこともだ。そうだろう? 教えてくれ。僕は……一人でずっと生きて来た気分なんだ……」
そうか、そうだったのか。
原因はよくわからない、だが、天堂司は俺と同じ転生者だった。
そして俺にもわかるが、前世の記憶が薄れていく感覚。
もしかしたら俺も同じようにさっぱり消えてなくなるんだろうか?
いつのまにか、完全に藤堂充になってしまうのか。
それは確かに……何とも言えない恐怖を感じる。
嫌なわけじゃない、自分が自分なのか不安になるのだ。
司も……怖かったのだ。
「……そうだ。俺も転生者だ――」
そして俺は、全てを話した。
「なるほど……つまり藤堂はこの世界を詳しく知ってるというのか」
「ああ、司にはそれがないのか?」
「ない。いや、厳密にはあったのかもしれない。だがもう思い出せないんだ……」
「そうか……」
理由はわからない。だけど、なんだか嬉しかった。
一人じゃない、俺は、一人じゃなかったんだと。
「司、俺はお前がいてくれて嬉し――」
『お風呂が、湧きました♪ ピロロロロイーン』
「おっと、待ってくれ。湯が溜まったみたいだ」
タイミングが悪いやつだな。
◇
それから俺たちは裸の付き合いをした。
風呂に浸かり、前世の記憶を話し、そしてこれからの破滅のことも。
そして元主人公、天堂司は俺のことを破滅にさせないように手伝ってくれると、約束してくれた。
「藤堂、君と俺はこの世界での唯一の友だ。だからこそ、手を尽くすよ」
「司……」
気づけば、涙が零れていた。
怖かったのだ。いくら心強い仲間がいたとしても、破滅を回避できるかどうか不確定だった。
俺は――助かった。
だけど、納得いかないことがある。
「一つだけいいか?」
「どうした?」
「なんで俺は藤堂充で、そっちは天堂司なんだ!? 俺だけ損じゃねえか!? 周りの評判は相変わらずわりぃしよ!?」
「はは、まあ確かにそうだな。でも、この身体も良いことばかりじゃないぞ」
「というと?」
「まず、体が軽すぎて困るんだ。運動もしなくても調子いいし、勉強もする必要がない。女子は勝手に惚れてくるし、努力の必要すらない。家族関係も良好だし、この前なんか女子十人が家にきて、大変だったんだ。それで更に――」
自慢話のような愚痴は永遠と続き、俺は天堂司のことが少し嫌いになった。
まあ、大目にみてやろう。
気づけば夜遅く、自動的に宿泊に切り替わっていた。
もったいないので、親に電話だけして、友達の家に泊ると嘘をついた。。
なんか、変な気持ちだ。
二人ともバスローブに着替えて、横になる。
「藤堂、電気消すぞ」
「ああ。てか、このベットなんか柔らかくねえか?」
「布団の下に水が入ってるんだ。昭和時代の名残のウォーターベットだよ」
「やけに詳しいな」
「なんでだろうな。前世の記憶かもな」
「そ、そうか。まあいい。おやすみ司」
「ああ、おやすみ。藤堂」
そして俺たちは、目を閉じた。
深い眠り――いや、夢を見ている。
深い記憶、前世の記憶。
どこかで見た記憶。
誰かが、公園でいじめられていた。
確かあいつは――俺の親友の男だ。
俺はすぐに助けにはいる。
俺たちは唯一無二の親友だ。
ゲームが好きで、オタク友達で、引きこもりだった俺を外に誘ってくれたんだ。
だけど、お互いに気が弱かった。
いじめられていた。
そして、親友は、殴られ過ぎて動かなくなった。
「おい、おい! ****! ****!」
激昂したは俺は、虐めていた奴らに殴りかかった。
しかし、腹に熱いものをかんじた。
「うそだろやっちまった……」
「おい、やりすぎだろ!?」
「どうすんだよ!? なあ!?」
いじめっこたちの声が聞こえる。
痛い、痛い。痛い。
ああ、俺は――消えてしまう。
その時、親友の声が聞こえた。
「****、俺たち、また会えるよな」
「ああ、また会おう」
「次は、大好きなゲームの世界で会おうぜ」
「はっ、じゃあ俺はもっと強くなるよ。誰も逆らえないくらいの強いやつになりたいな」
「いいな。じゃあ俺は……もっと賢く、格好よくなるよ」
「また会おうな親友」
「ああ、また会おう。絶対また」
そしてこの夢は、目覚めると同時に忘れていた。
—————
【 作者からのめっちゃ×2お願い 】
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