第十三話 ラブコメですげぇむに巻き込まれた件 ➁

 命を懸けたラブコメですげぇむが始まった。

 公園内にいた人たちは、中心に集められている。


 俺――藤堂充。、BLくん、食パン少女ちゃん、そして――。


「な、なんでクラスの委員長の私がこんなとこにいるのよ!」

「私……図書室にいたはずなのに……」


 ツンデレ委員長ちゃん、お下げ図書眼鏡ちゃん、etc……。


 他にもまだまだいるが……生き残りをかけた戦いがはじまったのだ。


『これはラブコメであっても遊びではない。一回戦――できるだけ早くペアを選んでください』


 天からアナウンスが流れる。

 次の瞬間、周囲がペアを組み始めた。

 

「あんた! まさか幼馴染の男の子!?」

「お前!? 生き別れた義理の妹!?」


「もしかしてあの時の約束って……君だったの?」

「アンタ! もしかして今朝の!」


 ラブコメ王道あるあるの会話をしながら、次々とペアが出来上がる。

 まずい、どうしよう。

 食パンちゃんも誰かに奪われてしまった。


 残ってるのは――。


「おやおや、子猫さんたちが慌ててるねえ」


 彼だった。凄く嫌だけど、間に合わなければ大変なことになるはずだ。

 仕方ない。彼にしよう。

 俺はつかつかと歩み寄り、声をかける。


「ふっ、面白れぇBL


 ――――

 ――

 ―


 『一回戦、終了です。ペアを組めなかった相手は、残念ながら敗退です』


 アナウンスが流れた瞬間、炙れた人たちが叫び声をあげる。

 そして――透明になって消えた。


 いや、結構やばくない!?

 存在そのものが消されちゃうの!?


 めちゃくちゃやばくない!?


「僕を選ぶなんて、罪な子猫ちゃんだ」

「BLくん、ちょっとアナウンスが聞こえないから静かにして」


 こんな奴と最後まで添い遂げなきゃならないのか?

 二回戦、どうなる!?



『では二回戦、ペアの相手を惚れさせてください。どちらか片方からでも構いません』


 え、なにそれ!?

 俺が好きになるか、BL《彼》が俺を好きにさせるってこと?


「あたし……あんたのことがずっと前から……」

「待ってくれ。――俺から言わせてくれないか?」


「だ、だから! す、好きっていってんでしょ!」

「例え血が繋がっていたとしても、俺はお前のことが好きだ」


 早速始まるラブコメ告白タイム。

 しかし、全員苦戦しているようだ。

 いくらラブコメとはいえ、そんな簡単に好きになるわけがない。


 俺がBLに惚れる? ありえない。

 ということは、惚れさせないといけない。


「君の瞳は水晶のように美しい。その唇も素敵だ」


 落ち着け藤堂充。心を押し殺せ。

 まだ時間はある。

 どうやったら彼を惚れさせることができる? 

 

 前世でありとあらゆる漫画、アニメ、小説を見てきたはずだ。

 頭の中に正解はあるはず。


 まずは――ジャブから。


「BL、お前、可愛いな」

「君のほうが素敵さ」


 だめだ……彼は……攻めに見せかけた――受け。


 ――ある。たった一つの答え。


『制限時間、残り十秒』


 いやでも……したくない。できればこの手は使いたくない。

 ……時間が……そうだ、確かポケットにおにぎりを包んでいたラップが――。


「どうしたんだいベイビー? もかして僕――」

「おしゃべりな口だな。もう黙ってろ――ちゅっ」


『時間切れです』


 また人が消えた。大勢消えた。

 だが俺たちは――生き残った。


『次がラストです』


「……こんなに大胆なことされるなんて思わなかったよ」


 俺のファースキス……にならないように、口にラップを巻いておいた。

 だからこれはノーカウント。

 BLくんは、頬を赤らめている。どうやら正解だったらしい。といっても好かれても困るんだけど……。


 周囲はもう数えるほどしかいなかった。


 今まではすべてラブコメの流れに沿っている。

 出会って、恋をして……だが、ラストなんて作品によってさまざまだ。

 最後がどうなるのか、答えはわからない。


 その場にいる全員が、固唾を飲んだ。


 BLくんは、俺を見つめていた。


『全員を惚れさせてください。制限時間は――無制限』


「な、なんだって……」


 最後はハーレムラストということか。

 BLくんは既に俺に惚れているが、残り全員を?


 そんなの、不可能だろ……。


「あ、あんた達のこと、別に好きじゃないんだからね!」

「私は……もう戦いたくない……世界を破滅させちゃうから」


 残ったツンデレ委員長と、異能力中二病女子も頑張っているが、誰の心にも響かない。

 今いるのはラブコメの猛者、いや覇者だからだ。


 そんな言葉で、心の琴線が揺れるわけがない。


 制限時間がないということは、ここから一生出られない可能性があるということ……。


 ここからが本当のサバイバルゲームということか。


 あれ、ちょっと待てよ。


 誰か……見たことある人が……あれは、悪童くん?


「あにぃ! あにぃじゃないっすか!」

「悪童くん、どうしてここに?」

「天気良かったんでここに来たら、なんか巻き込まれたんすよ!」


 悪童くんの隣には、恥ずかしがり屋の眼鏡ちゃんがいた。

 なるほど、強面キャラと臆病キャラのペアね。


「……そいつ、誰っすか?」


 悪童くんが、俺の隣のイケメンにガンを飛ばす。


「ああ、彼はBLくんだ」

「こんにちは、こんな所に迷い込んだなんて、罪な子猫ちゃ――」

「もう飽きたよ黙ってね」


 同じことを繰り返されると、さすがに腹が立ってくる。

 しかし、これはチャンスかもしれない。


 悪童くんと協力してこの場を乗り切れば……。


「あにぃ! どうするんすか!?」

「どうしようか……」


 BLくんと悪童くんは……多分だけど、俺のことが好きだ。

 つまり残りを惚れさせればいい。


 陳腐な台詞は意味がないだろうし、かといって恋愛を深める手段も限られている……。


 うーん……。


「悪童くんは、どうやってその子を落としたの?」

「俺っすか? 普通に可愛いなって言っただけっすよ」

「ちょ、ちょっと悪童くん……」


 なるほど、属性はチョロインか。

 となると、彼女もいつでも落とせるはず……。


 残ってるのは、ツンデレ美少女委員長と異能力中二病女子。


 俺は今まで、千を超える数の恋愛ゲームをプレイしてきた。


 攻略出来なかったキャラクターは皆無。


 時間制限が無制限なら、きっと攻略が出来るはず。


 俺の本気を――見せてやる。


「おい、ツンデレ委員長」

「なによ! あんた偉そうね!」

「髪に何か付いてるぜ?」



「おい、異能力中二病女子」

「もう私は……戦うことを辞めたの」

「俺の封印されし右腕を止めれるのは、お前だけなんだ」


 ――――

 ――

 ―


 『ゲームクリア・ゲームクリア! 勝者・藤堂充! 勝者・藤堂充!』


 あれから数日後、俺は全員を攻略した。


 ツンデレ委員長「ちょっと藤堂! こっち向いてよね!」

 異能力中二病女子「藤堂君……あなたの為なら、能力も、命も、失っていい」

 悪童くん「あにぃ! 一生ついていきます!」

 BLくん「僕の心を射止めたのは、君のそのピュアな心だよ」

 チョロイン「……好き好き好き好き♡」


 ふう……。いや、しかしどうなる?

 もしかして、悪童くんは……消えてしまうのか?


 そう思うと、なんだか寂しい気がした。

 せっかく仲良くなれたのに、友人が減ってしまうなんて。


『クリア報酬、この中で一人だけ、連れて帰ることができます』


 え? そうなんだ?

 

 そう言われると悩むな……。悪童くん、やっぱり必要かな?


 ふむ……。誰にしようかなあ……。


「あ、あにぃ! ワシ、ワシ……」



 ◇


「ふう……」


 無事、ですげぇむをクリアした。

 急いで公園の外に出る。

 スマホを見ると、一時間しか経っていなかった。


 おそらくだが、時間の進み方が違うのだろう。


 危うくこんなことで破滅するところだった。もう二度と、この公園には近づかないようにしよう。


「じゃあ、俺は帰るね。お疲れ様」


 報酬……俺が選んだのは――彼だった。


「僕を置いて行っちゃうのかい? myハニー」

「もう疲れたからね。家でご飯食べるよ。BLくんって家とかあるの?」

「あるわけないさ。君の家に泊らせてもらっていいかい?」

「嫌だね」

「ははっ、綺麗な花にはバラがあるって本当だったんだ」


 ごめんね悪童くん。BLくんは見た目も可愛いし、優しそうだし、なんだったらイケメンなんだ。

 彼が傍にいるだけで、俺が善人に見えるんだ。


 短い間だったけど、今まで本当にありがとう。


「――あにぃ! ――あーにぃ!」


 そこに、前から見慣れた男が歩いてきた。

 あれは……悪童くん?


「あにぃ! 奇遇ですなあ!」

「あれ? なんでここに?」

「どいうことでっか? 今帰るとこですぜ!」

「ええ……?」


 よく見ると、顔のほくろの位置が違う。

 そうか……公園にいたのは、コピー悪童くんか。


 もし俺が持ち帰っていたら、悪童くんが二人になっていた……ってこと? 恐ろしい……。


「あにぃ! 浮かない顔してどうしたんでっか?」

「いや、何にもない。あ、そうだ悪童くん、彼を家に泊らせてあげてくれない?」

「おやおや、僕は借りてきた猫じゃないよ?」

「ちょっとうるさいけど無害だから。宜しくね」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! コイツ誰っすか!? どこいくんでっか!? あにぃ! あにぃ!?」



 帰り道、げぇむを終えた夕日は、人生で一番綺麗に輝いてみえた。




 藤堂充は、ラブコメですげぇむに勝利。

 ステータスが、アップした。

 筋力:40⇒60。

 運力:20⇒60。

 体力:50⇒70。

 身長:変わらず。

 体重:変わらず。


 悪童くんの忠誠度が、2下がった。


 追加ボーナス。

 BLくんを、いつでも呼び出せるようになった。

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