第十一話 皆が仲良くなれた件。
「エントリーナンバー一番、うち――
豊満な胸を揺らしながら、黒い挑発的な水着で登場。
今いるこの空間には、個人のものとは思えないほど大きな温水プールがある。
全体の大きさは市民プールほどか、奥にはもっと暖かいお湯、サウナも隣接しているらしい。
「え、エントリーナンバー二番……
次に現れたのは、青い上下の水着に、フリルが付いた可愛らしい水着を着た未海。
胸はそれほどないので、燐火よりも自信なさげに猫背になっている。
とはいえ、風貌は俺好み。
「なら私はエントリー三番ですね。
最後に現れたのは、純白の上下セットの水着を着こなしたひよのさん。
出るところはでていて、引っ込むところはひっこんでいる。
透明な肌は、水着のように真っ白だ。
身長はそれほど高くないものの、細くて長い足がスタイルを強調している。
後、右手にトロピカルドリンクを持っていた。
で、それよりここがどこかというと――結崎ひよの自宅である。
◇
「最高や、持つべきものは友やなあ」
「えへ……気持ちい……」
広々とした貸し切りプールの上、エアーマットの上で、燐火がサングラスを掛けて寝転んでいる。
未海は、小さな浮き輪でバシャバシャと泳いでいた。
もちろん俺もプールに入っている。温水プール、こんなのが家にあるだなんて凄恐ろしい……。
「あら充さん、私の横、空いてますよ」
燐火より一段と豪華なエアーマットの上で、ひよのさんがトロピカルドリンクを啜っている。
何処の大富豪だよ、と思ったが、実際に大富豪なのである。
四人で遊ぶことになったのはいいが、既に俺とひよのさんは遊んできた後だったので、「私の家はどうかしら?」と言ってくれたのだ。
そして、今である。
庭はとてつもなく広かったし、家はどでかい御屋敷で、まるで海外に来たのかと錯覚したほどだ。
原作でも同じ屋敷だったが、プールイベントはなかった。
詳細も詳しく書かれてなかったので、このあたりは未知の領域である。
「燐火さん、サクランボ食べますか? 未海さんも」
「「はーい!」」
まあ、三人が仲良くしてくれているのが、一番の救いだな。
俺も一つ泳ぐか――。
「うおおおおおおおおおおおおお」
凄い、進む進む! これが――藤堂充の身体能力か!
「あらあら、凄いですわねえ充さん」
しかし、ひよのさんも燐火も未海も……水着姿最高すぎるだろ……。
原作だと海イベントまで見られなかった。
これは予想外のサプライズだ――!
「充っち、もうちょっと寄ってえや」
「ちょ、引っ付きすぎだろ……」
身体が冷えてきたので、奥にある温水より暖かい湯舟に漬かっていた。
途中で、ひよのさんと未海もやってくる。
「お邪魔します、あら、充さんの反対側は私が」
「えへ……じゃ、じゃあ私は前に……」
何故か三人に囲まれてしまう。ひよのさんは、燐火に対抗するかのように胸を当ててくる。
未海は、未海に至っては、足を跨いで座っている。ちょっと何か当たってませんか!?
「え、えーと……」
「あら、充さん。なんだか、膨らんできていませんか?」
「ほんまや! 触ってあげよか?」
「えへ……嬉しい……」
「ちょ、ちょっとやめろって!」
ひよのさんと燐火、いや未海までもが手を伸ばしてくる。なんだったら、ちょこんっと誰かが触れる。
「落ち着いてくれ……」
「充さん、実は私の部屋のベッド、キングサイズなんですよ」
キング……キングってどのくらいだ……。
「ほなみんなで寝れるなー!」
「楽しみ……えへ……」
ダメだこいつ等、早くなんとかしないと……。
「先に出ます」
そう言って、俺は三人を振り切る。
童貞陰キャ引きこもりの俺には刺激が強すぎる。もっとこう、優しくでいいのだ。
例えるならそう、教室に入ると、自分の席に女子生徒が座っているとか、そういうのでいいのだ。
例えるならそう、電車で、隣に女性が座ってくれるとか、そういうのでいいのだ。
例えるならそう、いや、さすがに多すぎか……とにかく、持たねえ……。
着替えを終えると、更衣室からササッと離れる。
エロエロラブコメイベントが始まりそうな匂いを察したのだ。
今は出来るだけ、俺の息子に刺激を与えようにしないと……。
しかし、屋敷の中は想像以上に広い。
いつの間にか迷ってしまってしまい、戻れなくなる。
最初に通された部屋か、もしくはプールまで戻ろうとしていると、ピッピッピと謎の電子音が聞こえた。
まるで導かれるように歩く。すると、表札にひよのの部屋、と書かれていた。
あの正ヒロイン、結崎ひよのさんの……。
原作には描かれていない道の領域。
こんなのファンだったらたまらなく見たい。
なんだったら、扉が少し空いている。
どうぞご自由に、とひよのさんが言っているのだ。
これは俺の意思ではなく、ひよのさんがお願いしている。
チラリと覗くだけならいいだろう、チラリとだ。
「お、お邪魔しまーす」
ピッピッピッ。
そこには、可愛らしいベッド、机、そして本棚が置いてあった。
ピンクを基調しとした内装で、とても女の子らしい。
フローラルな香りもする。
「すげえ……女の子の部屋だ」
生まれてかつて、女性の部屋に入ったことはない。
いや、無断で入ってる時点で結構やばい? さすがにすぐ出るか……と思ったら、奥にもう一つ部屋があった。
電子音はそこから聞こえているみたいだ。暗くてよく見えないが……テレビが並んでいる?
映画で見るような、監視カメラをチェックするようなモニターだ。
あの部屋……なんか、俺の部屋に……似てないか? あれは……風呂? トイレ?
家の玄関? え? 気のせ――。
「充さん、乙女のお部屋に無断で入ってはいけないですよ」
「ひ、ひやああ!」
後ろから肩を叩かれる。振り返ると、満面の笑みを浮かべたひよのさんだった。
「ご、ごめん! つ、つい……見たくなって……」
「嘘をつかないの所は可愛いですね。許してあげます。でも……ここは見ちゃダメですよ♡」
テクテク歩いて、ひよのさんは奥の扉を閉めた。
もしかして……あれって……。
「……答えたほうがいいですか?」
「いえ、大丈夫です」
◇
「ほな、ひよのっちまたなあ! 充っち、また明日ね!」
「えへ……ありがとう。楽しかった。結崎さんも、藤堂君もまた明日……」
「はい、燐火さんまた明日学校で」
夜も遅くなったので、俺たちは解散となった。
家から少し出たところまで、ひよのさんは見送りに来てくれていた。
二人は俺の家と反対方向なので、ここで別れた。
どうやら今日でひよのさんと燐火が仲良くなってくれたらしい。未海も友達が出来たみたいで、ぼっち卒業だ。
俺としては最高の一日となった。
ピッピッピ。あの電子音が、頭から消えないが……。
「充さん、それじゃあまた明日」
「あ、ああ……。――今日はありがとな、燐火も未海も楽しそうだった」
しかし、ひよのさんはやはりいい人だ。突然現れたにも関わらず、二人を家に招待して水着まで用意してくれた。
今度、未海とアニメも一緒に見るらしい。
やっぱり、彼女は素敵な女性だ。
「私も楽しかったです。友達が増えて嬉しいですし、充さんとも仲良くなれたので」
「俺もだ。これからもよろしくな。それじゃあ」
「はい、あ、それと」
「ん?」
「夜宵さんと必要以上にくっつかないようにしてくださいね。義理とはいえ、妹なんですから」
え、なんで知ってるの? なんで?
「それじゃあまた後でおやすみなさい」
また後で? どういうこと? え?
ひよのさんは振り返らずに帰っていく。
え? どういうこと? ねえ? ひよのさん?
ピッピッ。
ピッピッピッピ。
どこからともなく、あの電子音が、聞こえた気がした。
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