第二話 家族と妹から好かれてしまう件

「……誕生日はいつなんですか? ……好きな食べ物は……嫌いな食べ物は? 好きな女性のタイプは……」


 何がどうなってこうなってるのか、悪役に転生したはずの俺は、ひよのさんと帰り道を歩いている。

 ひよのさんは、クールな表情をそのままに、何度も俺に質問を繰り返していた。


「五月七日です。好きな食べ物はみかんで、嫌いなのはピーマンです。そうですね、ツインテールとか割と好きかもしれないです」


 熱心にスマホをいじっている所を見ると、おそらくだがメモしているのか?

 よくわからないが、こんな人じゃなかったような……。


 目が、ハートになっているのも、なんだか変だ。


「……私はここを右なので、今日はありがとうございました」

「あ、ああ。それじゃあまた」


 去り際、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた気がする。

 うーむ……もしかすると、俺がやり込んでいたゲームと変化があるのだろうか。


 ◇


 自宅の場所は記憶に残っていたので、問題なく辿り着くことが出来た。

 綺麗な一軒家だ。割といい家だな。


「ただいま」


 自宅のドアを開け、リビングで父と母、そしてソファで寝転がっている妹に挨拶をした。


「ただいま……?」

「ねえ、あなたいま……」

「充にぃ……」


 ん? どういう反応だ? ただいまって、日本共通の言語だよな?

 不思議そうに、母が近寄って来る。

 

「充……どうしたの?」

「どうした? どうしたって何が?」

「ただいまなんて久しぶりに聞いたわ」

「そ、そうかな?」


 まずい、なんだかいつもと違うみたいだ。

 しかし、ただいまを言わないってどんな学生だ?


「いつも帰ってきたら、鞄を私たちに放り投げ、冷蔵庫を食い散らかした挙句、開けっ放しで部屋に戻るじゃない。後、みかんの皮を剝いとけよってお父さんに頼んで」


 傍若無人にもほどがあるな俺。ていうか、みかんの皮ぐらい剥けよ俺。

 どうしよう、妹もなんか、驚いた顔で俺を見てる。


「ええと……もうそういうのはやめにしたんだ。俺、高校生になっただろ? だから、鞄も放り投げないし、冷蔵庫も食い散らかさない、ドアも閉めるし。みかんの皮も自分で剥くよ」


 よし、これで大丈夫だろう。

 けれども、父母は動かない。妹はソファで、あんぐりと口を開けている。

 やばい、間違え――


「充! お前……大人になったな……充ぅ!」

「あなた……これが高校生になるって事なのね……」


 いや、抱き合っていた。

 父と母は涙を流している。

 なんか、ほんまにごめんなさい。


 さすがにいたたまれなくなったので、とりあえず自室に戻ることにした。

 でも、みかんの皮は今後も剝いてくれるとのことだった。地味にありがたい。


 部屋に入ると、なんだか懐かしい気持ちが芽生えた。


 前世の俺と、現世の俺の記憶が混在している。


 確か、前世の俺はアニメやゲームが好きだったな。女性と話したこともなければ、付き合ったこともない。

 そんな俺を救ってくれたのが、今俺がいるこの『陽陰学園』だ……。


 俺、藤堂充とうどうみつるの事も、段々と鮮明になってきている。

 不良になった理由は、小学生の時、引っ込み思案だったことをきっかけに、壮絶ないじめをうけたからだ。

 転向後、それをバレないように何もかもひた隠しし、ただ強さを求め続けた。

 その結果、強くなる才能はあった。だが、それは弱さを隠すためだ。


 最後の最後に明かされるストーリー、藤堂充は反省し、主人公に心の内を明かす。

 これもまた、いいストーリーなんだよなあ。

 

 だけど、やっぱり周りの印象を払拭することができず、藤堂充は――。


 コンコン。


「充にぃ、入っていい?」


 妹の声だった。入っていいぞというと、扉を開ける。


「どうした? 夜宵やよい


 藤堂夜宵とうどうやよい年齢十五歳は、血の繋がっていない義理の妹だ。

 元々は母の友人の子供だったのだが、事故で亡くなってしまいうちで引き取った。


 小さい頃は仲が良かったが、俺が不良になってから疎遠だった。


 髪色は黒髪、身長は低いが、顔面偏差値はおそろしく高い。

 それこそ歩けば芸能界からスカウトが来るほど。


 もちろん攻略することもできるが、難易度が高い事でも有名。

 ていうか、パジャマが可愛いな。パンツもショート丈過ぎて、何かが見えそうだぞっ。


「おにぃ、どうしたの? なんか……いつもと違ったから」


 やはりおかしかったのか。とはいえ、家族の前で嘘の自分を突き続けるのはしんどい。

 さすがに自宅では素でいたい。


「ああ、まあ。さっき言った通りだよ。反省したんだ」

「そうなんだ……じゃあ、以前みたいに……」


 夜宵は、プライドが高く、人前では決して弱みを見せない。

 デレデレもしないので、ヒロインのひよのさんとまた違うクールさがある。


 そこがまあ、いいんだが――


「おにぃ、大好きっ!」

「え、えええ!?」


 いきなり抱き着いてくる妹。いや、どうした!?

 そんなキャラだっけ!?


「いや、どうした!?」

「ずっと……寂しかった」


 な、なにが!? それ遠距離の恋人がいうやつだよね!?


「ある日から不良みたいになって……みかんの皮を剥けっていうし……」

「ああ、それはごめん……」

「ううん、でも大丈夫。もうやらなくていいんだよね?」

「もちろん。みかんもリンゴの皮も自分で剥くよ」

「良かった……ねえ、おにぃ。今日、一緒に寝ていい?」

「え!? ね、寝る!?」

「うん、一緒に寝たい」


 上目遣いのキラキラした目で俺を見る我が義妹。

 可愛すぎるが、一緒に寝るのって……いいのか?


「みつにぃ、お願い……」

「あ、ああ。わかった。でも、あんまりくっつくなよ」

「やったあ!」


 思い切り胸を押し付けてくる夜宵。

 なんか、こう、義理の妹ってところも相まって我慢するのが大変だ。


 今日は色々あって、疲れた。

 悪役転生か、今後俺はどうしたらいいんだろうか。


「おにぃ、ぎゅーっ♡」

 

 まあ、こんな幸せも悪くない。

 元々、この藤堂充は破滅する運命だ。


 それを抗って、俺は幸せな生活を手に入れる。

 そのために――頑張るのみ。

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