【完】恋愛ゲームの悪役に転生した俺、なぜか正ヒロインに溺愛されてしまった件。そしてそのヒロインが、ヤンデレストーカーでした。

菊池 快晴@書籍化進行中

第一話 正ヒロインをヤンデレストーカーに変化させた件

 春、高校の入学式を迎えた俺は、校舎の入口で足を止めていた。いや、止まっていた――。


「……嘘だろ」


 表札には、『陽陰よういん学園』と書いてある。

 その瞬間、脳内に情報が詰め込まれいるような感覚に陥った。


 俺の名前は、藤堂充とうどうみつる

 年齢は十六歳、属性は陽(キャラ)、そして、超がつくのほどヤンキーだ。


 ――と、さっきまで自分ではそう思っていた。


 (えええええええ、なんで、なんでなんんで、なんで、俺がやり込んでた恋愛ゲームに転生してるの!? それも、悪役に!?)


 俺は、前世でやり込んでいた、恋愛ゲーム、『陽陰よういん学園』の超がつくほどの不良に転生していたのである。


 自分がどういうキャラクターかというと、所謂、主人公の恋路を邪魔する超極悪役だ。

 暴力はもちろん、暴言、さらにヒロインにちょっぴりエッチ悪いこともしたりする。

 ゲームの開発陣曰く、全ての悪をつぎ込みました、とのことだった。


 よりによって、前世は超ド陰キャの俺が、このキャラクターって……。


 横に停まっていた車のドアミラーで、自分の姿を確認する。

 高身長で、それなりにイケメンだが、少し目つきが怖い……か? 確か、こんな顔だったな。


 ちなみにゲームの内容はそんなに難しくはない。

 名前の通り、陽キャラと陰キャラが多く存在する学園がメインだ。

 様々なヒロインとモブが混在し、どのキャラクターも攻略できるのが、このゲームの面白いとこである。


 なんと、同性も攻略可能なのだ。

 なんだったら、先生、果ては校長先生まで可能だと聞いたことがあった。

 もちろん、俺は攻略したことはないが……。


 その中でも、ヒロインは超がつくほどクールだが、とびきり綺麗で可愛いのだ。

 主人公はまさに王子様と身がまうほどの、美形イケメン陽キャ。


 俺はこのゲームをそれこそ愛していた。いや、なんだったら主人公なら喜び叫んでたくらいに……。


 にしても、なんでこのキャラクターなんだああああああああああ。


 どんっ。


 校門に立ち止まっていた俺の背中に、誰かがぶつかってくる。


「……?」


 後ろを振り向くと、それはこのゲームの主人公だった。

 やはり、かなりのイケメンだ。

 二重幅も綺麗で、そして歯も白くて――。


「ああああああああ、すすすすす、すいませんっ」

「へ?」


 しかし、主人公は冷や汗をかきながら離れていった。


 ……。


 いや、まずいぞ!? ここで俺たちはまだ出会わないはず。

 たしか、同じクラスで初めて出会い、主人公は勇気を振り絞って俺を殴って……。


 いや、それよりも!


 まずい――いかねば!


 ◇


「ぐへっへへへ、綺麗だなあ」

「なあ、Llne教えて?」

「入学式なんかやめてさ、俺たちと遊ばね?」


 明らかに悪そう、そして強そうな三人組が、女子生徒を囲んでいる。


 俺は、それを物陰から眺めていた。


(やべえ、やべえ、どうするんだ。)


 その女子生徒は、このゲームの正ヒロインなのだ。

 本来であれば、偶然現れた主人公が、ここで勇気を振り絞り助けることになる。


 けれども、それを俺がぶち壊してしまった。


 このままでは、彼女がどうなるかわからない。


「……やめてください」

「いいじゃねえかよお!」


 彼女は――本当に良い子なのだ。綺麗で、可愛くて、そしてクールで。

 

 所詮はゲーム……かもしれない。だが、見過ごすわけには……いかない。


「……おい」


「ああん? 誰……ひ、ひ!?」


 男三人組は、俺を見てたじろぐ。

 どうしたらいいんだろうか、悪役ってどんな感じだ? どうしたらいい?

 


「うぬら……なにをしとるど?」


 合ってるのかこれ……? いやでも、めちゃくちゃ怯えてるじゃないか。

 そういえば、このあたりのヤンキーは全て傘下だったような気がする。


「み、充さん!? もしかしてこの……女知り合いで?」

「……うぬ」


 どんなキャラだったか、もはや思い出せない。でも、なんかこう、とりあえずうぬって言っておくか。


 それにしても、こいつら怖いよ……。なんかメリケンサック? みたいなの持ってるし

 口はピアスだらけだし、首元には金色のネックレスもしてる。


 あれ、なんか時代ちょっと古くないか?


「まだなんかあるんか?」

「すいやせん~!」」」

 

 そして、男たちは怯えながら去って行った。


 ふう……良かった。これでなんとかなるはずだ。


「あ、あの……」


 しかし、やっぱりヒロインは可愛いな。

 黒髪ロングで、成績も優秀、小動物みたいなところも、実にいい。


 あ、でも、まだここで俺と話してはいけない。


 そういうシナリオじゃないんだ……。


「…………」


 俺は、無言で去っていく。

 よし、これで正解なはずだ。


 ◇


 放課後、無事に入学式を終えた。

 

 しかし、本当にたくさんのキャラクターがいてびっくりした。

 入学式なのに、ゲームと同じように風船膨らましてるやつもいたし、ギョギョっ! ていいながら魚の被り物をしている女性もいた。


 まあ、あの子結構好きなんだけど。


 さて、とりあえず帰るか……。

 ヒロインと主人公、確か今頃――一緒に帰る最初のイベントだよな。


 あれ、いいんだよなあ。はあ、目の前で見たい。


 と、思っていたら、電信柱の裏から人が現れた。


「……充くん」

「え……?」


 そこにいたのは、正ヒロイン、結崎ひよの。

 ついさっき、俺が助けた学園クールビューティーだ。


「ど、どうしたの!?」

「さっきはありがとう」

「あ、いあ、ど、どうしたしまして」


 まずい、まずいぞ。どうしよう、どうしたらいいんだ?

 というか、口調がいつもの俺に戻ってしまっている。

 まあ……もういいか、無理する必要はない。


「……あの」

「はい?」


 一体、何を言うつもりだ? 何だろう。

 俺が知ってるひよのさんなら、きっとありがとう、と言いながら、去っていく。

 まあ、そのくらいなら、シナリオに影響はないはず。


 彼女は、妖艶な目で、俺を見つめる。



「充さん……私と一緒に帰りませんか?」


 あれ、ひよのさん……目がハートになってませんか?



 

 


 

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