第74話 平和をめざして
『タッチフラル式になってるので、触るだけでいいですよ。マツバさん以外には反応しないように作ったので、他の人が触っても普通の腕時計にしか見えないはずです』
〇 〇 〇
『あのオーロラは、次元崩壊の隙間から漏れているんです』
あの後、俺とバロルク
ゲートの向こうには光が満ち溢れ、せせらぎのような水の流れる音も聞こえてくる。あたかも天国のような雰囲気が漂っているがエドたちが断固として向こう側へ行くのを拒絶したため、とりあえず呼び出し用の腕時計だけ俺に支給される形となった。
今後、バロルク
俺を通じて得た新情報で、アンヌ・ダーター内もいろいろ揺れているらしい。
レトリアに0で武力的に対抗するという
また過激派のように仲間割れなんてことが起きなければいいが。
『“種”に現れたのは純粋な天使ではない、人間を無理やり浄化させた疑似天使の残像だと思われます。カラクタを抜き取り、ラトーに変化する直前で寸止めして生死の狭間で酷使する……。もちろん長続きはしませんが本体がいなくても、情報が“種”の中の仮想粒子領域に残っていればそこから自動で複製されます。本体がどうなろうと残像は無限に再生され、またラトーになるの繰り返し……』
「そんな……死んだ後も、クローンのような存在を無限に利用され続けるってこと……?」
「正気の沙汰じゃねえ……!」
エドとニーナがショックを受けている中、俺は一人ゾンビ映画を思い出していた。「私が私であるうちに殺して!」と叫んでいた女優の特殊メイクで変貌した顔……。
『マツバさんが持ち帰ってくれた情報はどれも大変貴重です。“巨人”の左腕をレトリアが所持している、レトリアが二人いることを知っている、謎の枯れ枝のような男性……そして母液』
機械が絡まっている古びたコンソールの上に、ホログラムの惑星ザークルが表示される。青い大洋にぽつんと浮かぶ緑のラプセル、中央に神樹跡と記されており、そこから惑星の最深部に向かって白い矢印が伸びていき、その先が黒く染まっていく。
『母液とは初めて聞く単語ですが、おそらく我々天使の間で薔薇と呼ばれているものと同じかと。どんな波長を飛ばしても、全く観測不可能な暗黒領域が惑星のマントルよりさらに奥深くに存在しています。我々はここにトイヒクメルクの残党が潜んでいると推測しています。本物……我々アンヌ・ダーターが“巨人”のパーツと共に捜索を推し進めている十年前のレトリアもここに沈んでいなければいいのですが』
「レトリア様がトイヒクメルク……あるいは俺たち人類にも言えない何かを
エドが頭を抱える。
『とにかくこれでラトーは宇宙人なんかではなく、人間が死後変化した姿であること、レトリアがラトーごと人類を滅ぼそうとしていることは信じて頂けたと思います』
「おい待て、後半はお前ら天使どもの解釈だろ。起きた事実はともかく、その元凶が誰なのかについてはまだお前らを信用する訳にはいかん」
「そ、そうだよ……。私たちはラプセルが平和にならないと意味がないんだから……。こっちはレトリア様と衝突なんかしないで、先にカラクタとラトーを無くしてほしいし……」
『我々だって物理的に過度な影響を及ぼす……いわゆる野蛮な武力には頼りたくありません。しかしレトリアが対話を拒否する以上、こちらとしても緊急手段に出ざるを得ないのです。マツバさんだって近くで話をして十分分かったでしょう?』
「ん~……話が通じそうで通じなさそうな、とりあえず一方的っていうか、バロルクを敵視してることだけは伝わった。二度とお近づきになりたくない」
「たとえマツバと“巨人”が神のお導きだとしてもだ。安全面でも感情面でも、俺ら一般人はレトリア様の敵に回る訳にはいかねえ。お前たち天使の科学力でカラクタを消すなり緩和するなりの方法は見つかってないのか?」
『う~ん、カラクタを緩和する治療法……あるにはあるのですが、実現可能性には程遠いというか、根本的な解決にはなっていないというか』
「やっぱり隠してたんじゃねえか!! まずそれを出してくれよ、何がどう実現に足りないのか、こっちに理解させるつもりを見せてもらわなきゃ信用の仕様がねえ。それとも人類のためなんて大嘘で、単に戦争に巻き込みたいだけか?」
そう詰め寄るエドにビビったミルルクが、下手な飛び方で後退する。
『お、落ち着いてください~。確かにカラクタを小さくする方法はありますが、完全に消滅させられない以上、発症を防ぐには程遠いんです。それに、材料だって大変貴重で下手に知れ渡ったら人間同士で材料を巡って争いが起きる可能性だってあります!』
「そんなに貴重な材料なのか?」
『はい。片方はハリドラと言って、皆さんもよくご存知の植物なのですが、もう片方が我々天使の全力をもってしても栽培困難で……』
「「ハリドラ?」」
ミルルクの思わぬ発言に、エドとニーナが声を揃えて静止する。
『ええ、ハリドラです! そういえばマツバさんの猫ちゃんの好物でしたよね?』
「ああ、そうそう。ていうかアンタあれがまだ猫に見えんの?」
ここなら服の外に出しても構わない。隠してたラーを起こそ──
あれ? ラー……?
そこでようやく、俺はダウンジャケットの中がスカスカなことに気付いた。
「ラーが……いない……」
「「はあぁ!?」」
またしてもエドとニーナが一斉に叫んだ。
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