第34話 ヘルタースケルター
『新アンテナ改良遅延、不具合多発』
『ムールス社、改めてウロヌス社との合流はありえないと意思表示』
『間に合うか宇宙進出、実験不可能一発勝負』
「おお~……」
「ラ~~~」
「な?俺の言った通りになったろ?」
公営ニュースサイトの軍事開発系記事が更新される度に、俺とローレンス親子、あと肩に乗っかってくるラー、はぎゅうぎゅうになって画面を読み込んだ。
〇 〇 〇
『技術の二重譲渡?』
『ああ。まずタルタン社と結晶融合強化繊維の技術特許権売買の契約をする。もちろんニーナちゃんが改良したCFRF-αの方じゃなくて初期のCFRFの方だ。その一方で俺がムールス社と特許権売りま~す、って話をつけてくる。で、その間にノウゼン社とあんたら親子には、ムールス社とタルタン社……さらにその上のウロヌス社よりも強度に優れたアンテナとレーダーの開発にあたってもらう。CFRF-αがCFRFにはない独自性が認められて、別々の特許技術として扱えるからこそ出来る作戦だ。降伏したフリして出し抜こうってワケ』
『何だってわざわざそんな勝負をする必要が……。下請けでも十分金は入るし名も売れるだろうに』
『いいか、エド。これは勝負じゃなくて利用だ。CFRFは今後製品化、大量生産するとなると大規模な資金が必要になる。今のノウゼン社にそんな力は到底ない。だったら力のあるところに頭を下げて頼るしかないが……普通にやったら飼い殺しにされて終わりだ。そんなんじゃハリドラの研究も進まない。こっちが主導権を握るために、大企業様たちに頭を下げに来てもらおう。だからCFRF-αは絶対に安売りしない。代わりに基礎のCFRFを餌にしてばら撒く。極地以外ならCFRFも立派なノウゼン社の技術の結晶だから需要はある。だが今一番ホットなのは、宇宙や極地でも通用するタフで頑丈な兵装だ。軍事開発は見送るつもりでいたが、狙い目の情報が手に入った。ハダプ突破後の人工衛星と宇宙船用のアンテナとレーダーだ』
『宇宙船……』
『ああ。エンデエルデ発動によるハダプ消滅直後の宇宙空間は大量の電磁波発生で、ハダプ以前の通信技術は通じないと言われている。他の戦闘機開発なんかはもう既定路線が決まっていて入り込む余地がないが、通信技術は大企業も現在手をこまねいている。殴り込みに行けるぞ』
『殴り込みっつってもなぁ……。俺らが狙うことをウロヌスの奴らが狙わねえ訳ないだろ。どうすんだよお前が売りやがったCFRFを改良して向こうが先に凄いの作ったら……ノウゼンさんに申し訳が……』
『申し訳なく思うなら早いとこCFRF-αアンテナ作ってくれよ~時間がないんだからさ~。あ、もちろんハリドラとラーの研究も並行でよろしく』
『はあーっ、この口先お気楽営業職が!!やっぱもう一発殴らせろ!!寸でのとこでよけやがって!!』
『暴力反対!暴力反対!教育によくないから!ラーが見てる!』
『ラ~?』
〇 〇 〇
大企業のアンテナが完成に至っていない間に、どうにかこうにかエドたちがアンテナの試作品を作ってくれた。
「おーっ!さすがエド様ニーナ様ノウゼン様!後はこれを軍にテストしてもらって、タルタン社かムールス社が頭を下げて協力を申し出てくるのを待てばいいって訳だ。いいね~選ばれる側から選ぶ側になるって!高みの見物としゃれこみますか~」
「はーっ、まだ軍がテストを実施してくれるかどうかも決まってねえのにあの自信はどっから来るんだか……。もはや羨ましいよ、ったく……」
「でもパパ、なんでマツバさんの作戦に乗ろうって決めたの……?たまたま成功したから良かったけど、あんなうさんくさそうな話……」
「確かにあいつは俺たちにだっていつ嘘をつくか分からない、腹の底までは信用できんし素性も知れん奴だ。だがな、あいつは自分の過去のことも分かんねえくせに、俺たちのやることにはすぐ首突っ込んであれこれしつこく聞いてきやがる。やれ何でこうなるんだ、どこがどうなってんだ、科学を知らん俺でも子供でも分かるように教えてくれだの……営業がよそに説明できないようじゃ話にならんって。そこだけは逃げも隠れもしねえ奴だ。だったらこっちも俺たちの研究をあいつが何に使うのか、首根っこ捕まえてとことん教えてもらうしかねえだろ」
「うーんんん、そうかな……そうかも……」
「お前だってあいつのこと散々“うさんくさそう”とは思ったけど、“うさんくさい”と思ったことはねえだろ?」
「あ……」
「この話はあいつ本人にはするなよ。絶対に調子に乗るから」
「うん、そうだね……。それがいいと思う……」
「ラ~!」
「わーっ、ラー!急に後ろから乗っかってくるな!腰が!この歳でギックリ腰になりとうない!!」
まあでも、そこからはとんとん拍子には進まなかった。
〇 〇 〇
報道規制でも入ったのかフラウシュトラス家の御家騒動の続報がぱたりと止んで、密かに情報を追っていたラムノは途方に暮れていた。
特に気になるのがリリカのその後だった。治療のため入院したとだけ締めくくられて以降、樺月から
去年までは一般市民と同様に、家柄と能力を笠に着て威張り散らす困ったお嬢様ぐらいの認識しかなかったが、獣の耳が生える古代の奇病というのがラムノの心に引っかかった。
獣の耳と失われたフラルの力……素性の知れぬ難民の父親……。
考えあぐねた末、ラムノは通信を送る。
「マツバ、私だ。例の研究についてだが……」
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