第1章 ラプセル漂着

プロローグ





 レトリア・フラウシュトラスは窓を開ける。


 夜を残した真っ黒な雲が、下に行くほど青く透けていってる。眼下で連々と続く山脈は徐々に白に染まりつつあり、山頂付近だけが際立って眩しい。

 その山々を塀のように乗り越えて、恒星ルクが昇ろうとしていた。


 小さな柔らかい手のひらに雪がひとかけら、冷たさも感じさせないまま溶けて、すぐに風で水滴さえかき消えた。

 夢想する性分ではないが、その朝はつい思ってしまった。


 死ぬのなら、こんな日がいい。


 雪が何もかも覆い隠してくれるような、何も残さず消してくれるような、こんな雪と空しか見えない日がいい。

 あるいは、たった一粒の雪のように、跡形もなく。


 夜明けを濁す曇り空に、そっと白い息を吐いた。









“人は病んでいる。“



“できそこないだからだ。”



“奴を一度裸にして奴をむしばむこの微生物をこそぎおとせ。”



“そして神よ、役立たずの器官というものをなくしてほしい。”



“そうすれば人は自由になれる。”



“そしてダンスホールで踊りまくるように踊りをもう一度教えてほしい。”



“そこが彼の場所だ。”





 ──引用元:アントナン・アルトー -Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/アントナン・アルトー


 "Pour en finir avec le jugement de dieu" Antonin Artaud

(神の裁きと訣別するために:器官なき身体) アントナン・アルトー


※ペヨトル工房版、河出文庫版と比較検討して、wikiの訳文が最も本作のイメージに合致したため引用しました。


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