第14話 おもしれーやつ

 

 俺の名は神宮寺 晴輝。

 今年から神和崎第一高等学校に入学した高校生だ。


 突然だが、俺には今気になってる男がいる。おっと、勘違いするなよ?恋愛的な意味じゃねぇ。俺は至ってノーマルだからな。


 話を戻すが、そいつは一言でいうとおもしれーやつだ。正直理解できない行動や言動が多いが、そこがめちゃくちゃ面白い。


 ちなみにそいつの名前はというと……


「お、おい見ろあれ!!」

「すげぇ!残像ができてるぞ!」

「なんなんだよあいつ!」


「フハハハハハハ!刮目せよ!晴輝ッ!貴様ごとに俺が見えるかなッ!!秘技!幻惑のミラージュ・オブ・反復横跳びサイドステップ!!!


 噂をすればなんとやら。目の前で甲高い笑い声を上げながら、技名を叫ぶ男に視線を送る。

 どうやら今日もあいつはクラスの奴らに注目されているようだ。それがいいことなのか悪いことなのかは、今のところまだわからないがな。


 俺は目の前で高速反復横跳びをする男、上城蓮斗に声をかける。

 ちなみに今は体力測定中だ。


「やるな蓮斗!だが、その白線をちゃんと跨がないとカウントはされないぜ?」


「なん……だと」


 膝から崩れ落ち、絶望したリアクションを取る蓮斗を見て改めて思う。やっぱりこいつは『おもしれーやつ』だなと。

 あいつを初めてみた時もそう思ったんだ。



 ―――――――――――



(はぁ〜つまんねえ)


 ため息をついた後、思わず出そうになった言葉を俺は慌てて飲み込む。

 今日から俺は高校生になった。高校生とはいえば誰もが人生で一番若く、輝き、充実した日々を送ろうと意気込んでいるだろう。

 だが俺にとっては憂鬱だった。


(こんなことならあいつらの学力に合わせたほうがよかったかもな)


 あいつらというのは中学の頃の知り合いのことだ。最初は俺もあいつらと同じ進路に行く予定だったが、担任から「もっと上の学校を目指せる」と言われ無理矢理ここを受験させられてしまった。

 と言ってもそこまで仲が良かった訳じゃないけどな。


 俺には今まで友達や親友などと呼べる類の人間関係を築いたことがなかった。いや、築けなかった。

 俺に近づいてくる奴らは俺の顔が目当ての女か、その群がる女のおこぼれをワンチャン狙おうとする男ども。


 自分の意見を言わずに他人に合わせ、共感するだけ。周りから省かれるのを怖がり、同調圧力に押し負けるだけの軟弱者。


 なのに裏では、やれあいつがうざいだの、調子に乗ってるだの陰口ばかり。


 そんなどいつもこいつも本音を隠している状態の奴らと仲良くなったところで、それは友達と言えるのだろうか?


 逆に自分の意見ばかり主張し、相手を否定ばかりするのもNGだ。それではただお互いに歪み合うだけになってしまう。


 だから同調圧力なんかに負けず、相手を理解した上で自分の意見も提示出来ることが大切なんだ。


 なんの刺激もなく、ただ上っ面なだけの友情関係なんてものはただの偽物だ。


 俺は本物が欲しかった。


(はぁ〜……やっぱりつまん……)


「すり抜けかよぉおおぉおぉおおおお!!!」


(ッ!?)


 めんどくさい自分の性格と、つまらない日常に再びため息が出そうになったところで、俺はその叫び声に思わず驚いてしまった。


 それもそのはずだろう。今はHRで各生徒たちが自己紹介をしている時間だ。そんな時にいきなり叫ぶやつが現れたら、驚愕するのも頷けるというものだ。


 俺はその叫び声を上げた張本人に目を向ける。どうやら窓際の一番後ろの席のやつみたいだ。


 そいつはスマホを握りしめたままガッツポーズのような体勢で固まったまま動かない。

 と思ったらなにを血迷ったのかそいつはいきなり自己紹介を始めやがった。


「初めまして、俺の名は上城蓮斗。好きなものは洋菓子、和菓子、果物など甘いものならなんでも。高校では友達を100人作り、富士山の上で……」


 こんな奇行を入学初日にぶっ放すやつがいるか?少なくとも俺は見たことがねぇ。

 周りの奴らはドン引きしているようだったが、俺は一人だけこう思った『おもしれーやつ』だなと。


 俺は生まれて初めて人に、上城蓮斗という男に興味を持った。

 こいつとなら、もしかしたらと。


 その後どうやら運は俺の味方をしたらしく席替えでは、あいつの前の席になることができた。


 だから俺は早速声をかけたんだ。そしたらあいつはどう反応したと思う?

 舌打ちしたんだぜ?「チッ」ってな。


 流石に舌打ちされるとは思ってなかったが、話してみるとやはりあいつは面白いやつだった。


 俺の隣の席の柴崎凛に「陽キャ女子は毎日タピオカを補充しないと死んでしまう生き物なのだろう?」と質問したり


 俺がイソスタというSNSアプリを教えると「イ、イソスタ!?な、なんだそれ……ぐああッ!いきなり蕁麻疹が!!」とか悶え苦しんだり、他にもまだまだあるのだが、とにかくあいつといると本当に飽きない。


 しかし、気になることが1つある。それは蓮斗とクラスメイトの土岐菜由里さんとの関係だ。


 普段は無表情で、覇気のないような目をしている蓮斗だが、なぜか菜由里さんのことになるとすぐに逸らしたり逃げようとする。


 菜由里さんが蓮斗に話しかける度、近づこうとする毎にあいつは拒絶してしまう。

 その拒絶された時の菜由里さんの悲しい顔や、蓮斗の必死に何かを抑え込んでいるような顔を見てしまうとどうにもモヤついてしまう。


 菜由里さんにもそれとなく聞いてみたが「れんくんとは幼馴染だったの」としか言わなかった。


 いらないお節介なのかもしれない。蓮斗たちにとっては触れてほしくないデリケートな問題なのもわかっている。


 それでも、俺にとって蓮斗は初めて親友と呼べる関係になりたいと思えた男なんだ。


 親友が困っていたら、それを助けるのはいつだって親友の役目だろ?

 だったらそのいらないお節介させてもらおうじゃねぇか!

 まだ親友と呼べるかはわかんねぇけどなッ!


 なにがあったのかは聞かない、もしかしたら状況が悪化するかもしれない。

 だけどよ蓮斗、お前はすれ違ったままでいいのか?一回本音を話してみなきゃわかんないぜ?


 菜由里さんとは昔からの幼馴染なんだろ?友達ができたことないなんて悲しいこと言うなよ。いつまでも壁に守ってもらってちゃ意味ないぜ?


 もし自分で壊せないのなら、俺がその壁を壊してやるよ。俺は陽キャキングだからな。他人の壁をぶっ壊すのは得意分野だ。


 と言っても俺もこんな事どれが正解なんてわからねぇ、だからちと荒療治ってことで許してくれよな!


 俺は、座り込んでいたひんやりと冷たい体育館の床から立ち上がると、ちょうど体力測定が終わった蓮斗に声をかけた。


「おい蓮斗!ちと悪いんだが、これが終わったら体育倉庫の片付けを————」

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