第8話 いるんだろう?そこに
神和崎第一高等学校に入学してから2日目。
今日から本格的に授業が始まった。
しかし、今日は初回ということもあり、今後の授業の大まかな流れや教材などの説明で大半の時間が潰れてしまった。
そんな左から右へ聞き逃しても大して困らない内容に、俺こと上城蓮斗は、眠気に襲われ格闘していた。
「では今日はここまで。次回は早速8ページ目から始める。今日配ったものは授業で使うから忘れんように」
試合終了の合図のようにチャイムが鳴り、初老の先生はそう言い残すと教室から出ていく。
どうやら4時限目もなんとか無事終わったらしい。昼休みを迎えた俺は、今まであれほど重かった瞼が嘘のように軽くなり覚醒する。
「おい、蓮斗。じゃあ早速買い行こうぜ」
教科書類を片付けた晴輝が、立ち上がりながらこちらを向き声をかける。
俺たちは今日の朝、俺の
「あぁ。わかっている」
俺も立ち上がり、早速購買へ向かう
「いやー、にしても説明だけで楽なのはいいが眠くなっちまうよなぁ〜」
「お前は普通の授業でも眠くなりそうだけどな」
「馬鹿お前、俺は授業はちゃんと受ける派の人間……うわ〜」
晴輝とくだらない会話をしていると、前方に人だかりができていた。
どうやら購買に群がっている生徒たちのようだ。この学校には食堂もあるはずなのだが、それにしてはかなり多い。
近くまで寄ってみると互いに罵詈雑言を浴びせ、パンを奪い合っている。
「おいどけ!これは俺が先に取ったんだ!」
「うるせぇ!俺が先だ!!」
「ちょっと邪魔よ!!」
「あ、それ私の!」
「ねぇ、僕と契約してまほ……」
最後のセリフがめちゃくちゃ気になるのだが、今はそれに気を取られているわけにはいかない。
早くしないとパンがなくなってしまう。
「行け!晴輝ッ!君に決めた!!」
俺は、目の前の猛獣たちのバトルロワイヤルのような光景に指を差し、晴輝を向かわせようとする。
「俺かよ!クソっ!しょうがねぇな!これも生徒会長の弁当のためだ!」
そう言うと覚悟を決めた晴輝は一目散に目の前の地獄へ突撃する。
「うおおおお!!」
―――――――――――――――
しばらくするとボロボロになった晴輝が飛び出してきた。その手にはパンが2つ握られている。
「ほ、ほらよ……ハァハァ……」
息を軽く切らした様子の晴輝がパンを渡してくる
「やったな晴輝!俺はやればできる子だって信じてたぜ!!」
「ハァハァ……うるせぇよ……ふぅ」
悪態をつき、最後に一呼吸した晴輝は続ける
「でもま、これでオーケーだろ?」
「もちろんだ」
俺は晴輝に弁当を渡した後、お互いに握手し軽く口角を上げる。
(すまんな晴輝。無事生還できてもお前に待っているのはバッドエンドだけなんだ。)
救われない晴輝に、俺は心の中で涙を流しながら謝罪する。
でも俺悪くないよな!! 世の中には知らない方がいいこともあるって言うし? こいつ喜んでるみたいだし? win-winじゃない!?
いや、姉さんも入れたらwin-win-winってコト!?!?
人とは誰かと支え合いながら生きているのだ(すっとぼけ)
クズな思考を張り巡らせながら俺は晴輝に伝える。
「じゃあ俺、一人で食うから」
「あ、お、おい!一緒に食うんじゃねぇのか?」
「すまんな。俺は飯は一人で食いたい派なんだ」
別にそんなことはないのだが、流石にあの弁当を渡した本人と楽しく食事するほど俺の肝は据わっていない。
俺はランチスポットを探すため、早歩きでその場を後にするのだった。……決して逃げたわけではない。
―――――――――――――――
俺は階段を登り、最上階に到達する。
「……やはり物語の主人公が食う場所といったらここだよな」
何を勘違いしているのか、自分が物語の主人公と思い込んでしまうほどに、厨な二の病が悪化してしまった彼は、ボソリそうと呟くとドアノブに手を伸ばす。
伸ばした手がドアノブを握ると軽く力を入れ、そのままゆっくりと右に回す。
ラッチボルトがドアストライクに擦れ、ガチャリと音が鳴る。
俺はそのまま前方に力をいれドアを開く。
「おぉ!すげぇ!本当に来れるもんだな!!」
ドアが開いた瞬間目の前に広がるのは雲一つない快晴。
サラサラと髪を揺らし、頬を撫でる柔らかい風。
ポカポカと眠気を誘う暖かな陽の光。
見渡してみれば学校全てを眺められる場所。
そう、ここは屋上だ。
「中学の時は鍵が閉まってて開かなかったからな」
高校ならもしやと思い、中学の頃にできなかった『屋上で昼食を摂る』というなんとも魅力的なシュチュエーションを叶えるために屋上に足を運んでみたが、大正解だったようだ。
無駄足になったら姉さんに開けて!って我儘言うつもりだったが(職権濫用)、どうやらその必要は無いみたいだな!しかも誰もいないってマジ?みんな開いてるって知らないのかな!馬鹿な奴らだぜぐへへへ。
どうしようもない屑な思考に自分でも笑ってしまいそうになるが、開いてたんだから自分は屑じゃないと苦しい言い訳をし、屋上に出た俺はドアを閉める。
(しかもご丁寧にベンチまで!ここは最高の穴場だな。俺だけのぼっち飯スポットだ)
どうせぼっちは確定してしまったからと。でも便所飯は嫌だと。未だ捨てきれない謎のプライ……いや衛生的によくないよな!うんうん!
決して惨めな思いをしたくないわけじゃないんだからね!と気持ちの悪いツンなデレを披露し、俺は早速ベンチに座る。
その気持ちよく寝れる条件が全て揃った場所に俺はこのまま寝ようかと思ったが、今は昼食の時間だ。
「ではこの学校のパンの味はいかほどかな?」
手元にあるパンを俺は早速持ち上げ、名前を確認する。どうやら届けてくれた戦利品はカレーパンと……ドラゴンフルーツパンだった。
俺はその人類には早すぎるパンの組み合わせを見なかったことにし、とりあえずカレーパンを食べることにした。
(では早速)
パクりと一口食べれば、冷めているのにも関わらずサクッとした衣付きのパンに、野菜と肉の旨みが溶け出したピリリと刺激のある程よいスパイシーなカレールーの味が口いっぱいに広がる。
「う、うまい……」
その美味しさに俺は、思わず感嘆の声を上げてしまった。
基本甘党な俺だが、そんな俺でさえ舌が唸るほどに美味しい。
とても高校の購買で買えるとは思えないクオリティーに、明日からも購買でいいかもしれないと誘惑されそうになりながら、もう一口。
(やはり、美味いな。食堂に行かず購買で買うのも納得だ)
改めて確認したその味に感心し、もう一口食べてようとしたところで視界の端を小さな影が横切る。
その小さな影に俺は顔を動かさず、目だけを動かし確認する。
その物体の正体はどうやら鳩のようだった。
(なるほど、おこぼれ目当てか)
前に俺以外の誰かが餌付けしたのか、鳩は一定の距離を保ちつつ俺の後ろをちょろちょろと動きながらこちらの様子を伺っている。
かなり人馴れしているようだ。
卑しい奴め!!
(隠れているつもりかもしれないが俺にはバレバレだぜ?)
今しかないと、俺はその鳩に向かって一度言ってみたかったセリフを吐くことにした。
「隠れてないで出てこいよ。いるんだろう?そこに」
まるで歴戦の戦士。強者だけが使える言葉。
その瞬間いきなり声をあげたことに驚いたのか、鳩はバサバサと飛び立って行った。
(やばい。かっこよすぎる。相手が鳩なのはちとしょぼいが、完璧だったな。これが人だったらもっとかんぺ……)
「あら。バレていたのかしら。」
「………………ゑ?」
後ろからかけられた声に俺は思わず素っ頓狂な声をあげる。
内心焦りつつも平然を装い振り向く。
そこで俺の目に映ったのは。
陽の光に照らされキラリと反射する銀髪。
少々きつい印象は与えるものの誰もが綺麗と呟くほど整った容姿。
屋上にいるせいか微風でもサラサラと揺れる髪を軽く右手で抑える彼女のその姿は、たったそれだけで一枚の美しい絵になっていた。
そう、そこにいたのは、昨日出会った謎の少女だった。
「昨日振りね。上城蓮斗くん」
彼女は微笑みながら俺の名を呼ぶ。
それに対し、俺は。
「—————君は鳩の擬人化だったのか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます