第2話 変な男、参上 (下)



 クラスメイト達が急な席替えに戸惑いつつもせっせと机と椅子を移動させている中、俺は窓際の一番後ろの隅で一人ニヤニヤとほくそ笑んでいた。



 え?なんでかって?よろしいならば教えてしんぜよう(デジャヴって知ってる?)



 あの後先生の急な席替え大会が開催されたのだが、なんと俺は変わらず窓際の一番後ろの席ファーストクラスを勝ち取ることができたのだ。これが運命ってやつ!?



 やはり生まれてこの方友達なんてものが一人もできなかったこの俺、上城 蓮斗わいじょう れんとに最も相応しい席だよな!この席は誰にも譲らん!!


 べ、別に悲しくねぇし?友達なんていなくても一人で生きていけるし?強がってねぇし!(ぐすん)

 悲しい己の人生に涙し、俺は改めて死んだじっちゃんへ豆大福を買って帰ろうと決心するのだった。


 俺が一人でダメージを受けているなんて思ってもいない美咲先生が声を挙げる。



「む?時間が余ったな。ふむ、残り時間は自由時間にするか。お前ら、あとは自由時間にするから好きにしていいぞ。今のうちにクラスメイトと仲良くなっとけ。ただし他のクラスに迷惑がかからないよう騒ぎすぎるなよ。」



 美咲先生の発言により、クラスメイト達はざわつき始める。新しい出会いに胸を膨らませ周りに声をかけるもの、もう仲良くなったのか笑顔で談笑するもの、一人の時間を楽しむもの、それぞれが残りの時間を有意義に使おうとしている。



 え?俺は何してんだって?フッ……決まってるだろう?机に伏して寝てるから一人でも平気ですアピールだよぉおおおおお!!

 これこそ、鉄壁の護り!!


 まさかぼっちの俺に美咲先生が「クラスメイトと仲良くなれ」なんて追い討ちをかけてくるとは思わなかったがな!(被害妄想)



 HAHAHAッ!甘いぜ?ショートケーキにメープルシロップぶっかけて、チョコソースかけたやつより甘いぜ!(経験済)

 ずっとぼっちだった陰キャキングの俺にかかればもう慣れたもんよぉ!


 だがあれは甘すぎた。いくら俺が甘党だからってあれはダメだ。死んだじっちゃんが見えたもん。


 一人で思い出したくもない記憶を例えにしたばかりに、憂鬱な気分になっていると、俺がせっかく展開した鉄壁の護りを無意味と嘲笑うかのように、土足で踏み入れてきた不届者が現れた。どうやら前の席のやつらしい。



「おい、上城って言ったけ?俺は神宮寺 晴樹じんぐうじ はるきよろしくな!」



 帰ったらなにしよっかなー。そうだ、帰り豆大福買ってくついでにどら焼きも買って行こう。

 今日は午前中で終わるから、家で食うおやつが必要だしな!俺は今日、どら焼きの気分なんだ。



 姉貴の分はもちろんとして...母上は食べてくれるだろうか。まぁ、余ったら俺が食えばいいだけだし買って行こう。

 食べすぎて、た◯き型ロボットにならないように気をつけないと!!



「っておい、聞いているのか上城?」



 丸くて可愛い青色の近未来ロボットにならないよう決心したところで、再び声をかけてきた。

 どうやら気のせいではなかった。こいつには俺の鉄壁の護りは通じないらしい。いい加減現実逃避はやめ、俺の話しかけてきた目の前のやつに顔をあげる。



「………………チッ」



「チッ?……えっ?!いきなり舌打ちしたのか!?」


 友達は欲しいと言ったが、誰でもいいと言うわけではない。俺は陽キャは嫌いなんだ。水と油は混ざらないって言うだろ?


「神宮寺と言ったか?いいか、神宮寺。昔から陰と陽は混ざらない運命なんだ。しかも俺は陰キャキングでお前は陽キャキング、むしろ戦う運命なんだよ!!このクソイケメンがッ!!」


「い、いきなりなんだ?陰キャキングとか陽キャキングとかよくわからないんだが。それよりお前さっきのあれやばかったな!面白すぎて一番乗りで拍手しちゃったわ!感謝しろよ?」



 どうやら真の陽キャは陰とか陽とか関係ないらしい。こ、これが陽キャキングか!眩しい!あっ、いけない!このままでは浄化されてしまう!!

 浄化されないよう俺は気を奮い立たせ、陽キャキングを改めて観察する。



 神宮寺 晴輝。明るい金髪に綺麗な翡翠色の目、整った顔に爽やかな笑顔。

 素肌はニキビなどなく綺麗で、髪も波打ちやツイスパなどが入ってセットされており、ワックスをつけているのかしっかりと崩れずにキープしてある。きっと毎日欠かさずに努力してきた結晶だろう。誰がどうみても完璧な爽やかイケメンだ。

 あといつまで笑顔向けてるんだ。やめろ!浄化されるっつってんだろ!!



「あの奇行を見て面白いとか正気か?普通腫れ物扱いして誰も近寄らんだろ」



「自覚あんのかよ……。まぁでも俺はめちゃくちゃ面白かったぜ?高校生活はつまらないと思っていたが、楽しくなりそうだ」



「フッ……。陽キャキング。お前の思い通りにはさせないぜ?」



「お、おう……?ま、これからよろしくな!!」



 爽やかイケメンとの戦いにおびえ...ワクワクしていると授業の終了を知らせるチャイムがなった。



「おー、じゃあSHRショートホームルームはじめっぞー。今日は日直がいないから、私が済ませるわ。と言ってもプリントとかもすでに配り終わってるし、やることないんだけどな」



 チャイムが鳴り終わると、美咲先生がSHRを始めた。どうやらすでにやることはやっているので、すぐ終わるらしい。



 SHRする意味ないじゃないかって?しょうがないじゃない、決まりなんだもの。そんなことを自分に言い聞かせてるうちにSHRは終わり、今日の入学式は無事に終了した。本当にすぐ終わったな……。


 明日からは普通の授業が始まるので帰ったら準備をしなくてはいけない。めんどくさいなと思っていると美咲先生が近寄ってきた。



「上城、お前は帰り職員室にこい。これを返す手続きがあるからな」



「はい。わかりました。」



 俺は流石にふざけるのことはせず素直に返事をし、帰る準備を始める。今日は帰ったら晩御飯の準備までゆっくりできるな。ゲームでもしながら怠惰を貪ろうと心を躍らせていると、不届者が話しかけてきた。



「上城、今日この後クラスの奴らを誘って親睦会ってことで遊びに行こうと思っているんだが、お前もどうだ?」



 どうやらこいつはクラスメイト達と遊びに行く計画を立てていたらしい。恐るべき陽キャキング……。だが負けない!俺の戦いはこれからだ!!



「すまんな。今日は帰ったらゲームで怠惰を貪るという崇高な計画が俺にはあるのだ。」



「それの一体どこが崇高なんだ……。



「ねぇ、みんなで遊びに行くって聞こえたんだけど!」



 俺たちが話していると、そこに会話に混ざってきた者がいた。



「!?陽キャクイーン!?!?」



「ブフォッ!」



「え!?陽キャクイーンって何!?私のこと!?」



 思わず出た言葉に神宮寺は吹き出していた。でもしょうがないじゃないか、絵に描いたようなギャルなんだもの。俺じゃなくても思うはずだ。うん。多分。きっと。



「いや、気を悪くしたらすまない。ちょっと驚いただけだ。」



「別にいいけど……。私は柴崎 凛、よろしくね。それで遊び行くって本当?うちもみんな誘って行っていい?」



「おう、もちろんいいぜ!ってか元々クラスの奴ら誘うつもりだったしな!」



「俺は行かないがな」



「えー、時間あるならみんなでいこーよ。きっと楽しいよ!」



「すまんが俺には崇高な……」



「ねぇれんくん達遊びに行くの?」



 その乱入者に俺は一瞬固まってしまった。その人物の名は、土岐菜由里。俺は先ほど関わらることはないと決めていた人物の登場に思考が止まる。



「そうだよ!えーっと名前は、確か土岐さん?」



「うん、私は土岐 菜由里。菜由里でいいよ。仲良くしてね。それで、れんくん達は...」



「俺用事あるから帰るわ!!じゃあな!バイビー!」


「え!ちょっとれんくん!?」



「おい!上城!!」



「上城くん!?」




 気づいたら俺は飛び出していた。まぁしょうがないよね!彼氏に悪いし!死んだじっちゃんへ豆大福買わなきゃだし!ぐずぐずしてたらゲームする時間もなくなっちゃうしな!!



 あ!その前にスマホもらい行かなきゃ!!

 俺は駆け足で職員室へ向かうのだった。

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