Place in the sun.
桜庭巡の計算され尽くした能天気で、強化遠泳上がりの青春の1ページが大ごとになった。まあ巡の性別は一切加味されず、こぞって、女子、いや私達の可愛い巡の裸を大勢で覗こうなどと以ての外。そう、お祈りの時間は守るものの、朝のホームルームから、全ての教科が吹っ飛ばされて、今は3限目。女子の尽きぬ悔い改めよから、今は怒りに任せて、普段の男子達はの個別熱烈指導に入っている。
青春の1ページの経緯を知ってる俺としては、まあ、そこ迄言わなくてもになる。何より、高校から合流した、桜庭巡とは何かを知らない。
普段の会話を今も繋ぎ合わせが、こんな感じだ。桜庭巡は横浜生まれに育ち。この呉に引っ越して来たのは、流行病が蔓延しリモートワークが主体になったので、多くの地方移住組のうちの一家族になった。広島県で言えば、内海は風光明媚で住居価格も安定していることから、ままある事情でもある。
あとは、桜庭巡の高台にある改造大古民家に住んでいるのは、富豪か、それはイエス。名前は知らないが、結構な少女漫画家らしい。うちのハンバーガーダイニングJ-Boyにも、姉香澄が来た来たとはしゃいでいたが、壁のサインづくしに埋もれてもはや行方不明。情報番組の取材を全部受けると、収拾つかなくなる例でもある。かしこ。
いやかしこで終わってはいけないのだ。ついこの前入学式で、聞きしに勝る詰め込み教育の日々で、今やっと一学期の終わりが見えると言うのに、そう、男女一致して認めるクラスのマドンナ桜庭巡が燦然とした位置にいる。
巡がジェンダーレスで女性扱いされているのは、事前に呉実践高校のレクチャーがあればこそだろう。世の中、可愛くて正直だと、多々許される事はある。
巡のジェンダーレスを知ってる範囲は何処までだろう。無防備に全校、いや学年に知れ渡れば。呉市も地方だから口伝えで広がって行く。となると、私立呉実践高校1年2組の女子側の事情のみになる。そして今日俺も加わった。
今考えると合点は十分に行く。私立呉実践高校の学年は、1組普通科、2組普通科、3組看護科、4組看護科、5組商業科の仕分けになる。実践校とあって専門科が多いことから、やや事情有りきの受け入れ先は、2組普通科に伝統的に集約されるらしい。
その各年代2組普通科の重鎮たるが、学年主任で担任たる霧山顕治先生になる。今この瞬間も、ああそうだなと淡々と頷いて行く。その寛容さで、何処まで本気なのかが底知れないが、巡の事情をおくびに出さない事で、やっと尊敬するに気持ちを切り替えた。
俺は、そんな視線を送った覚えはまるで無いが、さてと、で霧山先生が腰を上げた。
「まあ、言いたい事は言い合えたな。俺は非常に嬉しい。1学期にして、実に良いクラスに仕上がってる。この融和的な雰囲気で、どうか3年の卒業式迄、心穏やかに、呉実践高校ライフを送って欲しい。と言う事で、気分転換に席替えしようか」
クラス一同が、おお、ええ、と叫ぶ中、霧山先生は延長ホームルーム中に何してるんだなのそれ、そっと書き上げていたくじ引きを、小箱に入れた。そしてサクサクと黒板に、クラスの席順レイアウトを描き書き上げると。それとなく、5列目2番に桜庭巡。6列2番目に俺君原樹の名を書き上げる。窓際最高でしょう。
そして。女子は上機嫌に頷くも、男子からは不公平だにインチキが飛び交い、程なく男女バトル勃発。
霧山先生が、廊下側の俺に歩み寄っては、ポツリと。
「巡のそれを分かってるだろうが、今は樹が守ってやれ。何より、樹は要領が良すぎて、授業が退屈だろうから、窓際の特上席を用意した。うっかり寝より、ぼんやり外の景色を見ていた方が、各先生方にまあまあと言えるからな」
たった3ヶ月の過ごした先生に、俺の何が分かるかだが、授業がまま教科書のままに進行すると、それは退屈な時も有る。
でもそれは、隣の席の生徒会長天宮吉乃がいて、それとなく教科書はここと教えてくれるからであって。まあ、呉実践高校の3年生は実務返上が伝統であっても、生まれつきの才色兼備ならどうしてもトップ当選だろう。俺は不意に。
「俺、吉乃がいなかったら、留年するかもな。ここで生徒会長が物申すって、弾劾してくれないものなの」
「残念、この1年2組は断然、巡派。樹も巡を守りきったものの、そこ迄の民意は動かせ無いかな」
「巡、巡、って、まあ、今となってはだけどさ」
「そう言わないの。巡の方が優秀なのよ。オンライン学習塾のカリキュラムもこなしているし。今の1年生でも、普通に私立女子大学に合格出来るそうよ」
「渋いお話ですこと」
「そこは、ユーモア交えて、巡、俺がいなくて大丈夫な筈もないだろう。きゃー、よ」
「女子って、そう言う桃園好きだような」
「樹、ノリも大切って事」
かくして4限目半ばにして、阿鼻叫喚のくじ引きも終えて、新しい席への引っ越しが始まる。
そこに、教科書ノート&アザー入れるだけのリュックサックで十分の筈も、何故か背中一面を覆い隠す大容量の登山リュックサックを背負った桜庭巡が、いの一番に滑り込んでくる。一体何が入っているか不明だが、まず言うのはそこじゃない。
巡は、登山リュックサックを床にドンと置いては、右手を差し伸べる。
「樹、よろしくね」
「ああ、桜庭さんさ、俺、購買部の極楽カレーパン持ってないから」
「キャは、面白い、樹、センスあるよね。操の恩人さんは、だよね。でもね、桜庭さんよりは、巡かな」
「桜庭さんさ。何か勘違いしてるけど、俺、そう言う人物じゃないから」
「だから、桜庭さんは。ああ、はいはい、この1m以内に入りこまないでねって事ね。でもね、隣の席なら、そんなの越境しちゃうから。巡、おい、おいは嫌だな。君、これは何か余所余所しい。ジュンで良いから、はい決まり、握手」
「俺、女子には緊張しちゃうから、ちょっと時間くれよ」
「樹、面倒臭いよ。ねえ、」
「巡、分かったよ、はい、」
俺は仕方ないなと、手を伸ばすと、巡の見栄えにそぐわない引き手が、羆の爪に引きづられたかの勢いで、俺は何故か立ち上がってしまう。
そして、ごく自然に、何故か俺の懐には巡がすっぽり収まり、開襟シャツ越しの頬ずりされる。眼下の巡の頭頂部からは、大人しげなピーチのフローラルの香りがする。化学合成の香りが際立たないのは、巡本来の香りかと思うと、何故か落ち着いてしまった。
いや、待て、この息が止まったままの、教室の雰囲気は何だ。見渡すと、皆初めて見るような、目の見開きで、その顔、君誰になる。そう、巡と俺はハグしてる。でも何故か自然だ。
不意に、吉乃と視線が合うと、自らの腰を仕切りに叩く。そうかそこかで、俺の腰に巡が縋り付く両手を丁寧に解いた。ここで漸く、皆の緊張が崩れ去り、自らの席へとへたり込む。そうだよな、都合16歳近辺の青少年が、まじまじとラブシーン見たらその反応にもなるか。これを純粋に見れないとなると、先行き大丈夫か、カトリック由来の呉実践高校に、1年2組諸君達はだ。
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