Me and my girlfriend on weekends.

 早乙女あきら先生の「Can you get the goal? 」最新刊15巻完パケ祝賀会の翌日土曜日。俺と巡とで、何となく過ごすも忙しき日々に、せめてものアクセントを入れようと、俺に巡に、出納係は林檎さんで、広島中心街の最高級ヴァールトンホテルの招待券があるので行って来なさいになっていた。

 ただ、その土曜当日の朝。林檎さんが最新刊原稿完パケ後の知恵熱が出て、延期かになった、夏休みは今日を入れて後4日。巡は泣きながらも愚図るも、林檎さんがあの過酷な締切りを抜けて完全復活するとはとても思えない。ましてや、桜庭夫妻は「Can you get the goal? 」15巻の発売に向けての熱狂的な告知に向けて、編集部の打ち合わせも入るので身動きが取れそうに無い。

 ここは、こそっと俺の伝手しかなかった。



 ◇



 桜庭家の所有のオープンカーMINIエレクトリックスポーツは、皆に見送られ、桜庭邸を出発する。俺に巡に、代理の出納係兼運転手は姉君原香澄になる。姉香澄は、不定期ながらに引退した祖父がJ-Boyに入ってくれているので、今日は有給扱いで俺達の豪遊に付き合ってくれる。

 出発前遠くから、豪遊と聞こえて、姉香澄が私も出しますからと駆け引きするも、ピキッと固まっては、姉香澄が巡の母登子さんに折れた。俺は、どんな駆け引きがあったか、その秘訣をいつか、登子さんからどうしても聞きたい。

 MINIエレクトリックスポーツの内海の風を切りながら、広島迄の海沿いを駆ける。

 天候は快晴もあって、良いな地元はに浸っているが、出発前に巡にここと後部座席領隣に座らせられては、その陽気なキャンキャン声を延々聞かされる。そんなうんざりな俺に、姉香澄がバックミラー越しにメンチを切っては、はいはいと、巡のお話をより頷き返す。



 ◇



 広島市街、緑地隣接地区にあるヴァールトンホテルに乗り付けると、姉香澄が桜庭夫妻から受け取った、プラチナ認証カードを差し出し、ホテルのドアマンが携帯端末を翳し、慇懃に挨拶をされ、し返す。

 桜庭家を知る女性ポーターが、陽気に巡とハイタッチをしては、俺達の荷物を全てカートに乗せ、このままフロントでチェックインの行う。

 流行病を経て自動チェックインが多くなっているも、高級ホテルは日々のお勧めと、顧客の動向を見極めてコンシェルジュするので、今も昔も変わらぬ信頼はあるのかと窺えた。

 姉香澄が日帰りで寛げる若者プランでお願いしますと言うと、フロントが一体幾つ有るのかなのS78のシリアルの入った冊子を差し出し、スケジュールを簡潔に案内する。

 俺も聞きたかったが、巡が天真爛漫にロビーをぐるぐる回るので、今日のスケジュールを聴き損ねた。


 女性ポーターは笑顔崩さず案内し、エレベーターに乗ると、何処まで上がるのかの程に最上階に辿り着いた。そして案内された部屋は客室最上階23階のワーキングスイートルーム。

 巡曰く早乙女先生の環境変えの仕事場でもあって、ふふん何かと、憎たらしいが、お嬢様かと心の中で区切っておいた。

 眺めは、広島市街は一望出来て、三角州も、内海の水平線も、離島さえも手に取る様に見える。離島は確かに多い認識も、いざこう眺めると、まだ行って無い離島あるかなと、つい言葉に出る。

 姉香澄の結婚いつでもボーイフレンド伏見健嗣さんは、内海の漁師で、デート際には何かと俺も連れ出してくれる。

 健嗣さんは関西からのUターン組の若手で、俺に内海を知らずに飛び出すより、知って飛び出した方が、心の彩りがまるで違うとアドバイスをくれる。

 姉香澄とのきっかけは、何かにつけ地元情報番組に若手ホープとして送り込まれるので、自然と付き合う様になった。巡は、良いなと、悶絶しながら恋愛話に浸るが、何もかも女子してるのが、ここに来て、更に性別の垣根はほぼ無くなる。



 ◇



 ヴァールトンホテルから提案されたS78のしおりでは、午前のスケジュールはプラネタリウムらしい。

 ホテルを出て、近くの会館に出向くのかと思ったら、4階宴会場鳳凰の間で、夏季期間にエアドームプラネタリウムを設置していた。教育用より、椅子が無ければ100人入れる興行用の設置と、鳳凰の間でのラグジュアリー仕様とあって、中々のリクライニングシートに身を沈めた。

 呉市にも天体観測館があるくらいに星空は澄み渡っているが、各銀河の鮮明度が本当に移動施設かの滑らかさで、ただ天の川をを見つめている。何か宇宙と一体感になっているのが幸せだった。

 ただ、俺の右隣の巡が、腕を掴んではウワーを連発するので、ナレーターの女性支配人に、巡さんお静かにと敢えて名指しで制された。と言うべきか、予め録音したナレーターでは無く、生ナレーションとはただ恐れ多く、その都度巡にかなり厳しい視線を送る。

 そして夜明けの天球が推移し、ピアノソロの音声が染み渡り、俺達3人は、プラネタリウムでの1時間の充実した時間を満喫した。

 巡は宇宙飛行士になりたいと言うが、俺が地上勤務しないと退屈だろうで、巡はその場でホームシックになり断念した。姉香澄からは強烈なボディブローも食らうが、その通りに言って何が悪いでしょうだ。



 ◇



 昼は5階バンケットでのバイキングになる。流行病直ちから、都市部に行く程食材調達が困難になって、寂しい会食になってきているが、その反動で地産地消の地方のグルメ旅が標準化してきた。

 中でもヴァールトンホテルのバイキングともなると、飲食店電子ガイドでは高評価コメントが続き、和洋中何れもいけた。

 姉香澄からは、ディナーはフレンチだから、胃が飽和しないようにと蕎麦づくしに、あとは巡の経っての希望で、パンケーキ無制限に独自に入った。何故、ここ迄食べて、巡がその痩身なのかは、運動し過ぎじゃないと、やや心配しておいた。



 ◇



 午後は、10階に張り出した、ラウンジプールに行くスケジュールになっている。1階にも野外プールがあるが、そこは一般客向けだ。10階のラウンジプールは屋内のVIP専用で、太陽光が適度に遮る優しい設計で、巡曰く徹底的な支持を受けているらしい。

 ラウンジプール。呉市でも噂では上がるものの、交流のある皆は誰も入った事がないので、ヴァールトンホテルって本当融通効かないなで、つい先日迄は愚痴愚痴になる。

 そのラウンジプール。普通に25m級に1.2m深度から、有り触れたプールではある。思いの外手狭と思いつつも、ヴァールトンホテルの意匠の入ったビーチサイドチェアが、折良く並び、清潔なインストラクターも巡回し懇切丁寧に声を掛けてくれる。


 姉香澄と巡は、レンタルでも良いのに、ショップで水着をまだ試着中で、樹はこれと指定されては、先に追い返され、俺はラウンジプールにいる。

 まあ、ショッピングなら長いだろうしで、手持ち無沙汰で女性インストラクターから、強化遠泳の平泳ぎしかしてないから、飛び込みクロールを丁寧に教わった。多分俺と言う人間は、美人に褒められると滅茶苦茶伸びる性格らしい。


 そんな折。男性も女性も、声にならない吐息がラウンジプールで次第に押し殺しても、木霊してゆく。その先には、仲良くツインテールにした巡と姉香澄が、和気藹々と歩いて来る。

 共にお揃いのベージュのセパレート水着。ジェンダーレスの大きな波に流行も重なり、ハイウエストとバブル期に比べると水着の布地は広い。

 それでも皆に溜め息を着かせたのは、姉香澄の隠れグラマーに、巡のシュッツシュッツスルーのスーパーモデルのスタイルを、つい眺めてしまう。

 そこに留めとして、ヴァールトンホテルと早乙女あきらがコラボレートした水着3種がある。以前情報番組でも拝見したが、中でも右の上と下に配置された、8匹の紅白の和金の早乙女跳ねは、これを着こなせる方いるのかなが正直な感想だ。それが目の前で、普通に着こなしてるのが、姉香澄に巡。成り行きで俺でも見つめてしまう。


「あら嫌ね。そんなに見られてしまうかしら」

「うーん、いつもの様に小さいあれは、真下に収納してるけど、不自然かな」

「姉さんも巡も、それは、そうでしょう。何で、着こなしが難しい紅白和金スイームウェアを選ぶのさ」

「もう美術品でしょう。お宝頂きました」

「私は、えい、そこそこの販売協力」

「まあ、いいけどさ」


 取り敢えず、俺は持参したコンパクトデジタルカメラを、インストラクターに渡して、3人の記念写真を撮って貰った。

 巡が撮影会しようとせがむも、インストラクターが、ここはVIP専用ですからと律せられた。

 それはそうだと、気を取り直して、3人でプールに浸っては水遊び、そしてビーチサイドチェアで休憩の3セットを取る。


 ラウンジプールの皆の泳ぎが途切れた時に、徐に巡がビーチサイドに進み、顔を引き締める。踵をしっかり着けての短距離助走、そして跳躍、高く空に舞い上がる。

 ここからは時が静かに流れる。流行病の流れで、開催地がギリシャに絶対固定された夏季オリンピック。日本の体操女子団体が躍動し金メダル獲得の感動を貰った。

 J-Boyでのテレビ観戦もヒートアップし、俺も興奮した。その中でも、日本の十八番、H難度シリバス、後方抱え込み2回宙返り2回ひねりが、今巡が寸分違わず実技に入る。

 巡のいざの身体力。普段は制服にアンスコを履きながらの空中回転は、もはや見慣れたが、これが半グレを大いに去なした、レンジャージュンの底力かと思うと、身が引き締まった。

 魅力的なしなやかさ。時が流れて行く中で、巡はスーと目を閉じ、水面に10飛沫上げては、美技を見せつけた。

 皆が図らずも見惚れるが、一人姉香澄が絶叫する。俺も叫ばずにいられずビーチサイドを大いに蹴り上げ、プールに飛び込む。

 そうだよ、巡は作画グループに入っては日々根を詰めていた。そして終えたのは昨日。且つ、基本は食が細く、今の痩身だ。美技の途中で失神しても、プールに着水したのは、一体どんな本能なんだよ。このまま溺れて死ぬに決まってるだろう。

 潜行中。果たして、水深1.2mのラウンジプールの底に、仰向けの巡が転がっていた。

 ふざけるな、の声は出すに出せなかったが、巡は大きな目を見開き笑みを湛え、大きく手を広げる。俺は水底に着地しては、軽すぎる巡を抱きしめ掬い上げ、水面から起き上がる。


「さすが、樹、分かってるね」


 俺は怒りより良かったと安堵する。その後、インストラクター全員は勿論、鍛え抜いた男女のお客が次々飛び込み、巡の救出へと向かって来た。

 順は困惑しながら大丈夫。大丈夫も何も、巡は俺にしっかりハグしては離れようともしない。俺がただ悩ましい中、巡がどさくさに柔らかな唇らしきものが、額に押し付けられる。この事故に事故を重ねるのは、もう勘弁してくれだ。



 ◇



 ラウンジプールからは、三人大いに反省し自ら退いた。

 インストラクター全員から大説教くらって、姉香澄がごめんさいと只管腰を折り続け、俺達も続いた。それは居た堪れないものだ。

 巡は何かと視線をチラチラ送り続ける。俺への額への口付け。そんなノーカンに決まってるとことわっておくと、どうしても潤むので、相槌さえも押し留めた。

 やや、時間を持て余したので、1階のラウンジで、桁の違うコーヒーと熟成レモンケーキを味わう。

 ここ迄の結果として、今日に至るこれ迄、巡といる事は底抜けに楽しいと知った。恐らくこの先ももっと楽しいだろうも、巡は得てして突っ走るので、今はまま正視出来ずに、3人皆次の一手を考えている最中だ。


 そこに、地元広島の小説家吉川忠三郎さんに声を掛けられ、同席となった。

 J-Boy暫く行ってないね、今凄いキャピキャピですから、一度はいらして下さいと、姉香澄はグランドキャバレーテイストで訴求する。巡も知り合いらしいが、距離を保ってるのは、今正解を諭されるのが苦手らしい。

 吉川先生は戦後生まれで、原風景の広島の戦後を今も執筆し続けている。問いかけた事は、100%返してくれるので、皆が人徳者とただ尊敬する。

 吉川先生は、このしんみりした雰囲気を読み切り、愛って複雑じゃないよと、俺達にとっては直球を投げる。

 巡は、重い口を開け、この感情あの感情と、小学生の初恋ニュアンスで語り、ただ愛しくも切ない。最後は、お相手の感情も大切に組みなさいと諭される。

 積み上げた巡は切り出す。


「何だろう、樹といると楽しいし、普通に楽ちん」

「それ、背後に俺と言う大きな壁があるから、守られてる感覚だろう」

「樹、それ、素っ気ないでしょう。巡ちゃんを包みなさいよ」

「それはどうかな、皆さん。男女揃ってのつがいである事は、まず肉体のバランスも伴ってもあるかと思うがね。雰囲気がどうのとは言うが、それは肉体から放たれるものです。一緒に居続けられるのは、それだけで幸せだがね」


 吉川先生の諭しで、このままこそがベストと皆が悟る。巡は徐々に距離を詰めて来るが、そろそろ、それを受け入れるべきも頭では分かっている。

 桜庭巡、見たままクラスのマドンナを扱いしても、皆に不自然には思われまい。



 ◇



 夕方のディナーに向けて、ヴァールトンホテルのカジュアルショップで、俺達3人はドレスコード服を揃えた。品揃えは、ブランド品は1/3に抑え、残りの2/3は地元広島のブティックから集めたのを、タグを見て知った。

 俺は襟の固いポロシャツにパンツの純白仕様。姉香澄は大柄な深緑のワンピースがグラマラスを醸し出す。巡は、日々ギャルで通すも、スリットは程々の白のノースリーブワンピースで大人の雰囲気を持って来た。暑い夏のミーティングとしては上首尾な絵作りだ。



 ◇



 夕方に向けて準備万端。それでも、時間は出来たのでワーキングスイートルームで仮眠しましょうと、姉香澄に促された。思春期無制限の俺達に、20前半の姉香澄では、それは気苦労もあるだろう。

 いや、俺も上背はあるものの、横になれば目を瞑ってしまいそうだから、多数決で普段着のまま仮眠に流れた。


 ワーキングスイートルームのベッドパーテーションにはシングルベッドが適時に3つ並ぶ。仕事して、また起きて、その為にはこの適度な硬さの方が寝起きも良いかとは、深く察してしまう。

 そして俺は、彼女とはを考えた。今迄、友達の枠でしか無かったが、私立呉実践高校1年2組に入った事で、うっすら意識が変わった。

 女性として何処かに意識してしまう。それは性別男性の桜庭巡も含まれる。巡のそれはどうなのか、見た目女子そのものだろう、何を悩む。そのシークエンスで、遮光フィルムの貼られた窓からの夏の日差しも、いつしか気にならず微睡みの中に入って行った。


 いつもの仮眠サイクルから解けて、優しい寝息が背後から聞こえては、ああと目を開けた。

 これはもう慣れている。桜庭巡は何かと抱き枕があった方が、健やからしい。これで彼此二桁は超えている。普通ならば、深い睡眠で無意識に男性が出る筈も、俺に何かと淑やかに背中に佇む。

 微かな違和感から抜けるべく、このまま起きようか。不意に左隣りからの視線を感じると、姉香澄が微笑み、小さく囁く。


「樹、好きって、言いなさいよ」

「それって、俺の一大事のイベントでしょう」

「言うわね、取られてからだと遅いわよ」

「それ、いつか、」


 不意に、背後の誰かさんが、ガサガサと上に上がり、首筋の薄っすらとした寝汗を、柔らかい舌で掬われた。思春期の俺にとっては未知の接触で、忽ちしゃちこばる。

 そして姉香澄だけが、ただ腹を抱えて爆笑する。他人事だと思って。



 ◇



 最上階24階の最高級フレンチレストラン:ステイ・ゴールドには18時でも席が埋まり始めている。夏休みの家族旅行。そう一度は行って見るべきのレストランになので、それは予約で埋まって行くだろう。

 俺が真ん中で、魅力的な女性二人をエスコートする。俺樹は純白のカジュアルも襟付き襟の固いポロシャツにパンツ。姉香澄は着飾るのが苦手だが深緑のワンピースでグラマラスさを見せる。何よりは、スーパーモデルクラスの巡が白のノースリーブワンピースで、スリットから程々の美脚を見せる。

 しかし、皆が見つめるのは姉香澄の年頃の魅力さに惹かれている。いや、弟としては気持ちが複雑も誇らしい。

 その気持ちが巡に伝わり、悋気を起こした。巡が俺の腕から手を離し、上顎を上げ、両腕を腰に当てながら、ランウェイたる通路をハイヒールでカツカツならし、如何のポーズを決めては、俺達に戻る。湧き上がる拍手。巡は如何のドヤ顔をするが、即刻かしずいたギャルソンにおしぼりを渡される。頭を冷やせの意は十分に伝わる。


 肉か鮮魚かのコースは、鮮魚で事前に予約されており、ステイ・ゴールドお得意の、瀬戸内海のその日の海鮮物を生かしたフルコースが運ばれて来る。姉香澄が運転してきた為に、アルコールは控えたが、テイスティングの白ワインのラベルは見ては、それだけでご満悦になり、今日の趣向を心待ちにした。

 運ばれて来るコースは、内海の淡白さを消し去らないソースの上質さで魅了する。何よりは、その仕込みの捌きだ。

 一流料亭でやっと到達し、又は長年の祖父の包丁でも成し得た、その包丁の立て方で、血の流れを消し去っている。それを素直に伝えると、姉香澄は祖父の血が流れているから当然のセンスね。

 巡は、ただ不思議そうに俺を見つめる。そう言えば、早乙女家のパスタの絶品付け合わせマリネ、樹の手際そう言う事かと、何故か感涙する。今度私の為に作ってよ、気が向いたらなと。まず目の前のコースに集中の視線を落とす。


 抜群の捌きで夢見心地だったコースも終わり、地産デザートカップが入った所で、談笑に入る。卒業後、どうするか。


「広島の国立大学に行けたら行きたいなと。でも姉さんは、高校卒業後は、J-Boyの家業を盛り立てているから、それも有りかなと思ってる」

「私は私。樹は、カメラマンの伸び代あるから、大学に入って、どうにか天職にしなさいよ。ちやほやされるわよ」

「それ、本当にステレオタイプのカメラマンだよ。それで巡は、」

「私は、そう、広島の国立大学良いかなって、」

「違うな」

「何が、」

「巡、机の上に、ロンドン留学のパンフレットが山積みだ。MBA取ってエリート金融マンだろう」

「それは、あの、固い仕事について自立したいし。生涯一人だと、先々がね」

「巡の意思は尊重するが、それ早死にする類だ」

「ここでしょう、樹、ほら、」

「これが合ってるか、本当に分からない。巡は個性は立ってるけど、振り幅は大きい。俺は、そんな時、巡の側にいるつもりだ。これは愛と言えるものかな」

「樹の、そこはやり直しね。巡ちゃんに、好き1万回、大好き100回、そこから愛してますでしょう。どうせ道のりが長いんだから精々頑張ることよ」

「嫌だ。好きは100万回だね」

「巡な、一コマ5秒として、何日掛かるんだよ」

「1日朝起きて寝る前に、巡好きで1000回。掛ける365日。それに掛けることの15年。これでガツンと100万回超え。その時には都合私達31歳。そうだね、もうその頃になると、世界は標準化して、日本も良いカップルでしょうの良識になると思うよ」

「それでも、俺だぞ」

「大丈夫、私は待てるから」


 巡は杯を上げては、仮約束を求める。俺も姉香澄もコトンとグラスを寄せては鳴らし、今日の労いと、明るい未来を大いに祝った。



 ◇



 ヴァールトンホテルでの日帰りバカンスを終え、巡からは、残りの夏休み女子と遊びまくるから、樹ごめんねだった筈。

 それが、翌日日曜夕方のJ-Booyのシフトに何故か入り込んで、繁盛し過ぎて、俺の隣の厨房の洗い物係に入っている。

 巡曰く。何人たりとも私立呉実践高校の課題整理が精一杯で、輝ける夏のときめきは何処かに行っているらしい。まあ確かに記述式のテキストはあれど、ほぼ課題を見つけて推敲する論文多々なので、それは面を食らうだろう。

 それを俺達のコンビは、普通の教科としてはそこそこでも、状況対応ではやはり群を抜いているらしいのは分かった。

 とは言え、課題をこなした所で、オンライン学習塾に、両家の家業の手伝いばかりなので、充実感はあるものの、それは果たして実りのある夏休みかもある。不意にお店ではヤンキーを押し隠す展子が厨房に飛び込んで来る。


「もう駄目です、巡さん。皆オーダー進み過ぎて、ウェイトレス足りません。お願いです、助けて下さい」

「でも、」

「巡、良いよ。皿洗いしながら、サイドメニューの盛り付けもしないといけないから、手狭だ。愛想振りまいてこいよ」

「ふーん、樹が言うなら。あらおじさま、エッチとか」

「J-Boyは、ガールズバーじゃないって、巡さ、」


 盛夏8月下旬。巡と懇意になったのは、つい先月なのに、今やナイスコンビ。いや、気持ち的には、着実に次に進んでいる。俺の中の灯火が揺るぎないのは、巡がいるからと、今になって、やや全くの表情だの浮かべる。

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