J-Boy.
俺の実家兼店舗J-Boyは呉駅よりちょっと海側の方にある。今のJ-Boyはハンバーガーダイニングも、曽祖父の頃は総菜屋だった。ただ、米軍関係者から発して、皆が店先で揚げ物を美味しく平らげる事から、呉ハンバーガーの発祥となる、ハンバーガーダイニングJ-Boyに業態転換した。
その道なりは、固定客も有り順調だったが、流行病が蔓延したおかげで、姉君原香澄が2号店をオープンさせる予定が、資本金が支援金に軽く吸い上げられた。よく閉店しなかったは、基地にドックの固定客のテイクアウトが多く有り、無事流行病を乗り越えた。俺も入館証を発行して貰っては、よく配達に回った。
そんなJ-Boyに、夏休み初っ端から、桜庭巡が、あの登山用大容量リュックサックに、日焼け対策したスキンケアに、お御足も見事な軽装ルックで、店舗から正面突破される。いや宿題一緒にしようとは言ったが、いきなりかよ過ぎた。帰れよの一言が漏れそうになったが。姉香澄がようこそと間に入る。
「巡さん、お元気ですよね。桜庭家皆さん最近来られてないですけど、先生やはりお忙しいとかですか」
「そうなんですよ。少女月刊誌ジュピターの” Can you get the goal?”
は月一連載なのですけど、最新刊の加筆が大わらわでして。巨匠早乙女あきらって、どうしても凝り性ですからね。そこで、樹に一緒に宿題しようと誘われるんですけど、家、それどころじゃないので、ちょっと上がらせて貰いますね」
「どうぞ、どうぞ、樹の部屋、ついでに整理して上げて。写真部の参考資料だからって、ペーパーバック開きぱなしだから」
「はい、お邪魔しまーす」
「ちょっと待った。この雰囲気、巡、いつの間にお馴染みさんでしょう。俺そう言うの聞いてないよ。と言うか、俺の部屋フリースペースじゃないから」
「何を言ってるの、樹、凄いマドンナ来てるって言って来たのに、洗い物片付けると、さっさと部屋に引き上げて。今更何なの、樹は本当に」
「この流れ、私が樹マニアっぽいですけど、口コミで、J-Boyの渾身メニュー、呉マスタードがんすバーガー良いよって言われたら、家族で来ちゃいますよ。それでお父さんもお母さんも、広島クラフトビールが進むって、大盛り上がりですからね。まあ樹いますよねと聞くも、逃げちゃったって。そう、これは樹に問題あるよね。愛想悪いよね。やな感じだよね。ちょっと、それ込みで、まず反省会しようよ」
俺は、自宅に通ずる入り口に辛うじて立つも、巡は巧みな足捌きでフェイントして、俺はバランスを崩し、間も無く押し通される。
巡は本能の嗅覚かで、階段を上がり、俺は3階だからと言うと、一気に駆け上がる。そして、巡は呆然と立つ。
本当に、基地のPAXで買い漁った海外のペーパーバッグが散乱しているので、凄いアナログと言いながら、タイトルに新しい刊行順に瞬まに積み上げられる。これでカーペットが露わになり、卓袱台がセッティングされる。
そこそこと、巡に指定されると、まず文系の宿題からと、俺の腕試しが始まる。記述は強いものの、教科書まず読みなさいと、記憶力で軽く30点は上がるからと、こっ酷く叱られる。
そして1時間毎の10分休憩で、巡が、部屋の隅に置かれた、使い古された座面の高い丸椅子を持ち出し座る。それは、もう山間に引っ越した祖父の作業用のもので、それを使ってもしんどい事から、J-Boyから引退した。
巡がむふふと、凄い生命力を感じると言うと、俺はその経緯を語り、流石私と自画自賛する。
俺の部屋は、簾で和らいだ陽光が入り、その自然光の中で巡の満面の笑みが浮かぶ。スキンケアは精々日焼けクリーム位で、産毛も男性らしくない薄さだ。そして艶やかな黒髪。何よりはソプラノボイスを形成する、男性由来の喉仏の発達が無い。巡は望んでいないだろうが、女子そのものより輝ける存在の位置にいる。
俺は、アマチュアカメラマンとしても本能が騒ぎ、机の上のコンパクトデジタルカメラを取り上げ、巡にピントを合わせる。巡は待ってましたとばかりに、都市圏のモデルさんの様にクールに澄ます。
「樹、フォト、ショートムービー、どっちかな」
「SNSは校則で節度を持ってだから、フォト。もっともアップする気も無いけど」
「そうだよね。学園祭向けに。フォトパネル作ってよ。根気いるだろうけど」
「自虐的は良く無い。巡は、自分の清々しさ知らないんだな」
その流れから、俺達はフォトセッションに入る。連写でも良かったが、巡なりのバイオリズムがあるので、その都度シャッターを押す。そして、巡と視線が合った時、巡はコクリと、カットソーの裾を持ち上げてははだけようとする。性別男性の胸とは言え、偶然着替えで遭遇した時に最後迄隠した胸を、ここで晒すのは、流れでもちょっとかになった。
巡は女性として暮らしている以上、いやどうかなが逡巡する中、姉香澄がご機嫌そのもので、昼の賄いを持ち寄る。そんな時間かと、ぼっとする中、姉香澄で出て行く際に、まだ早いから、と小さく耳打ちされる。流石は勝手知ったる俺の姉だ。
その魔が差したは、賄いが美味しすぎて、どうにか飛んでしまっていた。不意に、巡と視線が合っても、照れは無いので、まあ巡にとっては事故的なシチュエーションの一つかなと、俺からは傷口を開け無いのでそっとした。
そして、お昼のおからドーナッツで満腹になって、今日はここ迄と解散した。
ただ、巡は帰り際に、改めて父君原友雄と母君原菜々美に履歴書を渡し、夏のアルバイトをさせて欲しいと懇願し、週二日の夕方4時間勤務を勝ち得た。俺は流石にだったが、君原家は何かと人情に押されるので、そこは伝統だよなで終えた。
◇
巡が押し掛けたその日、午後10時の閉店から、後片付けての、かなり深刻な家族会議になる。桜庭巡、満15歳、性別男性。そう嘘でしょうの男性。まず女性陣が腰を抜かす。どう考えても女子にしか見えないし、男性特有の骨盤の位置も低く無いのが、間違えて丸したのでしょうと、大確認作業が入る。
俺は、これ迄の経過と、何より強化遠泳の着替えで、男性自身がしっかり見たからとを伝えると。皆の溜め息が出た。何でだったが、俺と巡の親密具合から、先々結婚する運命と受け入れてたらしい。
ここで翻ったのが姉香澄だ。ジェンダーレスの昨今だし、好き合っていたら、私達が邪魔してどうすると。先々の子供の問題は、生涯3人産む予定だから、一人は樹と巡夫妻に養子として送り出しても構わないと強く押される。
いや、そもそも俺達は始まってもいないし、何となく親友として推移している最中と、はぐらかした。ここで答えを見つけたい家族だが、俺の素っ気なさが発揮されたら、巡が可愛そうとばかりに、巡の可愛がり談笑でその場を終えた。
◇
その後も続く。姉香澄が俺の部屋に乗り込んで、書棚のコンパクトデジタルカメラの盤面メディアのバックアアップホルダーをピンポイントで抜き去り、没収と告げる。それは、アルバイト代で購入した鬼才片岡路傍監督のセクシービデオの旅路女子大生シリーズだ。それしか無いのに何を殺生だ。いや言い訳もしどろもどろで。
「香澄さん、それは、そう。各地の自然光がただ郷愁で、土地土地の女子大生も尊いんだよ」
「こんなの、創作物なんだから全部仕込みに決まってるでしょう。何をこんな20枚も集めてるの。良いから没収。後、折角ガールフレンド連れて来たから、これを機会と思って、午後抜け出して、全周域のコンビニ受取りを全部返送にしたから。まあ、よりによってローテーション組んで、5店舗なんて、そういう込み入った気の使い方止めなさい。あなたは高校生、以上。文句無いでしょう」
「巡かよ。あいつ男だって。ガールフレンドなんて、いや、やっぱり複雑」
「樹、複雑も何も、巡ちゃんが今のまま良いなら、女子でしょう。そういう扱いしなさいよ」
「そこさ、家族会議経てをだけど、香澄さん的にどうなの」
「そこは、もう女子で良いと思うわ。男子の思春期は未だ続いているでしょうけど。巡ちゃんの場合、こうで在りたいの制動がかかっての容姿と思うの。将来的に女子性別になるか、性転換手術受けるかもしれないけど、巡ちゃんはこの先もこのままだと思うわ。樹もだからこその、巡ちゃんの操を守らなくちゃいけないの男気が出たのでしょう」
「だから、男と男は、」
「愛に性別は無し。と言うわけで、厚労省の提供する純育恋愛準書のビデオを見なさい」
香澄さんの差し出したタブレットに没入する。そう現在の厚労省は、男女非婚が続き改善案を立て続けに発布する。普通に恋愛も出来ずに、セックスも激しい自主規制が入って、どう対処して良いか、男女のあるべき姿がごっそり抜けている。その飛ばした章の先には、男同士のセックスも衛星措置を徹底的に、懇切丁寧に解説している。アニメーションではあるが、ふむになる。
「これ、高校生が見ていいものなの」
「良いに決まってるでしょう。厚労省がレーティング措置取ってたら、日本が凋落するわ」
「でも、生々しいな」
「巡ちゃん、あの子天然でしょう。本能的に誘うでしょうけど、性行為はウブの筈よ。そこで、万が一のお話だけど、そう言う展開になったら、樹が衛生教育しないと、お互い、体も心も壊れちゃうわよ」
巡がたまに見せる情緒不安定さは確かにある。見た目はカラッとしているが、高校進学を機のジェンダー扱いは、これ迄男子にバレていないものの、心で何かが犇めきあってる筈だ。
その日の夜は、どうしても巡の長く瞬発力のある脚が、ずっと浮かび、朝日が出た頃にやっと疲れて就寝した。
◇
それから毎朝9時きっかり、夏休みの課題片付けの為に、桜庭巡がそんなにギャル仕様の夏服あるのかと呆れながらも、俺の部屋に普通に上り込む。
50分学習しては10分休憩。このルーチンが9時ー17時と、昼食とおやつを交えながら、タイトなスケジュールで進む。流石に二人でこなしている為に、進捗は抜群は良い。
そんな休憩の折々で、巡は自分の場所を見つける。祖父の使い古された座面の高い丸椅子は、巡の腰の高さに丁度かで、座り心地が抜群と、長い素足を何度も組み替えては、不思議とこける事は無かった。
そして巡から、撮影してよと誘う視線が飛ぶ。そしてカットソーの裾を捲り、へそを露わにし自ら撫でては、いつもの無自覚なセクシャルヒーリングが来る。俺は慣れたタイミングで。
「まあ、頭使うからお腹空くよな。今日の賄い、関サバの竜田揚げだから、巡、降りようか」
「良いね、凄く良いね、ああ、行きたいな、佐賀関。おお、行きたい場所がどんどん増える。樹、君原家、いや、J-Boy、ごちそうさまです」
そう、ご覧の通り、巡のセクシャルヒーリングは、いつも食欲に屈する。こうして俺の連戦連勝は今日も続く。
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