第16話 アーサーの秘密

 ———シンが森の中心に向かっていた頃。

  

 ヘラ達は森の中腹でそこそこのレベルのモンスターを倒していた。

 その中でもぶっちぎりでモンスターを倒しているヘラだが、ずっと心ここに在らずと言った様子で暗い顔をしていた。

 そんなヘラにアーサーが近付く。


「ヘラ様、あまり心配しなくても大丈夫だと思いますよ。僕にとってはシンの相手をする人の方が気の毒でしょうがないですよ」

「……別にシン君が負けるとは全く思ってないわ」


 あ、それは思っていないんだ……とアーサーは少し肩透かしを食らう。

 それと同時に、何故そこまで不安そうな顔をしているのだろう、と今度は不思議に思うアーサー。

 

(これがシンなら、彼女が何を思っているのか分かるんだろうなぁ……)


 最も頼りになる友人シンの姿を思い出して小さな笑みを浮かべる。

 しかしこの場に彼は居ない。

 ならば、自分が何とかしなければ。


「ならどうしてそんなに不安そうなのですか?」

「……シン君、最近私と話してくれないんだもの……」

「…………え? あ、まあそれは班が違うのでしょうがないのでは?」

「分かっているから言ってないの。それに多分原因は私のせいだし……」

「ヘラ様が何かしたのですか?」


 そう訊きながらも、アーサーは、ヘラが何をしでかそうと絶対にシンは彼女を嫌いにならないと確信していたので、その理由が分からなかった。

 しかし———ヘラの思わぬ衝撃発言にアーサーは度肝を抜かれることとなる。



「…………一緒に居て欲しいって言ってしまったの……」



 ヘラが顔を赤く染めながら言うと同時に、アーサーはこれでもかと目を見開いて驚きを露わにする。


(え、それって告白では……? あ、だからこの前シンが眠たそうにしていたのか。なるほどね、やっと合点いったよ)


 確かに好きな人から告白されれば寝不足にもなるだろう。

 そう思うと同時に、何故これ程までに関係が進展していたのなら教えてくれないのか。と密かにシンヘ憤慨するアーサーであった。


「それでどうだったのですか? やはり即OKでしたか?」

「え、えっと……シン君が何か言う前に逃げちゃいました……」

「…………だからシンは告白された相手にどう接していいか分からず、ヘラ様は告白した手前、恥ずかしくて話せないと?」


 アーサーは、自分の的確な推理にコクンと頷くヘラを見て、天を仰ぎながら顔に手を乗せる。

 

「取り敢えず……この試験が終わった後で、もう1度シンと話した方がいいでしょう。断言できます。シンは絶対に貴女の期待を裏切らないでしょう」

「———っと言うことは……よし、頑張ってシン君に凄いね。って褒めて貰わなきゃ」


 ヘラはそう言うと同時に駆け出し、学生では倒すのが難しいはずのモンスターをまるで紙切れの如く吹き飛ばし、破壊の特性を持った黒刀で一刀両断。

 その瞬間、自分達のチームに最大ポイントの100Pがプラスされる。


 しかし———恋する乙女は止まらない。


「1位になって絶対に褒めてもらうんだから……!」


 ヘラは器用に木々を足場にしながら黒刀を縦横無尽に振り回す。

 それだけで無数のモンスター達は細切れになり、死体の山が積み重なっていった。

 

「……精霊学園の神童は強いなぁ……」

「そうですね。ですが、サルヴァトーレ様もソファーから起き上がればお強いと思いますよ。その怠惰ぐせを直せばの話ですが」

「相変わらずユイは辛辣だねぇ……そんなんじゃモテないぞー」

「私は秘書ですのでモテなくても結構です」


 ヘラが必死にモンスターを討伐する一方で、怠惰の大悪魔と契約した生徒会長———サルヴァトーレは、自分の周りにやってくるモンスターを全てユイに任せてのんびりと寛いでいた。


「……この班って団結力の『だ』の字もないよね」


 アーサーは3人の姿を見て大きく溜息を吐く。

 この3人を纏めるには、自分が何とかしなければ———と決意していたアーサーの耳に、遠くから響く爆発音が入って来た。

 その少し後で爆煙が上がり、生徒達の悲鳴も聞こえてくる。

 

 更には———


「……っ、シルフィード?」


 アーサーの契約精霊であるシルフィードが、突然自分を攻撃し始めたのだ。

 咄嗟に避けたものの、アーサーの頬には浅い切り傷がついており、そこから血が垂れる。


「これは……少し不味いことになったかも……」


 アーサーは原作にあったこの事件を思い出した、素早くこの状況の深刻さに3人に知らせようとするが———


「私は暴走する精霊と悪魔を討伐して来ます」

「うん、よろしく。俺も……流石に動かなきゃ不味いだろうな」


 ユイは一瞬にしてその場から消え、恐らく他の生徒を襲う精霊と悪魔の下に向かったのだろう。

 更にこれまた珍しく、サルヴァトーレがソファーから立ち上がり、モンスターを屠るヘラとアーサーに号令を掛けた。


「ヘラ、アーサー、試験は一旦中止だ。何かは分からないが、超越級未満の精霊と大悪魔とそれの眷属の悪魔以外の悪魔が暴走している。お前達の精霊は無事だろうから急いで他の生徒の方に迎え」

「はい!」


 ヘラはそう返事をすると、モンスターに突き刺さった黒刀を抜き、悲鳴のする方へ消えていった。

 しかしアーサーは驚いた様にサルヴァトーレの方を見て動かない。


「ど、どうして……僕の本当の精霊を知っているんですか……?」

「俺は大悪魔の契約者だぞ。分からん訳がなかろう? 俺は他の生徒の下に行くが……」

「そう、ですか……わかりました。僕はこの精霊を抑えてから向かいます」

「そうしろ。ではまた会おう」


 そう言ってサルヴァトーレはソファーを残して消えていった。

 

「……皆、記憶ないのに凄いなぁ……僕も負けてられないよ」


 アーサーがそう呟いた———瞬間。


 アーサーの身体から膨大な魔力が溢れ出す。

 

 それは———ゲームの時よりも遥かに強大で、魔力量はシンに僅かに劣るものの凄まじい量であった。

 その魔力に当てられると、理性を失っているはずの精霊や悪魔の表情が恐怖の色に染まる。

 その溢れんばかりの魔力は風に変わり、巨大な竜巻に変化して、暴走した精霊と悪魔のみを巻き上げた。

 その渦の中心でアーサーは言葉を紡ぐ。



「お願い、僕に力を貸して———アウラ」



 世界にもう一体の神級精霊が姿を現した。

 

————————————————————————

 まさかのアーサー神霊契約者。


 現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。

 なので、頑張って欲しい、ヘラ可愛いなど思って下されば、☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!

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