第17話 ヘラの進化

 竜巻に巻き込まれた精霊は風によって切り刻まれて共有精霊界に戻され、悪魔は風に捕まって捕縛される。


「あの魔力は……ウィンドストームのモノかしら? ……相当強いわね」


 ヘラは突然現れた巨大な竜巻に少し驚きながらも直ぐに誰のモノか特定し、視線を切って再び生徒達の下へ走る。

 既に3体の精霊と1体の悪魔を鎮めたヘラだが、まだ息一つ切れていない。


『アレは……アウラか。相変わらず恐ろしい嵐だ。我ら龍族の天敵よ』

「やっぱりアレって神霊なの?」


 小さな姿で顕現したバハムートが、ヘラの肩に乗って煩わしそうに呟いた言葉をヘラが拾い、何処か納得した様子で問い掛けた。

 

『ああ。アレは間違いなく神霊だ。だが……ゼウスの爺さんよりもおっかないぞ。アイツに気に入られるアーサーとやらは凄い奴だな』

「……シン君の方が何百倍も凄いんだから」


 ヘラはアーサーをべた褒めするバハムートにボソッと言い返す。

 そんなヘラの拗ねた様な表情を見たバハムートは楽しそうに笑う。


『くくくっ……本当に恋する乙女になったな主人よ。だが、今の方が生き生きしている』

「う、五月蝿いわよっ! 恋する乙女ですけど何か文句でも!?」

『主人、前に悪魔だ』

「分かっているわ———邪魔よ、寝ときなさい」


 ヘラは黒剣の峰の方で一閃して悪魔の首を強打。

 悪魔を殺せば契約者も死ぬ為、こう言った場合は悪魔の方が面倒だった。

 

「……シン君は大丈夫かしら……?」

『ゼウスの爺さんが付いているんだ。絶対に死なん。主人は先に1番強大な奴を止めろ。チッ……大悪魔のくせに不甲斐ない奴が居るからな』


 バハムートは腹立たしげに露骨に顔を歪めて吐き捨てる。

 そんなバハムートの言葉にヘラは思わず立ち止まって聞き返してしまう。


「も、もう1度言って貰えないかしら?」

『だから、大悪魔の中に理性を失っている奴が居る。ソイツは特に偏屈でメンタルが弱かったから仕方ないと言えば仕方ないがな。残念だが、奴は雷とも風とも相性が悪い。よって倒すなら我らしか居ないと言うわけだ』


 バハムートの言葉に絶句するヘラ。

 流石に大悪魔が暴れていることは予想していなかった。

 しかし同時に、大悪魔が暴れているならば、一気にこれ程の悪魔や精霊が暴れ始めたのにも納得がいく。


『気を付けるんだぞ主人。奴は理性を失っている時こそ強いからな』

「……分かったわ。シン君の手を煩わせない為にも私が戦うわ」


 ヘラは覚悟を決めて、バハムートの案内の下、暴れる大悪魔の所に足を運んだ。










「———っ!?」


 ヘラは僅か数十秒で辿り着いたが———あまりにも無惨な惨状に言葉を失う。

 目の前には数十人の生徒が気絶、又は怪我で倒れており、精霊や悪魔も白目を剥いて気絶していた。

 更に、暴れる大悪魔———サタンを食い止めようと、先程消えていった怠惰の大悪魔と契約しているサルヴァトーレとサタンの契約者であるヴィルヘルムが戦っている。

 

 しかし———


「グハッ———!?」

「ぐ……面倒だな……憑依だけじゃ勝てねぇ……」


 ヴィルヘルムは契約者故に悪魔の力を使えずボコボコにされ、サルヴァトーレに憑依する怠惰の大悪魔———ベルフェゴールがヴィルヘルムを護る盾となって攻撃を一身に食らっていた。

 ヘラは2人がヤバいと感じ———即座に本気を出した。


「《黒白の双刀》ッッ!!」


 バハムートが通常の状態に戻り、ヘラの両手に漆黒の刀と白銀の刀が現れる。

 その双刀は前回ヘラが使用した《黒白の双剣》の上位互換技で、防御力皆無の唯只管ただひたすらに攻撃に特化した技だ。

 ヘラが自らの努力で体得し、形にした正しく自身最高の技。


 世界に誇るヘラの才能が詰め込まれた技の威力は凄まじく———


「はぁああああああ!!」

『グァアアアアアアアアアアッッ!!』


 シンでさえダメージを入れるのに相当苦労していたサタンの身体に超越級の力でありながら傷を刻んだ。

 それも———完全体のサタンに、だ。


 だがその一撃でヘラがサタンのヘイトを買ってしまい、超速でサタンがヘラに迫り、その胴体を貫かんと貫手で穿つ。

 ヘラは即座に回避しようとするが———


(———速すぎて避けられないッッ!!)


 ヘラの身体能力ではサタンの身体能力には到底追い付かなかった。

 しかし———刹那の間にベルフェゴールが2人の間に入り、ヘラの身代わりとなって身体を貫かれた。


「———ごぽっ……くそッ……だから動きたくなかっ……たんだ……」

「生徒会長!! そ、そうだ———これを飲んで下さいっ!」


 口から血を吐き出し、地面に倒れそうになるベルフェゴールを受け止めたヘラは、急いでシンに貰ったエリクサーを飲ませる。

 サルヴァトーレはまだ辛うじて意識があったらしく、エリクサーを口に当てるとゆっくり飲み始めた。


 因みにヘラとサルヴァトーレが攻撃されない理由は、バハムートが身を挺して2人をサタンから護っているからだ。

 しかし、そもそも大悪魔と超越級精霊では、大悪魔に軍配が上がるため、バハムートの身体にどんどん穴が空いていく。


「———バハムートっ!」

『すまん主人よ……我では敵いそうにない……』

「どう言うこと!? 今のってことは、バハムートは本来の姿じゃないの!?」


 ヘラがバハムートを護るように立ち、サタンを睨みながらそう言うと、バハムートはその訳を話し始めた。


『……今の主人では……我の本気に耐えられん……あのゼウスの契約者くらいでないとな……』


 その言葉を聞いたヘラは———



「———大丈夫よ。私は将来シン君の隣に立つ女。絶対に耐えてみせるわ」



 迷う事なく、自信満々に、自らの才能と努力を信じてはっきりと告げた。

 その不遜で傲慢な態度に、バハムートは過去の自分を重ね、豪快に笑う。


『ガハハハ!! 良いだろう!! なら主人よ! 我の本気に耐えてみせろ!!』


 その上からの言葉にヘラは真正面から返す。


「勿論耐えてやるわ———いや、自分のモノにしてみせる」


(それに———シン君の友達に抜かされたままじゃいられない。私は常に彼の1番でありたい)


 ヘラは決意の篭った漆黒に変化した双眼を爛々と輝かせ、声高らかにその名を叫んだ。



「出てきなさい———神竜バハムート」



 嘗て———矮小な竜モドキから世界の強者を倒して神にまで成り上がった荒くれモノの神竜が、今度は弱きモノを護るために降臨した。

 

————————————————————————

 ヘラがアーサーに負けっぱなしのまま居られないよなぁ!!

 やっちまえヘラ!!

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