第18話 一閃

 ヘラとバハムートを中心に、白銀の魔力が湧き上がり、漆黒の魔力を侵食する様に膨張する。

 それはやがて収束し、先程よりも2回りほど大きくなり、全身漆黒だった姿から神々しい白銀の姿へと変貌した竜が現した。


『……久方振りに本気を出すな。それにしても……よく我が力に耐えたな主人よ』

「———当たり前よ。私を誰だと思っているの?」


 ヘラは元に戻った光り輝く白銀の髪を靡かせ、髪と同じ白銀の双眼を爛々と光らせながら不適な笑みを浮かべる。

 そんな圧倒的なオーラを纏う彼女の姿に誰もが目を奪われる。


 それはサタンも例外ではなく、目の前に突如現れた自分を滅ぼしかねない相手に、攻撃を繰り出さないでいた。

 しかし対するヘラは、心の中で毒付く。


(く……やっぱりキツイわね……持って2分って所かしら? でも———その2分で決着を付ける……!!)


「《白竜刀》」


 ヘラの言葉が魔力によって具現化し、魔力によって実体化した刀が目の前に現れる。

 それを掴むと同時にヘラとバハムートが動く。


「バハムート!」

『任せろ主人。———ガァアアアアアアッッ!!』

『ッ!?』


 バハムートの咆哮は空間を伝染してサタンの身体を一瞬だけ硬直させる。

 サタンは緊縛を即座に破り、後方に避けようとするが、既にヘラが目の前に居て、刀を振り下ろしていた。


『……っ、小癪、ナッ!!』


 しかしサタンは全身を赤黒い魔力で飛躍的に硬質化させると、何故か一瞬動きを鈍らせながらも刀に拳をぶつけることで何とか防いだ。

 しかしその攻撃にはあまり力が入っておらず、ヘラは上空へと吹き飛ばされるだけで済んだ。


『———余所見は禁物だぞサタン』

『ッ!? チッ……竜モドキノ分際デ———オレニ触レルナ!!』


 すかさずトドメを刺そうとヘラを追おうとしたサタンだが、再び一瞬だけ動きを鈍らせる。

 その一瞬でバハムートの巨体が割り込み、1メートルもありそうな鉤爪がサタンの魔力の装甲を突き破って身体に接触し、パッと血が宙に舞う。

 だが、サタンは傷を気にした様子もなくバハムートの腕を掴むと、自慢の怪力でその巨体を軽々しく投げ飛ばした。


『相変わらずの馬鹿力だな……』


 バハムートは空中で停滞すると、数十トンもある自分を投げ飛ばすサタンの怪力具合に呆れた様に呟いた。

 しかし次の瞬間には口を大きく開き、漆黒の破壊のブレスを吐き出す。


 そのブレスは一直線にサタンへ迫り———サタンの創造した既存の物とは比べの間にならない硬度を誇る魔力障壁に阻まれ、無惨にも爆発した。

 

 しかし、爆煙の中に1人の少女———ヘラが瞳を輝かせて突入すると、サタンに向かって刀を薙いだ。


 瞬間———鉄と鉄がぶつかり合う様な耳をつんざく衝突音が鳴り響く。

 ヘラの刀とサタンの魔力障壁がぶつかり合う音だ。


『人間ニシテハ中々ヤルガ……ソノ程度デハオレハ斃センッ!!』

「くっ……」


 サタンが全身から魔力を全方位に放出させてヘラを弾き飛ばす。

 しかしヘラは空中でバハムートに受け止められた。


『大丈夫か、主人よ。そろそろ我の姿も元に戻るぞ』

「1つだけ方法があるわ……」


 ヘラが何故か上空へと目を向けると、話しかける様に言った。


「…………シン君、もういるんでしょう?」


 ヘラの確信の篭った言葉に、バハムートはそんな馬鹿なといった訝しげな表情をヘラに向ける。  

 しかし———


「———バレてたか」


 突如声がしたかと思うと、遥か上空から一条の雷が降り、ヘラの目の前で全身を雷に変化させたシンが現れた。







『な、何故分かったのだ……?』


 バハムートが驚きに目を見開いてヘラを見る。

 そんなヘラは『ふふん!』と胸を張りながらドヤ顔で言った。


「気付かなかったの? 途中からシン君がサタンに殺気を放って攻撃を鈍らせていたのを。私はすぐにシン君のお陰だと気付いたわよ?」

『……確かに所々で動きにくそうにしていたな……なるほど、それがシン殿のお陰だったのか』


 バハムートは納得の表情を見せる。


『それで、何故シン殿を呼んだのだ?』

「シン君に少しだけ時間を稼いで貰いたかったから」

「お任せあれ。幾らでも時間を稼ぐよ」


 ヘラはサタンを依然として睨みながらシンに頼む。 

 その推しから頼られると言う状況に興奮したシンは速攻で引き受けた。



 

 


 シンがサタンの下へ飛んで行った後、ヘラは、地面に降りた後で言った。


「バハムート、刀になって」

『———そう言うことか。承知した』


 瞬間———バハムートの身体が光り輝くと共に収縮していき、神々しい光を纏った一振りの刀が現れる。


 その銘は———『神刀・白竜』。


 ヘラは神刀を手に取ると、白銀の質素な鞘を創造して鞘に収める。

 そして鞘を左手で腰に固定して、腰を落として居合いの構えを取った。 


 実はヘラは、部活中に、シンが1人で今まで見た事のない形の剣で不思議な構えの攻撃を何度も練習したのを見ていた。

 シン自身は『俺には居合斬りの才能ない』と大分早めに練習を諦めたのだが、ヘラはたった数回、シンの不完全の居合斬りを見ただけでそれを真似どころか、完璧な居合斬りに仕上げて習得していたのだ。

 まさしく天賦の才と、数多の戦闘経験があってこそ成し得た技と言ってもいい。


 その姿は完全に堂に入っており、張り詰めた緊張感を纏っていた。

 更にそれだけでなく、周りに漂う魔力も含めて全ての魔力が刀へと集い始めるでは無いか。


 そのあまりにも膨大な魔力は、サタンがシンの相手をしながらも、意識を割かなければならないほどだった。


『何ダ、アノ技ハ……?』

「ヘラの努力の結晶だ。ヘラの凄さを表すのに最も適切な技だろうな」

『何ヲ意味ノ分カラヌ事ヲ……』

「まぁ分からないだろうな」

『オレ相手ニ剣ヲ抜カヌトハ……舐メラレタモノヨ!!』

「ヘラの努力を侮辱するなドアホ」


 シンはサタンの殴打をギリギリで避けると、全身から溢れ出る雷電を拳に集結させてサタンを吹き飛ばし———叫んだ。


「———今だ、ヘラ!!」


 シンの合図と同時にヘラはサタンを見据えながら柄に右手を添えた。

 しかし———


『グハハハッ! 馬鹿ナ奴ダ!! オレに攻撃ノチャンスヲ与エルトハ!!』


 サタンは空中で身体を反転させて空中を蹴ると、ヘラに突っ込む。


『死ネェェエエエエエエ!!』


 サタンはヘラに突っ込みながら拳を振り抜く———その刹那の間に、ヘラは刀を誰の目にも留まらぬ速度で抜刀して水平に薙いだ。



「いいえ———貴方の負けよ」



 ————チンッ。



『ガハッ———!?』


 刀が鞘に収まる音と同時にサタンの胸から水平に血が噴き出す。

 その光景に誰もが信じられないといった風に瞠目した。

 それはサタンも同じ事。


『バ、馬鹿ナ……コノオレニモ見切レナカッタダト……!?』


 サタンは自分が斬られた事に唖然としながら、そんな言葉を残して崩れ落ちた。

 

————————————————————————

 今日は1話しか上がられなかった。

 ごめんなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る