第10話 先輩方VS悪役と隠れ最強②

 先に攻撃を仕掛けたのはヘラだった。


「ふっ———」


 短く息を吐いた後、アイリーン先輩目掛けて強烈且つ華麗な跳び蹴りを放った。

 その鮮やかな蹴りに見惚れていたアイリーン先輩だったが、即座に慣れた素振りで回避して、ヘラ目掛けて反撃気味のフック繰り出す。


 そんなアイリーン先輩のフックを———2人の間に割り込んだ俺が、振り上げた足でガードする。

 アイリーン先輩のフックは足で受けたにも関わらず、思わず声が漏れてしまいそうになる程の重みがあった。


「ぐ……」

「良く止めたね……武術の心得が元々あるの?」

「全部独力ですよ……っ!」

 

 俺は片脚で地面を軽く蹴ると、空中で回転して上段蹴りをアイリーン先輩に仕掛ける。

 しかしそんなアイリーン先輩を守る様にバージ先輩が片手で俺の蹴りを受け止めた。


「俺を無視するのは酷く無いか?」

「すいませんバージ先輩。へ、ヘラが危なかったので……」

「ならこれからは俺とやろうか!」

「ごめんなさい。今回はあくまで2対2なので」


 俺はバージ先輩の猛攻を、持ち前のフィジカルと視力でギリギリで避ける。

 ガードなんてすれば間違いなくその部分は使い物にならなくなるのは目に見えていた。


「っ……威力高すぎです……! どうしてそんなに威力出るんですか……!?」


 俺はバージ先輩の低い蹴りをジャンプして避けながら、空中で態勢を整えて一旦距離を置く。

 ふとヘラの方を見れば、俺達と同じく距離を取っていた。


「シン君、悪いけど1人じゃ勝てそうにないわ」


 ヘラが少し申し訳なさそうに言う。

 俺はそんなネガティブか言葉に驚いてしまった。


 まさかヘラが勝てないって断言するなんてな……確かにバージ先輩よりもフィジカルは俺が圧倒的に上なのに、反撃も出来ず防戦一方だしな。

 もしかして……2人ってめちゃくちゃ強い?


「凄いな! 新入生がこれ程の実力とは!」

「いや凄いなじゃ無いよ! 私、普通に負けそうなくらいヘラさん強いんだけど!? これでも武術の腕は天才って呼ばれてたはずなんだけどさ!」

「それは俺もだぞ? なのに俺の攻撃をシンは殆ど全て避けていたんだ。末恐ろしいとはこう言う事だな!」


 どうやらアイリーン先輩もバージ先輩も武術の天才らしい。

 どおりでアイリーン先輩は俺よりも筋力量もガタイもないはずなのにあれ程の力強くて重い一撃を放てる訳だ。

 それにバージ先輩もフィジカルお化けの俺が避けるのが限界な理由が少しわかる気がする。


 この2人を相手に魔力無しは大分キツい。

 それはヘラも思ったのか、俺に訊いてくる。


「シン君、どうする?」

「……ヘラは自由に動いてくれて大丈夫。俺が全部カバーするから」

「大丈夫? 私、誰かと合わせた事ないから無茶苦茶だと思うわよ?」

「全然大丈夫。任せて」


 俺はヘラの言葉に自信を持って頷く。


 何せ、何十、何百、何千とヘラの戦闘シーンは見てきたし、ファンブックでどう言った戦い方を好むのかまでしっかりと予習済みだからである。

 それに、仮に彼女が邪神と契約したとしても救い出す方法を、原作の攻撃パターンを元に既に何個かシミュレーション済み。

 抜かりは無い。


「作戦タイムは終わったか!? これからは少し強めに行くぞ!」

「私も本気出さないと負けそうだから本気出すよーー!!」


 2人がそう言った途端———ヘラが2人目掛けて駆け出した。

 それに続いて俺も走る。


「ふっ———!!」


 ヘラが短く息を吐いた後、地面を強く蹴って空中に跳び、踵落としをアイリーン先輩目掛けて繰り出す。

 そこで俺は———


「すみません先輩方」

「わっわわわ!?」

「ぐ……!」


 ヘラの攻撃が確実に当たる様に、アイリーン先輩が上空を見上げた瞬間に足払いで態勢を崩させ、更には地面に片手をついたまま、バージ先輩に全力で蹴りを放つ。

 これによりヘラの攻撃を防ぐことも邪魔することも不可能。


「はぁああああああ!!」

「きゃぁああああああああ!?」

「リーン!!」


 無理な態勢でヘラの踵落としを受け止めたアイリーン先輩が、悲鳴を上げながら弾き飛ばされる。

 しかし直ぐに態勢を立て直していたバージ先輩が、空中にいるヘラ目掛けて拳を振おうと跳躍していた。


「———俺のこと、忘れてませんか?」

「っ!?」


 俺はバージ先輩とヘラの間に入り、驚きで衰退した拳を全力の拳で迎え撃つ。

 今の俺ではバージ先輩の拳を受け切ることは不可能だが、驚きで態勢を崩したバージ先輩の拳ならば受け止め切れる。

 

 俺達の拳がぶつかり合い、『ドンッ!』という衝撃音と共に何方も吹き飛ばされる。


「———ヘラ!!」

「素晴らしいアシストね! はぁあああああああ!!」

「ぐっ……リーンッ!!」

「ちょっとヤバいんですけどおおおおお!?」


 俺とバージ先輩と入れ替わる様にヘラとアイリーン先輩の蹴りが空中でぶつかり合う。

 そしてこの押し合いに勝ったのは———


「はぁああああああああ!!」

「ちょっとムリーーーー!!」

「お、お前こっちくんなって———ぐはっ!?」


 ———ヘラだった。

 ヘラの蹴りはアイリーン先輩を正確にバージ先輩へと蹴り飛ばし、2人はもつれて地面へと派手な衝撃音を響かせて墜落。

 俺は素早く地面に着地すると、2人が墜落した所に向かい、2人の喉元に手刀を添える。


「これで俺達の勝ちですね?」

「……そうだな。今回は2人の勝ちだ」

「こうさーん。私も足痛いからもう無理ー」


 俺は2人が潔く負けを認めたので、首元から手刀を離し———た瞬間、俺の体に衝撃が走った。

 頭がパニックになる中、ふと背中にやけに柔らかくて暖かい何かが押し付けられていることに気付き……恐る恐る後ろを振り向くと———


「———勝ったわっ! 私、初めて誰かと共闘して楽しいと思えたわ! ありがとうシン君!」

「———っ!?!?」


 ヘラが珍しくテンションを上げて、何と、俺に抱きついていたのだ。

 子供の様に天真爛漫な笑みを浮かべて、きゃっきゃっとはしゃいでいる姿は大変眼福で可愛いのだが———


「シン君! シンく———」

「ヘラさん! シン君はもう既に気絶してるよ!!」

「ええ!?」


 ———推しが俺に抱きついていると言う事実に俺の脳が耐えきれず、人生2度目の尊死を体験することとなった。


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 現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。

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