第7話 武術部

「大丈夫かシン? 何処か痛い所はないか?」

「昨日フラフラだったけどあの後よく眠れた?」

「昨日は皆の為に出てくれたんだろ? マジでかっこよかったぞ!」

「本当にカッコよかったよ! 私思わずきゅんとしちゃったもん!」

「そうそう!」


 次の日いつも通り学校に来たのだが……案の定朝から沢山の生徒に囲まれてしまった。

 自分で目立たないとか言っていたのにクラスに他クラスの生徒すらいる始末。


 まぁ目立つ理由が俺の強さじゃないと言うのは不幸中の幸いか。

 

『人気者じゃのう?』

『全く嬉しくないけどな』


 俺は揶揄う様に言ってくる爺さんを適当にあしらいながら、話し掛けてくる生徒に愛想笑いを浮かべて言葉を返す。

 そんな中、俺の救世主となるアーサーが登校してきた。


「皆おはよう。もうそろそろ教室に戻ったほうがいいよ? 時間も時間だからね」


 朗らかな笑みを浮かべながら他クラスの生徒を帰そうとする。

 そしてアーサーの侯爵家と言う威光が、他クラスの生徒を教室へと戻した。


「サンキューアーサー」

「随分と人気者になったね。まぁ皆の代わりにやられたんだから普通は罪悪感とかあるもんね」


 まぁ俺は皆の為じゃなくてヘラのためだけどな。

 彼女が居なかったら絶対に出てないし。


「そう言えば話変わるけど、今日から部活決めが始まるよね」


 アーサーの言葉に俺はぼんやりとそんな事があったなと思い出す。

 

 原作では何処の部活にも入れてもらえなかった主人公が自分で部活を作るのだ。

 どんな名前だったかはあまり覚えていないが、少し厨二チックな名前だったとは思う。

 

「ただ……アイツが部活作るか……?」

「作らない……かもしれないね。大分強くなってる様だし、引っ張りだこだと思うよ」

「だよな……」


 ほんと、至る所でストーリーぶち壊しやがって。

 幾ら主人公だからと言って、この世界が奴中心に回っているとは限らないのにな。


「因みにシンは何処の部活に入るんだい?」

「俺は……武術部だな。あそこの顧問と知り合いだし、そもそも俺の戦い方的に武術が必要なんだよ」


 本当の理由は、武術部がストーリーに1番関係のない部活だから、というのもある。

 必死に思い出してみても、武術部が何かしたかと聞かれれば全く出てこないほどだ。

 

 つまり、目立ちたくない俺にとっては最高の部活。

 その面ストーリーに出ていないので詳しい部員は分からないが、後輩いびりくらいなら甘んじて受け入れよう。


「そう言うお前は?」

「僕は精霊魔法研究部だよ。兄が部長を務めてて、誘われたからね」


 そう言えばアーサーの兄も優秀だったな。


 部活の部長になるには、その部の中で最も優秀でないといけないので、前世の様に『はい俺やります』とかではならないのだ。

 逆に言えば優秀ならばやりたく無くてもやらなければならないが。

 

「今日は授業ないし、皆ももう行ってるみたいだし僕たちも行く?」


 俺はアーサーの言葉にふと教室を見渡すと、確かに殆どの生徒が既にいなくなっており、廊下の方から沢山の生徒の声がした。

 

「そう……だな。俺達も行くか」


 俺達は廊下を出てそれぞれの部室へと向かった。








「———失礼します。1年C組のシンです。武術部に入部しにきました」

「おおシンじゃないか! 無事に受かって何よりだ」


 俺が武術部の扉を開けると、椅子に座ってコーヒーを飲んでいたドバン先生が少し嬉しそうに強面を緩めた。

 こんな少しあっただけの俺が受かっているだけで喜んでくれるなんて、ほんといい教師だな。


「ありがとうございます! 何とか受かる事が出来ました。それで……入れますかね?」

「勿論だ! 最近は武術部に入る生徒が減っているからいつでも大歓迎だぞ!」


 確かに見た感じ武術部に来た新入生は居ないので、よっぽど嬉しかったのか俺にコーヒーとそれに合うお菓子までくれた。

 それからはあと少しで先輩達も来るらしく、それまで待っていてくれとの事だったので、色々と雑談をして待っていると———


「———先生! 武術部に新入生が———ってまさかの有名人じゃないか!」


 1番に入ってきた筋肉質の上級生は俺を見るや否や目を輝かせて、俺の手を取ってブンブンも振る。

 そんな陽キャのノリに完全に俺は押され気味だった。


「よく来てくれたなシン! 俺の名前はバージル! 君の噂は聞いているよ! 何でも皆の為に格上相手に果敢に立ち向かったんだってな! そんな熱血漢は正に此処向きさ! 俺は歓迎するよ!」

「おはようございま〜〜す……って本当に新入生がいるんですけど!? 私、完全に誰も来なくて虚しくなったドバン先生の嘘かと思ってました!」

「相変わらず人の心を抉るのが得意だな、アイリーン」

「あ、あははは……ごめんなさい」


 アイリーンと呼ばれた活発そうな女子生徒は、結構失礼なことを言った後でギロッとドバン先生に睨まれて小さくなる。

 そんな2人の他に来る気配がない。


 部員はこれだけなのだろうか?


「ドバン先生、先輩はこの御二方だけなのですか?」

「ああ。去年までは10人居たんだが……今ではもう2人しか居ない」

「残念ながら俺達3年2人しか居ないんだ。去年は誰も入部しなかった……」

「あ、あははは……皆ドバン先生を怖がってたもんねぇ……」

「すまん……」


 アイリーン先輩の言葉にドバン先生がシュンと悲しそうに顔を伏せた。

 さっきからアイリーン先輩はズバズバと人の傷口を抉っているので、彼女には弱みを握られない様にしよう。


 俺がそう心に決めていた時———部室の扉が開いた。


「———失礼します。ヘラ・ドラゴンスレイです。武術部に入部しにきました」


 …………。


「「「————何だってぇええええええええええ!?!?」」」

「うそぉ……?」


 ヘラさん……どうしてこの部活に来たんですか?


 確か原作ではこの学園で1番の規模&強さの精霊魔法部に入る。

 それは親からの命令だったので逆らえないはずなのだが……。


 突然3人に叫ばれてオロオロとしている推しの姿を見ながら、俺は取り敢えず使い物にならない3人の代わりに丹精込めてコーヒーを作ってお出しした。


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 現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。

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