第6話 警告

「両者準備はいいですか?」

「ああ」

「大丈夫です」


 相変わらずカイの態度は悪いが、オーガス先生は特に気にした様子もなく手を上に上げ———


「それでは———始め!!」


 開始のゴングを鳴らした。


 俺は開始と同時に雷の光の玉の様な精霊———フルミニスを呼び出す。

 勿論中級雷精霊の方だが、この試合においてはこれで十分だ。


『奴は……転生者かのう? 魂が2つに分離しておるぞ。お主ともあの童とも違うのう……』


 確かアーサーは元の魂のままで、俺が2つの魂が融合してお互いの性格が互いに影響し合っている……だったか。

 なら今の奴は完全に転生した方の人格だろうな。


『俺と奴はどうして違うんだ?』

『それは———お主の身体の持ち主が既に死んであるからじゃよ。そうして欠けた魂の中にお主の魂が入り込んで融合したのじゃな』


 俺は衝撃的な暴露に内心驚く。

 

 ……どうして死んだんだ……コイツは生きている筈なのに……。

 これでも神霊契約者や超越級契約者で無ければ殺される事などまずないはずだが。


『それは儂にも分からんのう……既に魂が融合し終わっていて儂でも記憶を見通せん』


 中々に衝撃的な事を話されたが、取り敢えずそれを考えるのは後にして、今は目の前の問題から対処しよう。


 先程から俺の精霊を観察していたカイが不敵の笑みを浮かべた。


「ふっ……お前、中級精霊しか扱えないのに俺に挑んできたのか?」

「この精霊で十分ですよ」

「はっ! ならこれを見てもそんな事が言えるか!?」


 カイはそう言うと———身体から魔力を噴き出し、風圧が此方まで届く。

 その膨大な魔力に当てられた生徒達は悲鳴を上げながら必死に飛ばされない様に踏ん張っていた。 

 流石と言うべきか、オーガス先生やヘラ、アーサーは意外と何ともなさそうだったが。


 そしてカイの魔力が突如この世界に次元の穴を開け、3体の精霊が現れた。

 

 ……上級2体と王級1体か。


『ふむ……中々やるのう。中の美しい魂の方に惹かれたのじゃろうな』


 明らかに中級1体の俺には過剰な戦力だ。

 それは奴も分かっているはずだが……どうやら見せびらかすだけじゃないみたいだな。


「どうだ? これで俺とお前の力の差を思い知ったか?」

「いえ、幾ら精霊が強くても契約者が強くなければ大して脅威ではありません」


 俺は全身に身体強化を施す。

 雷電を纏えば俺の実力がバレるので、目立たない尚且つ隠蔽しやすい身体強化を選択した。

 それと同時に精霊に指示を出し、雷雲を起こさせ、稲妻を発生させる。


「ふむ……中々に戦い慣れしているな……」


 そんなオーガス先生の声が言っていたのだが、今の俺には聞こえていなかった。


 俺は大分力をセーブしながら駆け出す。

 その間にも雷鳴が轟き精霊が稲妻でカイを攻撃する。

 同時に俺も腰に挿していた剣を抜いて加減して薙ぐ。


 しかし———


「———こんなものか……失せろ」


 カイがそう言った瞬間———稲妻がカイの目の前で霧散し、同時に俺と俺の精霊に炎と水、風の斬撃が飛んでくる。

 

「ぐ……フルミニスっ!」


 俺はその場で急ブレーキを掛け、後ろに飛び退きながら身体を捻る様にして1番早く到達した風の斬撃を避けて、雷の精霊に助けを求める。

 その瞬間に雷の精霊の全力の稲妻が俺の目の前に降り注ぎ、炎と水を何とか掻き消した。


「噛ませ犬の癖によく避けたな……ならこれはどうだ?」


 その瞬間———俺が咄嗟に屈むとその直ぐ上を、先程よりも速度も威力も上がった不可視の風の刃が通り過ぎた。

 

「よ、避けろぉおおおお!!」

「キャアアアアアア!!」

「うわぁああああああ!?」


 その魔法は運の悪い事にまだ精霊と契約していない生徒達の所に飛んでいく。

 

「———障壁」


 その風の刃はアリスさんの障壁によって生徒達に当たる事はなかったが、アリスさんがカイに苦言を呈す。

 しかし、当のカイはと言うと———


「カイ君! もう少し周りのことを考えて戦ってください! 仮に怪我人が出たらどうするのですか!」

「なら結界でも張ればいいだろう? そんなことも出来ないのか?」


 逆に注意をしたアリスさんを挑発する始末。

 

 俺はその口を黙らせるために軽めの雷を撃ち出す。


「《稲妻》」

「《炎壁》」


 空間を唸りながら高速でカイの下へ走る雷電はカイの生み出した炎の壁によって打ち消された。


「不意打ちか? やはり弱者は卑怯な事しか出来ないんだな」

「…………」

「はっ! これなら俺がヘラを指名すれば良かったな」


 その言葉に俺だけでなく生徒達———特に貴族の連中が驚愕に目を見開く。


 あのヘラを呼び捨てにしたのだ。

 それも強いとは言えただの平民が、貴族である自分達ですら迂闊に名前を呼ぶことも許されない公爵家の令嬢を。


 これには修練場に響めきが巻き起こる。

 そんな中でただ1人———カイだけは生徒達を馬鹿にした様に笑った。


「この世界は強い奴が上だろ。なら俺がヘラを呼び捨てにしてもいいだろ? なぁ……ヘラ、俺と戦わないか? 。お前が勝てば……まぁ何でも俺に命令しろ。絶対に守ってやるよ」


 その言葉にヘラも驚いた様に目を見開き、修練場に更なる響めきが巻き起こる。


 …………落ち着け。

 そんな事ヘラの家族が許すわけがない。

 そして何よりヘラが受けるわけがない。


 俺は無意識に唇を噛み、拳を握る。


 分かっている。

 平民のカイの言うことを聞く必要などヘラには1ミリもないことは。


 だが———俺の中に渦巻く激情を抑える事が出来ない。


「……カイ君、それは俺と戦うのが怖い、と捉えてもいいですか?」

「あ? 何を言っているんだお前?」


 …………だと……?


 俺は暗い暗い笑みを浮かべる。


「だってそうでしょう? 俺と戦うのが怖いからこうして試合を中断しているのでしょう?」

「…………あまり調子に乗るなよ。いいだろう……お前は俺の足元にも及ばない雑魚だと言うことを教えてやるよ。やれ———イグニス」


 無表情になったカイはそう言うと、人型の炎の精霊が手を上に上げると、この武舞台とほぼ同じ大きさ———約直径五十メートル———の炎の球が俺達の頭上に現れる。

 そしてそれはゆっくりと俺を呑み込まんと落ちて来る。


「っ!? こ、これ以上はやめなさいカイ君!! これは明らかに一線を超えています! ———《多重障壁》ッッ!!」

「私も手伝います! 《多重障壁》!!」


 オーガス先生とアリスさんが、何重もの障壁を張り、更には水の精霊を呼び出して水壁まで使う。

 このお陰で外から俺達の事が見えなくなり、魔力が外に漏れる心配もなくなった。


 つまり———一瞬ならば何をしてもバレないと言う事だ。


『やるのか?』

「勿論だ。これ以上は看過出来ない」

『……儂が出れば流石にバレるじゃろうから、お主が何とかするのじゃぞ?』

「当たり前だろ。この程———俺だけ十分だ」

 

 俺はフルミニスを共有精霊界に帰すと、何もせずに頭上を見上げる。

 その姿を見たカイは俺が諦めたとでも思ったのか、見下す様な笑みを浮かべた。


「あれだけ挑発しておいてこのザマか? 何て情け無———」

「———お前は1つ過ちを犯した」


 俺の身体から魔力が溢れ出し———辺りに雷電が雷鳴を轟かせながら渦巻く。


「だが……もう1つの魂に免じて今回は警告だけで終わっておいてやる」

「はっ! 警告? 弱者のお前が俺に警告するのか?」


 俺は全身に雷電を纏うと———迫り来る巨大な炎の塊を殴り飛ばす。

 瞬間———大爆発が巻き起こり、辺りを爆煙が包み込んだ。


「な———ッッ!? そ、そんな馬鹿な———ぐっ!?」


 俺は爆煙の中、一瞬で移動してカイの首を掴んで持ち上げると、殺気をぶつけながら言い放つ。




「いいか、警告しておくぞ、カイ。次、ヘラに何かしようとすれば———俺がお前を殺すからな」



 

 俺はそれだけ言うとカイを投げ捨て、全ての魔法を解除した。

 そして爆煙が晴れ、障壁がなくなった後、オーガス先生に告げる。


「降参です。どうやら俺に当たる前に爆発させた様ですが……俺にはもうこれ以上は無理です」

「そ、そうか……よく頑張ったな。———これにてエキシヴィジョンマッチを終了します! 勝者は———カイ!!」


 こうして俺はわざとふらふらと歩きながら、尻餅をついて呆然としているカイをおいて武舞台を降りた。



 警告はしたからな、カイ。

 

 もし次、ヘラに何かしようとすれば———



 ———その時は覚悟しておけよ?


 


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 現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。

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