第5話 イキる主人公と決意する隠れ最強キャラ


「……昨日のことは現実だったのか……? もしかしたら俺が作り出した妄想又は夢という線も———そっちの方がありそうだな」

『夢じゃ無いわい……信じられないからと妄想と処理するのはやめんか』


 爺さんが未だに信じられない俺に、呆れた様に溢す。


 だが、今回は俺がこんな事になるものしょうがない気がする。

 だって推しと同じ空間に居て名前まで呼ばれて会話までしたんだぞ?

 誰だって夢か妄想かと本気で思ってしまうだろ。

 

 因みに昨日はあれから30分程雑談を講じた後、ヘラがあまり姿を消していれば家族が何をするか分からないと言った感じで直ぐに解散となった。

 此処でアーサーの交際がバレたらバレたで別の意味でヤバいと言うもの1つの理由だ。


「皆さ〜ん———今日は初めての精霊の授業ですから、くれぐれも巫山戯るなどの行為はしないでくださいね〜〜。もしその様な事があれば最低でも停学ですからね〜」


 そう言うのは、あの後侯爵家の捜査で色んな汚職がバレて担任をクビとなったルージュに変わって新たな担任になった、ほんわか系美女のエマ先生。

 エマ先生はゲームでのサブヒロインで、有料DLCで攻略が可能になるキャラだ。

 母性の塊で、数多のプレイヤーを幼児退行させたゲーム内屈指の人気ぶり。

 そんな彼女だが、主人公の手に掛けられているかは不明である。


 そんなママ系ヒロインのエマ先生のぽわぽわした笑みとは裏腹の物凄く恐ろしい一言に、生徒達は一瞬にして静かになり、背筋を伸ばして綺麗に座る。

 皆真剣な表情でエマ先生を見ていた。


「皆さんは大丈夫そうですね〜〜。それでは中庭の修練場に移動してください〜〜」


 エマ先生がそう言って教室を出ると、皆どこからともなく並び始め、最終的には俺達はまるで軍隊の様に整列して一言も会話をせず修練場に向かうこととなった。

 そんな俺達の姿を見て、爺さんが爆笑していたが。

 

 





 



「———それでは精霊と既に契約している人とそうで無い人に分かれて下さい」


 ゲームでも何度も出て来ていた有名モブのオーガス先生の言葉に、全1年生が一斉に移動を開始する。

 俺は中級精霊と契約していると受験の時にも書いていたので、契約している人達の下へ。


「シン君も契約しているんだね」

「ああ。一応中級精霊とな」


 俺が契約している生徒の下に着くと、既にいたアーサーが笑顔で近付いてきた。

 因みにアーサーには爺さんと契約している事は言っていない。


 当たり前だが、この世界に神霊と契約している者は10人足らずで、その価値は国が神霊契約者を取り込むために他国間で牽制し合っているほどだ。

 依頼をするにも莫大な資金が必要で、敵に回すなど以ての外。

 

 過去にとある帝国が神霊契約者を敵に回し、一夜にして滅ぼされた。

 当時の帝国の人口は1億人足らずだったが、兵士は数百万人も居たにも関わらず、全てを羽虫の如く薙ぎ払ってしまうほどである。


 そんな誰もが喉から手が出るほど欲しがる神霊契約者だと、此処でバラすは愚策以外の何者でも無い。


「そう言うアーサーは上級精霊と契約しているんだったか?」

「うん。本当は超越級精霊だけどね」

「!? おいっ」

「大丈夫だよ。周りの風をコントロールしてるから声が周りに届く事はないよ」


 そうは言ってもな……ナチュラルに暴露するなよな。

 まぁ全部知っているんだけどな。


 因みに推しのヘラは、相変わらず沢山の貴族達に囲まれている。

 見た感じの表情は変わっていないが、ヘラガチ勢の俺には彼女が嫌がっているのが手に取るように分かった。

 そこで俺はアーサーに告げる。

 

「アーサー頼む」

「了解だよ。じゃあ少し離れるね」


 アーサーは俺にそれだけ告げてヘラの下へ向かう。

 

 何故俺が行かないかなど言わなくても分かるだろう。

 俺の様な平民がヘラに近付けば余計面倒なことになるだけだからな。


 しかしアーサーは公爵家に継ぐ有力貴族の子息。

 アイツに逆らえる者は殆どいない。


 そして俺の狙い通り、アーサーは見事ヘラを救い出した。

 更に何やら話をしてヘラが驚いた顔で此方を見たので、きっとアイツが何か余計な事を言ったに違いない。

 

「チッ……余計な事を……後で何を言ったか問い詰めるか」


 俺はそう心に決め、有名モブ、オーガス先生が話し出すのを待つ。

 ふと精霊と契約していない者達の方を見ると、大体が平民で、辺りの精霊と契約をしている者達から陰口を叩かれていた。

 何なら先生の見えない所で貴族が平民を脅しては笑ったりしている。

 

『上には媚び、自分より下の者には嘲笑か……醜いのう……』


 爺さんが呆れた様に吐き捨てる。

 まぁこんなに格差が顕著なのは人間だけだろうな。

 だが———


『それが人間だ。特にこの学園はそれが顕著なんだよ。俺からしたら俺らのクラスが異常なだけだ』


 勿論いい意味でだけどな。

 あんなに貴族と平民関係なく仲が良いのはウチのクラスくらいだろう。


 俺が未だに仲良く話す我がクラスの固まりを見ていると、オーガス先生が話し出す。


「皆さん別れましたね。それでは精霊と契約を交わしていない生徒は、私の助手のアリスに精霊と契約する方法などを教えて貰ってください。そして既に契約している者は、これから精霊と共に戦闘訓練を行います。誰かエキシヴィジョンマッチをやってくれる生徒は居ませんか?」


 オーガス先生の投げ掛けに、誰も答えない。

 多分どの生徒も此処で負ける事でこの先の自分の人生が左右されると分かっているのだろう。


 しかし———1人だけ手を上げた。


「しょうがないな……此処は実技1位の俺が出てやるか……」

 

 そう———転生者(?)のカイだ。

 完全に調子に乗っている彼の言葉に場の空気が固まる。

 勿論俺もだが、他とは違う理由で、だ。


 ……ストーリーを簡単に変えてくれんなよ……。


 そう、本来このエキシヴィジョンマッチで主人公であるカイが戦う事はない。

 本来であればヘラと2年生が戦い、ヘラが圧勝すると言うストーリーだ。


 こんな非常事態に当たり前だが、誰もがカイの魔力量と実技の戦いを目の当たりにしているため、誰もやりたがらない。


 そして何処から始まったのか分からないが……口々にヘラが戦えば良いと言う者が現れた。

 俺はそんな無責任な奴らの言葉に怒りを覚える。


「クソ野郎共が……ヘラに押しつけんじゃねぇよ……此処は俺が出るか?」


 こんな所で戦うとなれば目立つ事は避けられない。

 しかし———


 好きな推しが目の前でやられているのをただ黙って見ている事の方が許せない。 


「私がやりま———」

「俺が出ます」


 ヘラが全て言い終わる前に俺は大声を上げて手を上げた。

 突然の事にヘラもアーサーもこの修練場にいる全ての生徒が驚いた様に俺に注目する。


「シン……実技は学年378位か……大丈夫か?」


 オーガス先生が少し心配そうに俺に聞くが、俺は大きく頷く。


「大丈夫です。負ける事は分かっていますが、出来るだけ怪我しない様に頑張ります」

「……ありがとう。———それではこれよりカイVSシンのエキシヴィジョンマッチを始めます! 両者は武舞台の上に上がってください」


 俺は数多の生徒の視線が痛いくらい刺さる中、アーサー、クラスメイト達が心配そうに此方を見ていた。

 そんな良い奴らに俺は笑顔でサムズアップする。


 そして———


「シン君、私が彼との対戦を———」


 ヘラが心配そうに此方へ近付き、そう言ってくれるが……俺は再び被せる様に口を開いた。


「大丈夫ですヘラ様。これでも傭兵をやってましたので、自分が怪我をしない様に立ち回るのは得意なんです。それに———」


 俺はヘラの目を見て言った。



「———女の子をこんな危ない目に遭わせる訳にはいかないでしょう?」


「っ!?」


 驚いた様に瞠目して固まるヘラを置いて、俺は武舞台へと上がった。


「お前は……ふっ、主人公を際立たせる噛ませか」


 カイは一瞬俺の顔を見て訝しげな顔をするも、直ぐによく分からない解釈をして、憐れむ様な笑みを浮かべる。

 俺はそんなカイの挑発を無視して、如何にして目立たず負けるかを模索し始めた。


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 オタクのくせにちょっとかっこいいなおい。


 現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。

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