第3話 協力者の真意

「ふぅ……お前は何者だ……?」

「だから、そんなに怖い顔しないで」


 アーサーが笑みを浮かべて敵意がないと言う風に手を上に上げる。

 ただそのポーズはこの世界ではあまり意味がない様に思えるが……前世の記憶を持っている証明をしたいだろうか。


「それに僕は君みたいな転生者とは少し違うんだ」

「……どんな風に違うんだ……?」

「うん、簡単に説明すると……記憶だけを引き継いだって感じかな? ある日突然この世界の攻略本を手に入れて読んだって感じ。だから君みたいに自我が混ざり合うわけでもない。僕は紛れもなくアーサー・ウィンドストームだよ」


 なるほどな。

 だから爺さんが俺の様に魂が2つないって言っていたのか。

 それにしても例えるの上手いなコイツ。


 俺は今一度アーサーを観察する。

 俺への敵意は感じられないし、武器を持っている様子もないな。

 更に言えば廊下での魔法を使用は禁止されているので、品行方正なアーサーが魔法を使うとは考えにくい。


「お前は俺の知るアーサーで間違いないのか?」

「うん。ただこの世界の攻略本を頭の中に取り込んだ、少しグレードアップした僕だよ」


 まぁ確かに、先程もゲームでのアーサーがやりそうな事をやっていたし、俺やあのカイの様に性格が変わっている事もないので、多分奴の言うことは本当なのだろう。

 ただ———


「———お前が俺に協力を求める理由が分からん。お前はだろ?」


 俺が1番理解出来ないのはそこだ。

 何故この話を俺に持ち掛けるのかが分からない。

 

 俺が訝しげにアーサーを見ていると『わかったよ降参だよ降参』と言って話し始めた。


「———僕はね、将来結婚したい人が居るんだよ」

「…………は?」


 俺はアーサーの驚きのカミングアウトに一瞬思考が停止する。

 

 え、コイツに結婚したい人が居るのか?

 いやまぁコイツも思春期の男だし色恋に興味があるのは勿論理解が出来るんだが……コイツの好きな人って幼馴染で聖女のシンシアじゃなかったっけ?

 だから例え主人公に好きな人を取られても側で主人公を支えていたとか何とか……。


 今考えると友人キャラが好きな人を主人公に取られるって鬱ゲーっぽいよな。

 よく闇堕ちしなかったよ。


「シンシアは良いのか?」

「うん。だいぶ昔にカイって男を好きになったからね。それにこの世界の知識でどのみち彼のモノになるならきっぱり諦めようと思って」

「まぁ……それが1番の最適解だな。……因みにお前の好きな人は?」

「ん? 普通の平民だよ。多分君も知らないさ。でもとても優しくて健気で僕に元気をくれるんだ」


 そう言って彼女を思い出しているのか少し顔を緩ませるアーサー。

 彼のこんな顔はゲームでも見た事なかった。


 アーサーは、大体常に柔和で爽やかな笑みを浮かべていた。

 しかしどれも幸せそうな笑顔とは言い難いものだったのをよく覚えている。

 

「……ベタ惚れじゃねぇか」

「そうだね。僕は彼女———マリアが好きだよ。そして今付き合ってる。この学園を卒業して家を出たらプロポーズするつもりさ」

「だから力を隠しているのか?」

「本来は家督を継ぐのが面倒だからだったけど、今ではそれが1番の理由かな。貴族と平民は結婚できないからね。だから彼女の為にもカイのくだらない争いに巻き込まれるわけにはいかないのさ」

「だから俺に近付いたと?」

「共犯者がいる方が隠しやすいだろう? 先生の目を欺くのは流石に難しいんだ」


 アーサーは肩をすくめて『不甲斐ない事にね』と言った。


 確かに、幾らアーサーが強いとは言え、あくまで学生レベルだし、その実力で先生を欺くのは至難の業だろう。

 だから自分と同じで隠し事がありそうな俺に目を付けたと。


『どう思う、爺さん?』

『嘘は言っておらぬぞ。全て本心じゃな』


 爺さんが言うなら間違いない……か。

 

「……お前の動機は分かった。だが……お前と手を組んで俺に何の得があるんだ?」

「———シン君はヘラ様が好きなんだろう?」


 コイツ……一体何処まで知っているんだ?


「僕なら君と彼女を合わせる事が出来る。これでも侯爵家の子息だからね」


 確かにガチ恋勢の俺にとっては願ったり叶ったりの提案だ。

 しかし、俺は彼女の幸せが1番なので、彼女に無理に近付こうとは思っていない。

 俺なんかは陰で護るに限る。


「———遠慮しておく。俺にはその提案は必要ない。ただ……その代わりと言っては何だが、主人公に顔が割れるのと、ヘラの貴族から来る悪意を防いでくれ」

「勿論それくらいお安い御用さ。じゃあ……宜しくね」

「……ああ」


 この瞬間———俺達は協力者となった。









「此処からなら誰にもバレずに学園を出れるよ。僕が彼女に会いに行く為に毎回使っているんだ」

「大貴族の家族に内緒で数年間も付き合えるとか……凄いなお前」

「これでも隠し事は得意だからね」


 放課後。


 俺はアーサーと共に学園の裏門よりも人の居ない、雑木林の中にある小さな門にやって来ていた。

 理由はアーサーが俺にマリアを紹介したいとのことで、誰にもバレない様に外に出る為だと言う。

 

 そんな俺達の背後から人の気配がしたかと思うと——— 


「———ご機嫌よう。こんな所で何をしているのかしら?」

「!?!?!?!?」

「あ、これはヘラ様。お久しぶりです」


 何故かヘラ推しがそこにいた。

 突然の事に俺は驚きと困惑で軽くパニックに陥る。

  

 め、女神……じゃなくて。

 何で此処にヘラが居るんだ……!?


 俺は物凄い勢いでアーサーを見るも、アーサーも俺と同じく困惑している様で、困った様に笑みを浮かべていた。

 この表情を見るに、彼がヘラを呼び出した訳ではないらしい。 


 「ならアーサーに用か?」と、俺の頭が混乱を極めていると———何故かヘラは俺の方を見て言った。


「初めまして。私はヘラ・ドラゴンスレイよ。貴方の名前は?」



 ———中々お目にかかれない、小さな笑みを浮かべて。


 

 あっ女神が笑みを……尊い……。

 ヤバいって……攻撃力高すぎだろ……可愛すぎ死ぬ……あっ。


 俺はヘラのあまりにも眩しくて神々しい笑みに尊死した。

 

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 現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。

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