第15話 カイの変化
俺は実技試験の会場に向かいながら、カイについて考える。
確かストーリー開始の時のカイ(俺達プレイヤーが操作する時)の初期魔力量は8000と学年最下位でと言う設定だった筈だ。
そこで最下級クラスに入り、問題児の多いクラスの仲間と徐々に和解して団結しながら成長していくと言う王道ストーリー。
しかしその前提がこの瞬間に破綻した。
それはストーリーが一気に崩れると言うことだ。
いや……
だが、絶対に変化がある筈だ。
後は、カイが転生者ではなく、この世界が現実が故に強くなっただけと言う場合であればいいが……。
転生者の場合の方が面倒だ。
あそこまで強くなれるなら絶対にストーリー知ってそうだしな。
仮にそうなら是非とも奴の目的まで知っておきたい。
「まぁ今考えても堂々巡りになるだけか……」
どうせわからないのだから、今は取り敢えず目の前の事からクリアしていこう。
俺は気を取り直して足早に会場へと向かった。
「———次、2000番。武舞台に上がって下さい」
「……はい」
実技試験は大体の受験生が一撃で倒されてしまったため、僅か2時間半ほどで最後のカイの番が来た。
呼ばれたカイは、ゲームの時の性格とは全然違って、少し気怠げに返事をして武舞台に上がる。
因みにヘラは、試験官をまるで赤子を捻るかの如く圧倒していて、俺は安定の平均的な戦いをして負けた。
だが、カイは
とはいえ他の者からは期待大のカイは、試験が始まりそうなのにも関わらず未だに気怠そうに武器すら構えていなかった。
本来主人公であるカイは何かしら武器を使うはずなのだが。
「……2000番、武器は使わないのか?」
今回試験官を務める精霊士の教授———ルードが眉を顰めてカイに苦言を呈す。
しかし、そんな試験官の言葉にカイは面倒くさそうに答えた。
「お前程度に武器は必要ない」
「なっ!?」
「!?」
おいおいどうなってんだよ
お前そんなキャラじゃないだろ!?
どんどんカイが転生者なのでは無いかと言う疑惑が大きくなっていく。
と言うかもう奴は俺が知るカイではなく、中身はゲームのことを知っている俺と同郷の転生者とまで間違いないだろう。
その場合更に不味いのは———俺の顔を知っている可能性があると言うことだ。
一応シンの出てくる話は有料DLCだったので購入していないニワカなら多分バレないだろうが、俺と同等か少し下なら間違いなく知っている。
これに関しては、奴が知らないことを天に祈るしか無い。
「……ふぅ……あまり調子に乗っているとそのうち痛い目を見るぞ」
ルードは流石選ばれた試験官なだけあり、怒りを抑えて忠告するだけに留まった。
しかし、そんなルードの温情すらもガン無視してさっさと来いとでもいいだけな態度をとるカイ。
そんなカイの態度にこれ以上話しても無駄だと判断したルードは剣を構え、上級炎精霊を召喚した。
「それではもう始める」
ルードは剣に炎を纏わせて突っ込む。
流石試験官なだけあって、中々の速さだ。
ルードはそのままの流れで全く違和感のなく剣を振る。
しかし———
「———遅い。欠伸が出るほど遅い。こんなものか、試験官も」
「グハッ……!?」
カイは最小限の動きで試験官の攻撃を避けると、試験官を首トンして気絶させた。
そんな予想だにしない光景に、受験生も試験官達も唖然としている。
だが、俺とヘラ、残りの優秀な者はカイに冷たい視線を送っていた。
理由は簡単で、カイはこの実技試験の意味を分かっていないからだ。
ただ強ければいいってわけじゃ無い。
この実技試験は受験生の得意不得意を学園側が知るのと、どのクラスが良いかを吟味するためのものだ。
なので、こう言った場合は一気に決着を付けるのではなくて、少し長めに戦闘を続ける必要がある。
それを全く理解していないから俺達は冷めた目で見ていたのだ。
と言うかそもそも精霊士との対決なのに精霊使わないって言う所がダメだろ。
精霊使えよ。
しかしそんな俺達の視線に気付かないカイは、そのまま気絶した試験官を置いて武舞台から降りてしまった。
それと変わる様にドバンや他の試験官が武舞台に上がり、ルードを救護室へと連れて行く。
ルードが武舞台からいなくなった後、ドバンがカイを注意する。
「受験番号2000番、色々と言いたいことはあるが、自分が気絶させた相手を放って武舞台から降りるのは良くないぞ」
「アイツが弱いから気絶した。弱い奴に手を差し伸べる意味はない」
「!? そう言うことでは無くてだな……」
ドバンは至極真っ当な事を言っているが、カイには全く通じない。
そのため次の言葉が出ないドバンだったが———話を引き継ぐ者が現れた。
「———貴方は何の為にこの学園に入学するおつもりですか? 今の貴方の姿を見ていると、根本的に学園に合っていないように見えますが」
「…………あ"?」
———ヘラである。
彼女は不快感を隠さずキッとカイを睨みつける。
流石ヘラ———じゃ無くて不味いぞ。
俺はもしもの時のために身構える。
此処で動くなどシャレにならないが、ヘラを傷付かせるわけには行かない。
一応仮面も持っているので、マジでヤバい時はそれを付けて出て行こう。
しかし———俺の予想とは違い、カイは一瞬ヘラに不躾な視線を向けたかと思えば、武力を行使することはなく、そのまま何処かに消えていった。
「……いつか必ずお前も俺の奴隷にしてやる……」
誰にも聞こえないほどの小声で呟きながら。
俺はそんなカイを見ながら、内に滾る怒りを何とか抑え込み、冷静になろうとしていた。
落ち着け俺……まだ此処で奴に接触するのは早い。
一応まだヘラにも危害は加えていないし……。
「……1番の不穏分子は主人公か……」
流石鬱ゲー世界だ。と俺は軽く天を仰いだ。
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