エピローグでプロローグ

『———で、どうじゃった?』

「ああ……完璧な順位で合格だ」


 俺は自身の下に届いた合格通知表の1000位中514位と言う素晴らしい記録を爺さんに見せつける。

 正しく俺が狙っていた通りの順位だ。


『まぁそんな順位で喜ぶのはお主くらいじゃろうな。じゃが……言葉と違って不安そうじゃのう?』

「……しょうがないたろ……俺の他にも転生者が居たんだから……」


 そう———カイはやはり俺と同じ転生者だった。

 確定とまでは行かないが、99.9パーセントで転生者だろう。


 あの入学試験の後、実際にカイの生まれた村に自分で足を運んで聞き込み調査をしたのだが……どうやら8歳あたりで突然人が変わったかの様に他人に微塵も興味を示さなくなり、ひたすら何処かに出かける様になったんだとか。


 もうめちゃくちゃなテンプレな転生者行動やんか。

 絶対原作チートで好き勝手したい奴じゃん……ってまぁ俺も似た様なもんだけど。


 しかし奴が後に主人公が契約する神霊と契約してないのを見ると、まだ契約出来るほどの強さになっていないのだろう。

 恐らく自分の命を優先してチキったな。


 だが、俺的には奴がまだストーリー中盤に差し掛かったレベルでしかない事に少しホッとする。


『そろそろ時間じゃぞ?』

「分かってる。もう準備は出来てる」


 俺は学園から支給された学生服に身を包み、精霊契約者の証であるバングルを付ける。

 このバングルは精霊と契約している者は王国内にいる間は絶対に付けないといけない。

 

『このバングルはいけすかん。儂の力が阻害されておるわ』

「へぇ……このバングルってそんな力があったんだな」


 少し考えれば、確かに精霊士は一般人にとって危険だし、対策が取られ無いわけがない。

 

「まぁどうせ強制だし気にしないでいいか」

  

 俺は顔を洗って髪を整えてその他様々な身支度を進める。 

 一応ヘラを護る為に隠して携帯できる暗器や魔法スクロールなども用意しているが……まだ使わない事を願いたい。


 それと念入りに身体も綺麗に洗っておいた。


 仮に推しの目に入っても不快にならない様にしないとな。

 推しに汚物を見せるわけにはいかない。


「よし———それじゃあ行くか」


 ストーリーが開始する———入学式へ。



 






 一方その頃この世界の主人公であるカイは、真紅の髪の美少女に責められていた。


「ちょっとカイ! 私以外の女に何であんな目を向けるのよ! それは私だけにしときなさいよ!」

「醜いですよアリアさん? カイさんは貴女の様な貧乳口悪女ではなく私の方がいいですよね?」

「誰が貧乳口悪女よ! アンタだって性悪じゃない!」

「おい、2人とも静かにしろ」

「「ご、ごめんなさい……」」


 カイの一言で途端に静かになるゲームのメインヒロインのアリアとシンシア。

 しかし、2人の瞳にはハートが浮かび上がり、顔も赤く染まり、恍惚の表情を浮かべて身体をもじもじさせていた。

 

(はっ、メインヒロインっつてもチョロいもんだな。少しすぐに俺に従順になりやがってよぉ)

 

 本来2人とも入学時点での好感度はそこまで高くない。

 アリアは幼馴染のため高いが、シンシアとはそもそも学園で会うのだから。


 しかし、カイはある日から思い出した前世の記憶にあるこの世界の知識をで、2人を手籠めにした。

 このゲームでのメインヒロインは本来この2人と同じクラスの俺っ娘と、2年の時にやって来る転校生の4人。


 片方は貴族で片方は今のカイの強さではそこに辿り着けないため、攻略していない。


(チッ……本来の計画ならすでに全てのヒロインを攻略していたはずなんだがな……。何故神霊どもは俺と契約しないんだよッ! 俺は精霊に愛されているはずだろ!?)


「ちょ、ちょっとカイ……? 顔が少し怖いわよ……?」


 眉間に皺を寄せ、腹立たしそうに顔を歪めていたカイをみて心配そうに顔を覗き込むアリア。

 そんなアリアをカイは下品な目で見ていた。


(やっぱりメインヒロインなだけあって物凄い美少女だな……前世の俺だったら相手にされないだろうが……俺はこの世界の主人公。更には原作知識もある。だから———)


 カイは顔を醜く歪めて嗤う。


「———ヘラ・ドラゴンスレイ……お前を必ず俺のモノにする……! どんな声で鳴くか楽しみだなぁ……」


 そう、誰にも聞こえない程の声量で呟いた。









「———ヘラお嬢様、後少しで入学式です。公爵家を背負っていることをお忘れなく」

「……分かっているわ」


 シンが推しの目を汚さない様にと風呂に入っていた頃。

 ヘラは家の馬車に乗って執事の小言にウンザリとしながら適当に聞き流していた。


(この執事も口を開けば公爵家公爵家……いい加減聞き飽きたわ……)


 未だに何かを言っている執事に嘆息する。


 家の人は誰も自分を見てくれない。

 常に公爵家が如何に権力を手にするかしか考えてない。

 それ以外の人間も、基本は私ではなく私の家の事を見ている。

 ついでに自身の体目当て。


 ヘラは、自分でも端正な顔立ちに男が好きそうな身体をしている自覚はある。

 しかし、それでも不躾な視線や丸分かりの欲望に当てられると気持ち悪くなってしまうものだ。


(あ、でも……)


 ヘラは先日行われた入学試験で見た、1人の受験生を思い出す。

 いつもと変わらない不快な視線に辟易としていた頃、ふと違和感を感じた。


(彼はどうして私を見ていたのかしら?)


 始めはヘラの外見に釣られて見ていたと思っていた。

 しかしシンの瞳を見たヘラは感情を感じ取ってしまった。


(愛情、尊敬、使命感、庇護欲……どれも私が1度も感じたことのなかった感情……)


 あの時の事を思い出し、ヘラは驚き過ぎて顔に出てしまった事を自覚して、少し恥ずかしくなる。

 それと同時に今まで感じたことのない感情に戸惑っていた。

 

「彼、受かっているかしら……?」


 筆記試験はどうかは分からないが、魔力測定も実技試験も悪くはなかったと、ヘラは記憶していた。

 毎月と言っていいほど貴族のパーティーに出席しているヘラでさえ1度も見たことのない顔だったため、貴族ではなく平民であることは間違いないだろう。


(学園に行くのは心の底から嫌だけれど……)


 ヘラはふっと無表情を崩して少し口角を上げた。


(彼に会うのは少し楽しみね)


 次に会った時は、少し話しをしてみたい。

 彼が自分に向けるその感情の理由を聞いてみたい。


(なんて……考えるだけ無駄ね。どうせ私の周りには煩わしい貴族の子息や令嬢がいるんだもの。私が彼に近づけば彼が何をされるか分かったものじゃないわね……)


 本当に人付き合いとは厄介なものだ。とヘラは落胆の篭ったため息を吐いた。


 ———でももし。


 自分の周りに誰もおらず、彼が1人で居たのなら、その時は———。


 そんな感情を抱くのは彼女の人生の中で初めてだった。


 

  

 

 ———3人の運命が交差するかは、神のみぞ知る。



——————————————————————————

 此処まで読んでくださりありがとうございます!!


 これにて第1章は完結です。

 明日から第2章が開幕します。

 果たしてシンはヘラの闇堕ちを回避することができるのか……!?


 是非お楽しみに!

 

 それと現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。

 なので、頑張って欲しい、面白いなど思って下されば、☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!

 作者の執筆の原動力となりますので!

 

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