第2章 推しと序列編
第1話 入学式とクラス
「……緊張するな……」
『何がそんなに緊張するんじゃ? ただ入学式に出るだけじゃろうに』
爺さんが不思議そうに首を傾げているが、オタクでない爺さんには一生この気持ちは分からないだろう。
———推しと同じ空間にいるというこの極限の緊張感を。
因みに今の俺は学園の講義場の一角に座っており、周りは顔も知らないモブ達ばかりなので恐らく成績順で並ばされていると思う。
そして爺さんは固有精霊界におり、パスを通じてテレパシーで会話をしている状態だ。
しかし、緊張しているのは何も推しと同じ空間にいるからだけではない。
あの主人公に俺の正体がバレないか心配というのもある。
主人公のカイ。
唯一どんな行動を取るか不明な不穏分子。
その内必ず対処しなければならない。
「———これより第400回入学式を開始します」
どうやら俺が考えている間にいつの間にか入学式の開始の時間になっていたらしい。
俺は慌てて立ち上がり、皆と同じく礼をする。
何とか違和感ないくらいで気付けたので、目立ってはいないはずだ。
入学式はつつがなく進み、いよいよ新入生代表の挨拶となった。
新入生代表は学年1位で入学した人がするため、自ずと首席が分かる。
ゲームではヘラが勿論ぶっちぎりで1位だったので務めていたが、カイが予想外に力を発揮したせいで分からない。
しかし———俺の不安をよそに、ヘラが椅子から立ち上がり登壇する。
どうやらヘラが首席だった様だ。
一応ストーリー通りに進んでいるな。
どうやらこの世界にもストーリーの強制力というのは存在するらしいな。
出なければ、ヘラが首席というのは少々無理がある。
カイは魔力測定も模擬戦も恐らくヘラよりも高いし、転生者なら筆記試験でヘマすることも考えにくい。
それにも関わらずヘラが首席である事を考えると……いや、ただカイの態度やその他諸々が悪くて点数を引かれたという場合もあるが、仮にカイの性格すらも操作させているのなら、世界の強制力と言ってもいいだろう。
まぁそんな事より今はヘラのスピーチを聞かなければ。
俺は極限まで耳と目に意識を集中させてヘラを見る。
今の俺の気持ちはさながらアイドルを推すオタクの様な心境だ。
ヘラは登壇すると、ふと誰かを探す様に視線を彷徨わせたかと思うと、少し落胆の表情を見せる。
その姿に違和感を覚えるも、直ぐに凛々しい表情で口を開いた。
「———暖かな春の訪れとともに、私達1000名は王立魔法学園に新入生として入学式を迎えることができました。これからの学園生活の中で、時に迷うことや苦しいときがあるかもしれませんが、同じ学年の仲間たちと協力し合い助け合いながら乗り越えていきたいと思います。校長先生をはじめ、先生方、先輩方、いかなる時も努力をしていきますので、どうぞよろしくお願い致します。第400回生代表———ヘラ・ドラゴンスレイ」
ヘラはそう言って頭を下げると、教師達が拍手をし、それが伝染するかの様に会場中の全員が拍手をした。
勿論俺は1番早く拍手をしたぞ。
何なら代表挨拶が始まる前から拍手の準備をしていたくらいだ。
ついでに、俺が拍手をした瞬間、ヘラと目が合ったのは俺の勘違いなのだろうか。
少し表情を緩めた様に見えたが……まぁ恐らくヘラが神々し過ぎて俺が幻覚を見たんだろう。
ヘラが初対面でもない俺を見て表情を緩める訳ないからな。
ヘラは大喝采の中で綺麗なお辞儀をして降壇する。
俺はそんな推しの晴れ舞台に1人、親の様な心境で見ていた。
さて———後は全て聞く必要ないから聞き流しておくとするか。
俺は爆睡をかます事にした。
「見つけた……」
降壇したヘラの表情は、少し緩んでいた。
「えっと……俺のクラスは……」
入学式が終わり、魔法によって自分のクラスの書かれた紙を見ながら教室に向かう。
既に何百回以上もこの学園には来ているので迷子にはならない。
因みに俺のクラスは高くも低くもない平凡な者達が集まるCクラス。
正しく俺が考えていた中で最高のクラスである。
ヘラと同じクラスのSクラスは緊張し過ぎてどんな奇行を起こすかも分からないし、高いクラス程貴族達の選民意識が強いので出来れば遠慮願いたかった。
逆に最下位クラスであるFクラスは問題児の巣窟なので普通に面倒。
そして、Cクラスはストーリーのメインキャラが居ない唯一のクラスだったはずだ。
これに関してはあまり自信がないが、1クラスだけモブしかいないクラスがあったのだけは覚えているので、恐らく合っているだろう。
つまり———Cクラスは学園の中で最も楽で穏やかなクラスと言うわけだ。
俺はゲームの中で最も見た教室を現実で見れる事に少し興奮しながら扉を開く。
ガラガラと引き戸特有の音を聞きながら中を見渡すと———
「———……あ、あれ?」
俺はCクラスの最奥列の端っこに座っている1人の生徒に驚きのあまり目を奪われる。
そこには1人の恐ろしく整った顔立ちの男子生徒が物憂げそうに窓の外を見ていた。
その生徒の姿を俺はよく知っている。
何ならゲームでも常にチームに入れていた程多用していた。
「な、何で主人公の友人キャラがこんな所に居るんだ……?」
主人公カイの友人キャラにして、ゲームでも屈指の実力を誇り、主人公と同じFクラスにいるはずの———アーサー・ウィンドストームその人が、このCクラスという平凡クラスの教室に居た。
……この世界にストーリーの強制力は存在しないのかもしれない。
そんな事を考えてしまう俺であった。
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これより第2章の始まりです。
早速ゲームと違う事が起きるが果たして……。
それと、現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。
なので、頑張って欲しい、面白いなど思って下されば、☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!
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