第6話 修行の成果(改)
———約5ヶ月後。
「はぁ……はぁ……ゴホッ……はぁ……はぁ……」
『うむうむ、予想より早く儂の速度に追い付けるようになったのう。これは鍛え甲斐がありそうじゃわい』
「爺さん……アンタは鬼か……? 何が10倍だよ……20倍の間違いじゃねぇか……!」
『10倍くらい誤差じゃろう?』
「そんなわけ———ゴホッゴホッ! あ、あるかッ!」
俺は全身汗だくの状態のまま、地面に寝転がる。
地面に寝転がれば汚くなることくらい分かるが、今はそんな事を気にする余裕すら俺にはなかった。
始めにやらされた追いかけっこに加え、爺さんの繰り出す攻撃を回避又は受け流す(回避できなければ普通に攻撃を喰らう)と言う鬼畜の所業までやらされ、更には数ヶ月の間ずっとこの重りを装着させ続けられた。
正直死ぬかと思った。
と言うか全身の骨が粉々に砕けそうだったし、常に魔力で身体を強化しないと潰れてしまうので碌に寝ることすらも出来なかった。
しかしその対価として———
『———身体強化と魔力障壁の習得おめでとう。よくやり切ったのう』
「あ、当たり前だ……俺はヘラの為なら死ねる男だぞ……!」
俺は恐ろしい速度で身体強化を殆ど完璧にモノにし、魔力障壁もある程度の練度まで持っていくことが出来た。
今までは身体に纏わせていただけだったが、今では全細胞に魔力を纏わせることも、一部分だけに身体強化を施す事も可能になった。
そのため身体能力、反射神経、思考速度、防御力のどれを取っても5ヶ月前とは比べ物にならないほど上昇している。
今になって思えば、今まで俺が使っていた身体強化は身体強化とは言えないほど杜撰で、まるで子供のお遊戯の様なものだった。
流石に雷を纏ったときほどの速度は到底出せないが、音速ギリギリ程度なら筋肉が千切れるのを覚悟で走れば出るだろう。
普通に走ってもリニアモーターカーよりは速く走れる。
魔力障壁はそもそも今まで使ったことがなかったが、使ってみると応用がしやすくて使いやすい。
一気に戦闘の幅が広がる優秀な魔法だった。
『じゃあ儂と対戦してみるか? どうせシンも戦いたくてウズウズしておるんじゃろう?』
「俺は爺さんみたいな戦闘狂じゃないぞ」
まぁ爺さんの言う通り、今の自分がどれくらいの通用するのか知りたいと感じている自分がいる事は確かだが。
しかし流石に今からは普通に身体が死ぬ。
『どうするんじゃ? 儂はそんなひ弱な男と契約なんてせんぞ?』
「……チッ……足元見やがって……ぶっ潰してやる」
俺は結局、上手い具合に乗せられて爺さんとの対戦を受けてしまった。
『儂はいつからでもよいぞ。先手はシンに譲るぞ』
「ふぅ……もうこれ外していいんだよな?」
俺は自身の手足と背中に取り付けられた重りを指差す。
正直これを背負ってはボコボコにされる未来しか見えない。
『よいぞ』
「よし………………軽い……!」
俺は『ドスンッ』と言う音と共に突然自身の体が羽のように軽くなった。
あまりの軽さに無意識に言葉が洩れてしまうほどに。
これが本来の俺の体重なのか……?
5ヶ月前とは違い、まるで重力が掛かっていないかの様に感じる。
今なら身体強化せずに100メートルくらい飛べそうだ。
俺はグッと拳を構えると———身体強化を施して一気に30メートル程離れた爺さんに向かって駆け出した瞬間。
「……ん?」
俺は自分でも気付かないうちに爺さんの目の前に移動していた。
俺は即座に脳と神経に身体強化を施して思考速度と反射能力を強化。
直様状況を理解してそのままの流れで拳を振り抜く。
「———はっ!!」
瞬間———物凄いソニックムーブと空気が爆発する音が辺りに響き渡る。
空気が揺れて木々が吹き飛ぶ。
しかし———爺さんは平気そうな顔で嬉しそうに立っていた。
「……ほんと神霊って奴は規格外だな」
『儂もそう思う。これが普通の人間なら跡形もなく粉砕されているじゃろう……な!』
爺さんが身体に力を入れて自慢のムキムキの肉体を露わにする。
その反発力で俺の拳は跳ね返され、数メートル吹き飛んだ。
しかし空中で体勢を変えると、そのまま再び攻撃に転じる。
今度は片腕に魔力を集中させて、虚空を素早く弾く様に殴る。
すると———拳によって押し出された空気が拳圧となって爺さんを襲った。
『おお! そんな事まで出来るようになったんじゃな! 腕を上げたのうシンよ!』
爺さんはそう言って嬉しそうに笑うと、目に見えない筈の拳圧をまるで見えているかのように避けた。
しかしそれはブラフ……本命は———
「———こっちだ……!」
俺は音もなく爺さんの背後に移動すると、再び片腕に魔力を込めて爺さんを殴る。
爺さんは物凄い反射神経で俺の攻撃を腕で受け止めるが———
「それは、予想通りだぞ」
受け止めた瞬間に魔力が俺の拳と爺さんの腕の間で爆発して、爺さんを上空へと大きく吹き飛ばす。
爺さんは少し驚いたように目を開いたが、未だ楽しそうな笑みを浮かべたまま何処か余裕そうだ。
その余裕顔、俺が崩してやる。
「《障壁》」
俺は吹き飛んだ爺さんを追いかけてジャンプすると、魔力障壁を発動。
そして———障壁を踏んで再び跳躍。
『ほう……もうアレンジも出来ているようじゃな。相変わらず戦闘が上手いのう』
「お褒めの言葉ありがとう。ただ———そんなに余裕ぶっていて大丈夫か?」
『何がじ———っ!?』
爺さんは周りをみて初めて余裕の笑みを消した。
今、爺さんの周りは俺の魔力障壁で完全に囲まれており、相当な魔力を注ぎ込んでいるので簡単に破られたりはしない。
「———食らえッ!!」
俺は両腕に魔力を込め、全力で何度も虚空を殴る。
すると魔力の乗った幾つもの拳圧が爺さんを襲う。
『またそれかのう? 流石に当たりはしないぞ?』
その言葉通り、全てを回避してみせる爺さん。
しかし俺はそんな事とっくに予測済みである。
「何故俺が魔力障壁で周りを囲んだと思う?」
『…………お主、やるのう』
爺さんは跳ね返った拳圧を魔力障壁で防御するも、全てを防ぐ事は出来ず、数発当たってしまった。
『もうこれくらいで良さそうじゃな』
「ああ。爺さんの度肝を抜かせただけで俺は満足だ」
『……シンよ、お主に少し頼み事がある』
爺さんは少し真剣な表情でそう呟くと、俺を目を見て言った。
『儂の悩みの種を何とかしてくれんか?』
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第15話まで1日2話投稿!
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