第3話 神霊ゼウス
———次の日。
「よし、それじゃあ行くか」
俺は全身ガチ装備で家を出る。
ガチ装備と言っても、魔力伝導率の良いミスリルの短剣と、全魔法ダメージ減少のピアスをしているだけだが。
装備を確認した後、脚に魔力を纏う。
因みに、この森は普通に歩いていたら死んでしまうので、魔力を纏って脚を保護すると同時に、移動速度を上げる意味もある。
俺は軽く地面を蹴って木の枝に飛び乗ると、ジャンプしながら木々へと飛び移って進む。
前世でこんなこと一度はしてみたいなぁ……と思っていたが、こんなところで叶うとは。
人生本当に分からないことだらけだな。
そんな爺さんみたいな事を考えていると、俺の目の前に数匹のトロールジェネラル(レベルは110前後)と呼ばれる巨人に見つけた。
向こうはまだ此方に気付いていない様なので———このまま突っ切る!
一瞬にして脚に雷を纏うと、雷速でトロール達を抜き去り、その姿が遥か後方にまで見えなくなるほどの地点で解除。
昔は数秒掛けて発動させていたが、今は少し思うだけで何なくエンチャント出来る。
「ふぅ……やっぱりこの森は物騒だな……」
細心の注意を払って進んでいるものの、その分精神的な疲れも大きい。
普段は家の周りでしか活動していないのも1つの要因だろう。
「あ、そうだ。これでもしかしたら気付いてもらえるかも」
俺はふとこの森に住んでいる雷の神霊———ゼウスの事について思い出したことがあった。
それは、ゼウスがこの世界の全ての雷を支配している、という設定だ。
確か公式のファンブックに書いてあった気がする。
まぁうろ覚えなのでイマイチ信憑性に欠けるが、やってみて損はないだろう。
俺は一際大きな木のテッペンに飛び移り、詠唱を始める。
「——天の怒りを降らせよ——《天雷》」
空に突如雨雲が現れて『ゴロゴロ』と雷鳴が鳴り出す。
狙うはゼウスのいる森の中心。
そして———カッッと眩い光が辺りに飛び散ると数瞬遅れて轟音と地響きが辺りを襲った。
木々が揺れて、数十キロ以上離れている俺の所まで振動が届く。
さて……ゼウスは反応してくれたか……?
俺はゆっくり目を開けると———そこには先程と何の変わり映えもない鬱蒼とした暗く悍ましい雰囲気を纏った森が広がっていた。
どうやら俺の賭けは当たっていたようだ。
『———何しに此処に来たのじゃ……?』
ゼウスが全身に雷を纏って現れる。
雷の杖を持ち、雷の服を着て俺を遥か上空から見下ろしていた。
その威圧感は俺の所まで届き、ビシビシと俺の肌を打つ。
全身が粟立ち、額から汗が流れ落ちる。
しかし———俺は敢えて獰猛な笑みを浮かべる。
「———お前の力を手に入れに来た」
『———なら儂を倒してみるんじゃな』
俺とゼウスの雷電が空の中腹で激突した。
『どうしたんじゃ? この程度かのぉ?』
「……っ……まだまだこんなもんじゃないっ!」
俺は両手に雷電の槍を創り出し、雷速で撃ち出す。
しかし———ゼウスが片手を構えるだけで槍は急速に速度を低下させ、最後には消えていく。
くそッ……雷は戦闘中も効かないのか……!
俺は舌打ちしながらも牽制の雷電を素早く撃ち出して身体を森の中に隠す。
『お? 作戦変更かの?』
ゼウスが嬉しそうに言う。
やはり長年生きているせいか、俺の考えなど見透かされている。
しかし、それ以外に手は無いのでこうするしか無い。
俺は雷を解除して、純粋な身体能力だけで森の中を疾走。
ゼウスは恐らく俺から発生する雷を感知して俺の居場所を特定しているはずなので、解除すればバレないはず。
『———それなりに頭を使ったみたいじゃのぉ。だけど……その程度で儂を撒けるとは思わないことじゃな』
「っ!?」
突如俺の目の前にゼウスが現れ、ニヤリと笑った。
俺は驚きに一瞬身体が硬直するも、すぐにその場を飛び退き、方向転換して森の中に逃げ込んだ。
「どう言うことだ……? 何故バレたんだ?」
十中八九俺の仮説が間違っていたと言う事だろう。
しかし雷でないなら何で反応しているというのだろうか。
魔力は隠しているので魔力感知の線は薄い。
なら一体何故……?
『———静電気じゃよ』
「っ!? くそッ……そう言うことか……!!」
確かに動けば少ないが確実に静電気は発生する。
それをゼウスは感知していたんだ。
俺は逃げても意味がない事を悟り、その場で応戦することに決め、全身に蒼白に輝く雷電を纏う。
全身がゼウスと同じ雷電の身体に変化する。
『ほぉ……まさか儂と同じ様に雷の身体に変化できるとは……やるのう』
「そういうくせに随分と余裕そうだな……!」
俺は地面を蹴り、雷鳴を轟かせながら瞬きするより速くゼウスの懐に入って拳を穿つ。
自身の身体に纏われた雷は殆どが俺の支配下に置かれているので無効化される事ほどんどないだろう。
『ほう……使いこなしておるな』
ゼウスは俺の拳を杖で防御しながら感心した様にもう片方の手で顎髭を撫でる。
そんな余裕な様子のゼウスとは対照的に、俺は結構マジで攻撃しているのだが……面白いほどに全然当たらない。
おかしいだろ……こちとら雷速で動いてんだぞ……?
それに最強ヒロインに身体能力的には世界最強ってお墨付きを貰っているんだが。
俺はフェイントや緩急をつけて拳だけで無く脚も肘も膝も頭も使って攻撃を繰り出しているが……一向に当てられる気がしない。
『ほっほっほっ……お主強いのぅ。小僧なんて言って悪かった』
「そう言う割に余裕そうだけどな……っ」
『確かに他の神霊達ならもう少し善戦していたかも知れん。何なら水の神霊なら勝てるんじゃないかの?』
まるで自分が神霊の中で1番強いと言っている様な口癖で宣うゼウス。
しかし俺は自分でもそこらの精霊よりも強いと自負しているが、そんな俺が手も足も出ていないのであながち間違いではないのかもしれない。
「ふぅ…………」
『ん? 何をする———!?』
俺はゼウスの話している途中に目を瞑り、魔法を解除する。
そんな俺の突飛な行動に流石にゼウスも驚いたらしく、言葉を止めて息を呑む音が聞こえてきた。
『儂に勝つ事を諦めたのか……?』
「違う」
『ならその姿で勝てると———な、何じゃそれは!?』
ゼウスが今日初めて叫び声を上げた。
しかしそれもしょうがないだろう。
「俺はまだ諦めてなど居ない……!」
俺の右手に集まる膨大な雷電が、お互いに弾きあって更に激しく、より強く、大きく変化する。
その余波だけで雨雲を引き寄せ、雷鳴を轟かせ、空を荒れさせた。
俺は拳を握り、全魔力をこの一撃に賭ける。
「———我が手に宿れ神なる龍よ。その威光で、力で世界に知らしめろ———」
俺の身体を中心に圧力で地面が陥没し、辺りに地震が発生する。
森がざわめきモンスター達はその圧倒的な魔力に恐れ慄き逃げ出していく。
「———《雷龍神》ッッ!!」
———世界を激しい雷が包み込んだ。
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第15話まで1日2話投稿!
次話は7時30分頃に投稿します。
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