第2話 シン(改)

「相変わらず辺鄙な所に暮らしてるよな俺」


 自分ですらそう思ってしまうのだから、ここに住んでいない者からすれば頭のおかしい人に思われるだろう。

 

 俺の家は【神霊契約】と呼ばれるゲームの中で最も深く、危険な森———『禁忌と雷の森』の中の中心部から少し離れた小川の近くに住んでいる。

 この森は恒星の光が届かない程に鬱蒼と茂る木々に覆われ、魔神の眷属と言われるモンスターが大量に生息しており、どれもレベルは100を超える。


 因みにこの世界での最大レベルは150で、限界突破と呼ばれる自身の限界を超える試練を受けなければ100までで止まってしまう。

 そんな人間達はステータスで負けるモンスターに対抗するために精霊と契約をするというわけだ。


 精霊は下級、中級、上級、王級、超越級、神級と分かれており、精霊でも最上級の神級と契約している者は両手で数えられるほどしかいない。

 俺は、レベルは恐らく150に辿り着いていると思うが、精霊とは契約していないので、自分の力一つでこの森を生き抜いている。


「まぁシンが特殊なだけか」


 こんな場所に住んでいればそりゃあ隠れ最強キャラにもなるわな。

 精霊にも頼らないんじゃ自分が強くなるしかないし。


「結局コイツは最後まで何の精霊とも契約しなかったんだよな……」


 そう、シンというキャラは、よくゲームにあるお助けキャラ的な立ち位置で、この森に来た主人公達の案内と護衛を勤めていた。

 その力は精霊抜きでは間違いなく世界最強と、のちに最強のヒロインと呼ばれるアリア・デーモンロードに言わしめたほどだ。


 しかし———


「俺は絶対に精霊と契約するがな」


 だってその方が圧倒的に強いし、もしも俺がいない時にヘラが襲われでもすれば、精霊を付けていれば安心出来るし気付く事も出来るからな。

 だから、半端な精霊とは契約するつもりは毛頭ない。


「狙うは超越級……いや、神級だよな」


 これまた幸運な事に、この森には雷の神級精霊———ゼウスがいるので、彼と契約するのが俺の望みである。

 ゲームではゼウスと契約できる者はおらず、唯一契約できる筈だったシンも契約しなかったので、ついぞ最後まで彼の力を見ることはなかった。

 そのため攻撃パターンが全く分からず、生身最強の俺も迂闊に挑戦できる様な相手ではないのだが……ヘラのために諦めるわけにはいかない。


「まぁその為にここ何日も鍛錬しているわけだが……そろそろ挑戦しないと不味いんだよな」


 ゲーム開始の入学式まで後半年程度と時間がない。

 これを逃せばヘラと同じ学年になることは不可能なので、絶対に送れるわけにはいかないのである。


「これでラストにするか」

「グルルルルルル……」


 俺は対戦相手兼食糧であるレベル150のブラッドドラグーンを前に、拳に青白く光る雷電を纏って構える。


 シンは世界最高の雷魔法の使い手だが、俺が転生した事により当初は弱体化していた。

 その為こうして毎日適当なモンスターと戦闘をして俺が経験を積んでいたというわけだ。


「お前には今の所全敗だからな……今日こそは勝ってやるよ」

「ガァアアアアアア!!」


 俺は拳に纏っていた雷電を前方に撃ち出す。

 轟音を鳴らしながら空を真っ二つに裂くほどの雷が一瞬にしてブラッドドラグーンに直撃。

 

「グアアアアアアアアアアア———ッ!?」


 ブラッドドラグーンが苦しげに雄叫びを上げるが、流石レベルカンストの相手。

 1発で城を余裕で壊せるほどの威力を誇る俺の雷を受けて、意識を保っているどころか動く事ができるのだから。


 しかし———そんなことは既に分かりきっている。


「まだまだ行くぞ———ッ!」


 俺は雷を脚に纏って地を蹴る。

 同時に雷が轟き、地面を大きく揺らす。


「ッ!?」

「———《雷爆》ッッ!!」


 一瞬にして目の前に現れた俺に驚くブラッドドラグーンに雷電が纏われた拳が勢い良く突き刺さる。

 瞬間———雷光が薄暗い森の中を明るく照らし、凄まじい爆裂音が響き渡った。


 更に『ドスンッ』という重低音と共に腹に巨大な風穴を開けたブラッドドラグーンが地に伏してその命を散らした。


「ふぅ……久し振りに戦ったけど意外と余裕だったな」


 俺はブラッドドラグーンの尻尾を持って引き摺りながら家に持ち帰る。

 この身体は大量に食べるので、体長10メートル越えのこの巨体でも2週間もかからない内に食べきってしまう。


 俺は魔力を手刀に込めて素早く手を動かす。

 するとまるでバターの様な滑らかな断面でブラッドドラグーンの切り身が出来ていく。

 死んだモンスターは体の周りを覆う魔力が無くなるため、防御力が著しく落ちるのだ。


「明日は奴に挑むから、しっかりエネルギー補給をしないとな」


 俺はふと鏡に映る自分の顔が見えた。


 黒髪黒目の少しイケメンだが、ありふれたモブ顔。

 筋肉質だがムキムキとまではいかない身体。


 それだけ見れば頼らない。

 ましては1人の人間の運命を変えることが出来るとは到底思えない。

 

 しかし———



「———絶対に救ってみせる。俺が、この手で……!」



 その為にお前の力を手に入れるぞ。


 覚悟しておけ———ゼウス。








『……明日は久し振りに忙しくなりそうじゃな』


 雷を司る神が空を見上げて呟いた。

 

 

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 第15話まで1日2話投稿!

 次話は18時に投稿します。


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