第1章 神霊契約
第1話 鬱ゲー転生(改)
とある世界の鬱蒼とした森の中。
その中に1人の青年が居た。
「ふぅ……やっとこの身体にも慣れてきたな……」
俺———シンは、1時期オタク達の間で流行っていた鬱ゲー———【神霊契約】のキャラである。
実際は身体は鬱ゲーのキャラで中身は全くの別人であるが。
そう———俺はこのシンというキャラに転生した。
何故こうなったのか……それは俺には分からない。
ただ1年前、突然、何の前触れもなくこの身体に転生したのだ。
それに自分の前世の事は名前も含めて殆ど覚えておらず、覚えていることといえば前世での常識と俺がやっていたこのゲームの知識のみ。
大体の転生の原因である死亡……は俺の記憶の中ではしていない。
当初は何故こんな事になったのか分からず頭が混乱して、なおかつ、数度この森のモンスターに瀕死になるまでボコられたせいで1ヶ月は廃人の様になってしまっていたが、つい最近やっとこの世界に転生した事を受け止める事ができる様になった。
そして、俺が転生したこの世界は先程も言った通り『鬱ゲー』だ。
まずこの世界は人間などの人類種と精霊が手を取り合って生きており、人間種、エルフ、ドワーフ、亜人、魔族が表面上は友好的に接していた。
そしてその全ての人類種が共同で設立した学園———『精霊学園』に主人公———カイが入学するところからゲームは始まる。
しかし学園はまさに差別の巣窟で、序列関係が顕著に出ており、まず新入生は一部を除いて上級生に逆らう事などできず、虐げられるのだ。
そんな学園に精霊に愛されたカイが入学し、彼が中心となって様々なトラブルや学園から出される試験などを解決していく———というストーリーである。
これだけでは然程鬱ゲー要素はないと思うだろうが、全然そんな事ない。
まず主人公は勿論として、ヒロイン達も余裕で死ぬ。
又は死ななくても上級生に弄ばれて犯されたり、何かの実験台にされたり、洗脳されて主人公達に牙を剥いたり……などなど。
まだまだ沢山あるが、更に嫌なのが、そんな事がしっかりとイラストとアニメ動画付きで見せられるのだ。
そのため勿論R-18指定にされて、何なら閲覧注意の警告が何度も表示される程である。
では何故俺はこんなゲームをやっていたのか。
別に鬱ゲーが好きなわけではない。
何ならハッピーエンド主義者である。
そんな俺だが———このゲームには人生で初めての推しがいるのだ。
名を———ヘラ・ドラゴンスレイといい、この世界においての絶対悪となるキャラである。
そんな彼女に俺はガチ恋していた。
白銀でサラサラな美しいストレートの長髪に少し吊り上がった力強い真紅の瞳に恐ろしく整った冷酷な美人と言った感じの顔立ち。
身長は172センチと高身長ですらっとしたモデル体型ながら胸もそこそこ大きい。
更にこんな完璧な外見を持ちながら、ドラゴンスレイ公爵家の令嬢で莫大な資産を持ち、頭も良くて契約している精霊も強いという完璧ぶりは最早同じ人間とは思えない程である。
しかし俺が彼女にガチ恋した理由はそこじゃない。
ヘラは誰にでも冷たくて冷徹なことから巷では『冷徹令嬢』との異名も持っている。
だが実際は両親のどちらもが不倫をしていた時期に生まれたために、両親にも使用人にも愛されていなかった。
その影響で誰よりも愛に恋焦がれ、少女漫画の様な展開を期待する少し少女チックな可愛い人なのだ。
そのため例え自分の知らない他人であっても困っていれば陰ながら助けるし、学園でも虐められそうな者には忠告をしたり、アドバイスをしたりしている。
しかしそんな優しくて可愛いヘラだが、愛に飢えるがゆえに自分に向けられる感情を正確に把握する事が出来、自身に寄って来る者達の中に真に自分を愛している人は誰1人居ない事に気付いて絶望する。
まぁ貴族の世界で真に愛し合っている者達など限りなく少ないだろうが、ヘラにはその公爵家と言う権力が打算的に近づいて来る者を増やしていた。
そして最終的には———邪神と呼ばれる嘗て精霊と敵対していた種族と契約して主人公達を追い詰めるラスボス的存在となる訳だ。
因みに彼女をヒロインとするルートは存在せず、絶対に敵になるのを止めることは出来ない。
ただそれはあくまでゲームの中での話だ。
今この世界はゲームの様にステータスボードなどもないしログアウトのボタンもない。
ストーリーの強制力があるかは不明だが、生憎俺の転生したキャラ———シンにはこれと言った役割は存在しないのである。
更に幸運な事に———シンは公式のファンブックで明かされた中でも随一の隠し最強キャラなのだ。
だから俺は———この最強の力を誰よりも優しくて誰よりも愛に飢え、誰よりも絶望を味わったヘラを救うために使うと決めた。
「その為にもっと強くならないとな」
誰にも負けない様に。
ストーリー開始まで———1年。
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今回の新作は、推しのために年齢も誤魔化して入学した主人公が推しを愛して護る話です。
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