第113話 なんでそうなるの!?

「……ああ~~久しぶりにまともな食事……おいしいわ~~……」


 できあがった特製林檎ちゃんこ鍋をつつきながら満足げに頬を染める結衣菜。

 材料は鶏肉、油揚げ、白菜、にんじん、ほうれん草……その他野菜が豊富に入った栄養満点鍋であるが、シンクの隅に見慣れない精力剤の瓶が5,6本転がっているの気になる。


「……普段なに食べさせていたズラか?」

「いや、だって……最近姉ちゃん昼夜逆転してるから、食事はそれぞれ自分で……」


 ゴミ箱にはカップラーメンやら冷凍食品の袋が山盛りになっていた。


「ま、まあいいズラ……」

「あのね聖女アップルに一言物申すケド。私は虐められてたわけじゃないわよ? そんなんじゃなくて、影で人のことを妬んでネチネチ言う有象無象どもに嫌気がさしただけなの。それでバカバカしくなってコッチから辞めてやっただけだから!!」

「はいはいスマなかったズラ、スマなかったズラ。……ところでまた引きこもってどうしたんズラか? せっかく試験に受かったっていうズラのに」

「だからよ。やることやったもん。ちょっとくらい遊んだっていいじゃない」

「……そのヤツレっぷりは?」

「これ? これはさ……連日連夜、徹夜でドラゴン討伐しててね……。お風呂も3日入ってないわ」

「どうりで、濃厚なフェロモンが芳しいと思ったズラ」


 ちょっとだけ興奮して鼻をスンカスンカする林檎。

 孝之はいつものことだと呆れている。


「だけどね……」


 結衣菜はちょっと思い詰めたようにうつむく。

 そしてうるんだ瞳で孝之を見た。


「……アイテム探ししながら考えてたのよ。……けっきょくお姉ちゃん……このまんまでいいのかなって……」

「やっとソコに行き着いた!?」


 突然出てきた、ごく当たり前の思考に逆にビックリする孝之。

 試験が刺激になってやっとまともになってくれたのかと淡い期待を浮かばせる。


「孝之と結婚は決定事項なんだけどね」

「いや、違うよ!?」


 やっぱり気のせいか!!

 ガクリとテーブルに突っ伏す。


「……それでも弟にばかり働かせて遊んでいる姉って……少しおかしいでしょ?」

「うん根本的にね。問題はそのず~~~~~っと前だよ?」


「だからさ……やっぱりそろそろ社会に出なきゃいけないかなぁ~~~~~~って……なんとわなしに、おぼろげ~~~~に思ってたわけ……」


 いや、気のせいじゃない!??。

 後ろで林檎がキリキリとリールを巻き上げている。

 孝之も心のなかで網を引き上げていた。


「……そんなこと考えてたらさ……聖女アップルの声が聞こえて……教師がどうのこうの言ってるから。なぁ~~にアリエナイこと言ってるんだろうかと。この超絶人間嫌い『人類皆撲殺』がキャッチフレーズの私がよ? 子供教育!? ありえないわね。 そう思ったのよ――――でもさ」


 そこまで話して結衣菜の目が、超合金ロボのように怪しく点灯した。

 そして林檎のプニプニした頬をプニプニもみしだいて、


「教師っていうキャラも魅力よね~~~~~~~~??」

「い、いや……そういうことでは……ズラ!??」

「ね、ね、孝之どう? どう?? 女教師!! やっぱりグッと来る!?? 看護師もいいかなって思ってたんだけどさ!! 孝之的にはどうどっちがいい!?? ね、ね、ね、ね、!!!!」


 突然火がついたように興奮し、グイグイと迫ってくる姉。

 迫力に押されてたじろいでしまう孝之だが、


「モデルとデザイナーの道もあるズラ。事務員も、なんなら調理師だって……なきにしもあらずズラ!!」

「は? あ、いやえ~~と……?」


 プニプニされながらバチバチとウインクしてくる林檎。

 いつのまにか選択肢が自分に委ねられつつあることに気付いてしまう孝之。

 ゾッと冷や汗を出したところに結衣菜がさらに顔を突きつけてくる。


「ね、将来どんなお姉ちゃんと一緒になりたい!?? 決めてくれたら私、引きこもりも人間嫌いも反社思考も全部やめて頑張れると思うの!!」

「へ……変態性癖は……!?」

「それは無理!!」


 てか変態じゃないし!!

 ごごごごごごごごごごごごごごごごごご……。

 燃える目で見つめてくる結衣菜。


 モデル、デザイナー、教師、看護師、調理師、事務員。

 この中から目指す道を決めろって!?? ――――俺が?? なんで??

 そして決めちゃった、らなし崩し的に結婚も決まるって――そんなバカな!??

 無茶苦茶な展開に混乱する孝之。


 しかし――――バチバチバチバチ!!!!

 林檎の連射ウインクが訴えてくる。このチャンスを逃してしまったら結衣菜は一生引きこもりで終わってしまうかもしれない。

 それでもいいのかと。


(そうなったらどっちみちアンタが面倒見るんズラよ。行くも地獄、行かぬも地獄ズラ。同じ地獄ならイカなきゃ損損ズラァ~~ッ!!)


 無責任な言い分。

 孝之は苦し紛れに慎吾へメールを送った。

 返ってきたメッセージは、


『I'll fucking kill you!! I put my hand through my asshole and rattled my back teeth!!!! And what I want is a female police officer!!!!』

「わからーーーーーーーーんっ!!!!」


 力いっぱい携帯を投げつけた。


「さあ、さあさあさあさあ!!!! 私の――いいえ、私たちの将来を決めるのはアナタなの!! 孝之!! あなたが決めてちょうだいっ!! さあ、さあさあさあっ!!!」

「そ……い、いきなりそんなこと言われてもっ!???」

「いや、ここはもう言ってやるズラ!! ビシッと孝之殿の好みを!! 欲望のままにさらけ出すズラ!! それがあんたら変態姉弟にとって一番良い選択ズラ!!」

「そ、そんなバカな!??」

「孝之!!」

「孝之殿っ!!」


 二人に詰め寄られた孝之は、逃げ場を失い腹をくくった。


「あ~~~~~~もう、わかったよ!! どうなってもしらんからなっ!!!!」


 そうして孝之の選んだ、姉と自分の未来は――――。

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