第105話 俺だったら!!
試験会場に戻ってきた優衣菜。
孝之くん1号のパンツに手をかけ、ズリ下ろそうとしている林檎に一言物申す。
「それ、アタッチメントつけてないわよ」
「――――ぐっ!!」
隙間から見えたツンツルテンの股間。
絶望した林檎はフラフラと教壇へと歩いていき、
「はぁ~~~~ぃ。じゃあ三時間目は国語ズラ……。みなさぁ~~んテキトーに頑張るズラね~~~~……」
試験の開始を宣言すると、机に突っ伏し泣いてしまった。
困惑しつつも試験に集中する受験生たち。
「まったく……油断もスキもないバ~~ロウ……」
優衣菜も1号の乱れを整えると、問題用紙をめくった。
そして昼休み。
「優衣菜殿、どこにいくズラか?」
1号を背負ってトイレに向かおうとする優衣菜を林檎が呼び止めた。
「休憩室はこっちズラよ」
「いや……私お弁当だから……」
「それでトイレへって……悲しいことやめてほしいズラ」
「なんで? いいじゃない人がどこで腹を満たそうがバーロウ!!」
「……心が餓死するズラ」
「よけいなお世話だ~~。バ~~ロウ!!」
問答無用。
嫌がる優衣菜をむりやり連れていく林檎であった。
「……やれやれ、休み時間のたびにトイレに籠もってると思ったら、そんなことやってたズラか……もぐもぐ」
休憩室には思ったほど人はいなかった。
受験生たちのほとんどは弁当ではなく外食をするようである。
旦那持ち(仮)の優衣菜は愛夫弁当
貧乏暮らしの林檎は自作の爆弾おにぎりを持ってきていた。
「だって……男に絡まれたし。……いろいろ人の話も参考にしたかったから……」
「ほほう? ということは社会復帰に向けて少しは前向きに考えているとことズラか?」
「……いいえ、あくまで私の本命は専業主婦のフリをした引きこもりです。就職うんぬんは滑り止めみたいなもんですバ~~ロウ」
「ま、そうだろうと思ってたズラ」
優衣菜の弁当には『ネエちゃんがんばれ おちついて』と海苔でメッセージが書かれており、そんな弟の気持ちを考えると少し気の毒になってくる。
「で、なにか参考になる話はあったズラか?」
「まあ……ちょっとはね。一番興味を惹かれたのはやっぱり看護師かな?」
「ほお? しかし人間恐怖症のあんたが務まるとは思えんズラな」
「私も思わない。……だから他にやれそうな未来がないかと聞いて回ってるのよ」
「下着会社はどうなったズラ?」
「あれも……どとのつまりはOLでしょう? ……人間づきあい的にちょっと……気は進んでいないわ」
「もったいないズラな。ま、でも無理は止めたほうがいいズラ」
「……孝之もそう言ってくれた。高認が取れたからってすぐに次を考えなくてもいいって」
「ほほう? そりゃ良かったズラな」
微笑む林檎に、お弁当のウインナーをおすそ分けしてあげる優衣菜。
「? いいズラか?」
「ほんのお礼」
「あ~~~~~~可愛い子のシャツに頭突っ込んで中の匂いクンカクンカしてえなぁ~~~~~~~~!!」
いつもの教室。
いつもの昼休み。
いつものごとく慎吾が暴走発言を爆射する。
「……おいやめろ、俺まで変態扱いされるじゃないか」
お手製弁当を食しながら抗議する孝之。
いまごろは姉もお昼の時間だろう。
ちゃんと無事にやっているかな……。
試験の成否ではなく、暴れていやしないかと心配だった。
「バカモノ、変態とはなんだ。女子の服の内側の匂いを吸い込みたいのは健全な男子としては当然の願望ではないか?」
「それを口にするのが変態だっていってるんだよ」
「ああ……結衣菜さんは無事に試験を受けておられるだろうか……?」
「きけよ」
今日は朝から慎吾のようすがおかしい。
いや、いつもおかしいのだが、ここまで煩悩の蓋が外れている日も珍しい。
きっと会場で一人おびえているだろう優衣菜を想像しておかしくなっているのだ。
「お前が心配したってどうにもならん。とにかく落ち着いて黙ってろ」
「……透明人間か、時間停止能力か。どっちか貰えるとしたらどっちを選ぶ?」
「いいから弁当食え」
「小心者は時間停止と答えるだろう。しかし俺は透明人間のほう!! なぜなら動かない世界などすぐに飽きてしまうからだ。透明人間ならば相手の反応を楽しみつつ、見つかってしまうかもしれないという僅かなスリルをも楽しめてしまう!! 俺なら断然こっちを選ぶ!!」
「ダンプに轢かれて死んでしまえよ」
ダメだ今日のこいつは完全に壊れている。
明日もまたこの調子なのかと思うと、やつれてしまいそうだ。。
だったらいっそのこと学校サボって会場まで見に行こうか?
そう言ってやったが、
『いや、愛する人の邪魔はしたくない。そんな情けない男になりたくない』
と拒否された。
「ちなみに最強は催眠術だと思っている。意識を消そうが消すまいが、弱気にさせようが強気にさせようが真面目にしようが淫乱にしようが思いのままのシチュエーションを構築できる上に複数の――――」
わかった。
もう気が済むまで語らせてやろう。
孝之も、クラスの誰も、そんな慎吾を止めないでいてあげた。
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