第104話 様々な事情
「な、な、な、な、な、な、なにっ!?? なにっ!??」
カラカラカラカラカラ!!!!
慌ててペーパーを巻き取る音。
「あーーーー申し訳ない申し訳ない、逃げないで逃げないで。私ちょっとお話を聞きたいだけですから。お手数掛けませんから」
「き、聞きたいこと!?? な、なんですか、か、紙ですか!? 紙なら―――」
「いえいえ、違うんですよ。ちょっとね、今日の受験生たちにね、アンケートをね。あ、私レポーターのオネ
「オ、オネスケ……?」
「はい~~。あ、用はご自由に足してもらっていいですから」
「話しかけられながら無理でしょそんなの!?」
「え~~~~会話しながらの大便は無理……メモメモ……と、それでですね」
「大じゃないし!! 小だし!!」
ぶひゅるぷぅ~~~~~~~~ぃ。
「――――ぐっ」
「身体は正直ですな(笑)時間もありません。このままだと次の試験も便意を我慢したまま戦うことになりますぞ?」
「――――くく、く……」
「さあ、自分を開放なさってください。そして新たな世界の扉を開くのです!! 私は私で進めさせてもらいますから」
「……………………」
少しの沈黙の後、便器に座りなおす気配がした。
了承ということだろう。
「え~~では、最初の質問です。あなたの年齢を教えてください」
「じゅ……じゅうなな……ん……歳」
――――ぽちょん。
「17ですか、若いですね。試験を受けにきた理由は?」
「こ、高校を……ぁうん……こないだ辞めたから……」
「おや、大変ですね? やらかしました?」
「……自主……退学……うぅ~~~~ぃ……」
「なるほど、なるほど。それで試験に合格したら、その後の進路は?」
「決まってない」
「なにも?」
「何も」
「じゃあなぜ試験を受けに?」
「そうしないと親がね。働けっていうから」
「ははぁ……それはそれは、また理解のない親ですね。しかし試験を終えたら働かされるのでは?」
「それは大丈夫。一発で合格する気ないから」
「ほう?」
「高認ってね……うぅ~ん……べつ、に……いちどで合格する必要なんて……ん、ないんだよ」
ぷ~~~~~~~~……。
「あ、ごめん。でね、何回受けてもいいから、最終的に決められた科目全部合格すれば取得なんだよね。だから私はできるだけ小分けに合格して時間稼ぎしようかなって。……ほら、働くの嫌じゃない? 少しでも長くニートでいたいからさ」
「それは素晴らしい考えですね」
「でしょ? なんだ、あんた話わかる人だね。板越に話しかけられた時はどうしようと思ったけど……うぬっ」
「いえいえ。ご協力ありがとうございます」
……なるほど、時間稼ぎか……。
それも一つの選択肢ではある。
緊張して実力が出なかったとでも言えば納得してもらえそうだし、そうすれば次の試験まで半年間は勉強と称して堂々と引き込もれるとの算段だろう。
――――ごばしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!
気持ちよさそうに流れる水の音。
これはまた良い話が聞けたぞと、優衣菜はほくそ笑むのだった。
試験会場に戻ると、1号からサッと離れる林檎が見えた。
何をしていたとジト目で睨むが、ひゅ~ひゅ~と口笛を吹いて去っていく。
1号の服がすこしハダケている気がしないでもないが、まぁいいだろう。
前の方に座るポニーテールの女の子が、こっちを物凄い目で見ている。
スコ~~スカ~~。
優衣菜も口笛を吹いてごまかした。
次の試験は現代社会。
引きこもりの優衣菜にとってまるで興味が湧かない科目だが試験と割り切り覚えてきた。なのでこれも楽勝。
さっきの話から、手を抜いてしまおうかとも思った。
だけども費用が6500円もかかっている。
悩みに悩み抜いた末、
無職ですっかり金銭感覚がシビアになってしまっている優衣菜にそれだけのお金をわざと捨てる勇気は――――やっぱりなかった。
「……あたい? あたいは就職のためさ」
次の休み時間。再びトイレにて。
次の獲物は27歳、サービス業のお姉さんだった。
壁越しにアンケートを続ける。
「ほほう就職? やはり学歴がないとキビシイですか?」
「仕事によるよ。……元いた店なんかは見てくれさえ良ければお勉強なんか関係なかったね」
「ほう、サービス業は学歴不問……と」
「全部じゃねぇよ。ただ……客によっては知性も求められたりもする。そういうヤツには高学歴嬢が好まれてたな。……まったく学でイケるもんでもないだろうに」
「人の好みは様々ですからな。それで、あなたもそういう魅力を身につけに?」
「いや、職種を変えようと思ってな」
「なるほど。スキルアップではなくジョブチェンジ……と」
「職安に行ったんだけどよ……やっぱ『まとも』な仕事って給料安いんだな。しかもちょっと良い口になると必ず『高卒以上』だの条件つけてきやがる。……それでな」
「どういった仕事を求めてますか?」
「やっぱOLだな。事務でこう……パソコンをカタカタとさ、カッコいいじゃん」
「ふむ……。格好で言ったら夜の蝶もいいかと思いますがね?」
「……若いうちはな。女なんてトシ取ったら悲惨なもんなんだから。いまのうちに勉强して資格とか取っとかないと、いつまでも女を武器になんてしてらんねえよ」
「うぅぅ……な、なるほど……それはリアルに考えねばなりませんね(汗)」
他人事ではないと傷つく優衣菜。
孝之だって若い女(美少女)のほうが良いに決まっている。
たしかに、いまのうちに違う魅力を磨いておくことも大切なのかもしれない。
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