第101話 通じ合い

「いや、夜露死苦って……?? ヨロシかないよ!! キミ受験生だろ、ダメだよそんな派手な格好は!?」


 30半ばのオジサン係員。

 結衣菜のイカれた格好を見て、目を白黒させている。


「……ああん? 服装の指定はなかったんじゃねぇか? バ~~ロウ!!」

「いや、そ、それはそうだけど……常識ってもんが……。そ、そ……そもそもその不気味な人形はなんだい!? 余計なものの持ち込みは禁止だっ!?」

「バ~~ロウ!! 余計なモンなんかじゃねぇよ!! これは俺様の守護神。愛玩人形型リュックサック孝之くん1号っつんだよ夜・露・死・苦!!」

「リュック?? いや……どう見てもラブドー……いや、ゲフンゴフン!!」

「ルまで言えよバ~~ロウ!!」

「ば、バカモノ、し、神聖な学び舎でそんな不適切な発言は……。と、とにかくその妙なモノをすぐさま下ろしなさいっ!! こちらで預からせてもらう!!」

「バ~~ロウ!! だからこれはリュックだってっつってんだろうが、筆記用具とかあんだよ、弁当とかもよ!!」

「どこをどう見たらリュックだって言うんだっ!!」

「ここをこう見たらだよ!! バ~~ロウ!!」


 息巻いて1号を床に下ろす。そして仰向けにし、股を開ける。

 上着とシャツをめくってお腹を出し、ズボンのベルトを緩めジッパーを下ろす。

 あっという間に半裸にされた孝之くん1号は、なんだかオムツ替えを待っている大きな赤ん坊のように見えて――――、


「「はあはぁ……はぁはぁ……」」


 結衣菜とオジサンは二人仲良く興奮してしまった。


「いや、オメェはおかしいだろバ~~ロウ!!!!」

「ゲ、ゲフンゴフンッ!!?? な、な、な、な、な、なんのことだ、バカなことを言うな!! そ、そ、そ、そんなことよりコレのどこがリュックだと!? よけいスケベになっただけじゃないかっ!!」

「バ~~ロウ!! だからここをこうするんだよっ!!」


 結衣菜は1号の下腹部パンツに手を突っ込むとゴソゴソまさぐった。


「キャーーーーーッ!! フケツーーーーーーーーッ!!!!」


 ナゼか真っ赤になって両目をふさぐオジサン。

 しかし――――じぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~。

 1号のお腹がパックリ開かれると「…………」なんだか拍子抜けしたように真顔に戻った。


「どうだ、これでわかっただろうバ~~ロウ?」


 お腹の中には言った通り、筆記用具とお弁当、財布に参考書、その他モロモロ……。

 それをとても残念そうに確認したオジサンは、


「…………たしかにこれはリュックかもしれない……」


 テンションがガタ落ちし、結衣菜の主張を認めかけている。

 もう一押しだなと判断した結衣菜は中をまさぐると、そこからとあるアイテムを取り出した。

 それは一見、落花生のような形をしていたが、サイズが手の平ほどに大きかった。


「……これは?」


 受け取ったオジサンはその奇妙な物体に、目を男らしく輝かせる。


「これはこの子の特注アタッチメント〝溜まり◯玉くん3号〟だ。パンパンに詰まったンニャララの触感をそのままに再現させた腐女子垂涎マニアックな一品で、このコリコリ感がストレス解消グッズとして〝の〟用途も可能に――――」

け」

「話がわかるぜ、ともよ」

 

 謎の涙で通じ合う二人。

 かくして無事、試験会場へと入ることができたのだった。





 ――――ざわ。


 試験場に入るなり、空気がざわついた。

 みな結衣菜のほうを見ている。


「お、おい……なんだあの昭和の珍走団は?」

「し、目を合わせるな。面倒なことになるぞ」

「珍走団ていうか……大道芸人か……?」


 サワサワ囁くきあう声が聞こえる。

 いきなり登場した特攻服姿のど派手ヤンキー(ラ◯ドール付き)に受験生たちの大半は驚き、ドン引き、なるべく関わり合わないよう目線をそらした。


「バァ~~ロゥ……」


 そんな反応に、結衣菜も内心ドキドキし、それでもナメられまいと必死に虚勢を維持して席に向かった。

 席はとくに決まってなく自由に座って良いようだ。

 結衣菜は迷わず、一番うしろの角を指定席に決めた。


 受験生は老若男女さまざまで、10代もいれば70代くらいのご老人までいる。

 馬鹿っぽい者も多いが意外と真面目そうな人たちもいて、想像していたよりもずっと普通の光景だった。

 勝手な想像で、高認といえば中卒者や高校中退者などの不良ならずものがひしめく地獄絵図を思い浮かべていたのだが……。


(まあ……考えてみれば私も中退者だし。……みんながみんな不良ってわけじゃないわよね)


 誰よりも不良の格好をしながら、認識を改める結衣菜。


 みなそれぞれに緊張した顔で参考書を開きながら時間が来るのを待っている。

 結衣菜もとりあえず筆記用具でも準備しておこうと1号を机に寝かせた。

 すると、


「はぁはぁはぁはぁ……な、なんズラか? そ、そ、そのステキなお人形は??」


 荒い鼻息、丸い影。

 見上げるとそこに、鼻血をダラダラ流しつつ興奮している豊満な女性が。

 パッツンパッツンのスーツに身を包み、髪を整え、いつもとイメージがまるで違うがその特徴的なシルエットを見間違うはずがない。


「せ……聖女アップル??」

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