第98話 なんだったの!?
「なので、仕事の話はとりあえず待ってもらえることになった!! いまは目の前の試験に向かって頑張ろう!!」
夕飯の食卓で。
底がフライパンに持っていかれ穴の開いている丸焦げ餃子を食べながら孝之が気合を入れた。
今日は結衣菜が料理を作ってくれた。
成長してくれるとわかった以上コッチのスキルも磨いておこうと、体力の(孝之の)ある日は台所に立ってもらっている。
食卓には料理の他に、叡智なゲームの箱とオッパイ的なマウスパッドも置いてあった。
「……自分だけこんなもので
当たり前のように裸エプロンの結衣菜は、ジト目で不純な弟を睨む。
「エッチ」
プイッとむくれる姉に、
「そのムネとケツの割れ目を隠してくるんだったら反省してやるよ」
そっくりそのままの目をお返しする孝之。
「いつも言ってるでしょ。苦しくなったらお姉ちゃんに言いなさいって。それをこんなモノで一人で隠れてコソコソと……孝之は姉弟をなんだと思っているの!?」
「ソウイウコトを共有しないモノだと思っている」
「ダメね。そういう古い固定観念が日本を時代遅れにしているのよ? いい? 世界はもっと自由な価値観で動いているの。男同士でも女同士でも愛し合っていいの。だったら姉弟でだって子供を作ってもいいじゃない。ましてや私たちは――――」
「いまはそういう話じゃないし!!」
バンバンバン!!
すぐにおかしな方向に持っていこうとする姉を机バンで黙らせる。
「とにかく勉強だよ勉強!! ちゃんとやってるの!?」
「失礼ね、ちゃんとやってるわよ」
「ほんとにぃ~~~~?」
「ほんとうよ。このあいだ過去問解いてあげたでしょ? テスト自体は問題ないわよ。それよりも――――」
「……鎧だな」
「そう。そっちのほうがお姉ちゃんにとって大問題だわ。なんだかんだやってきたけど、どれもパッとしない結果に終わってるじゃない、どうなってるの!?」
「コッチのセリフだよ……。もう来月だよ……」
一向に進まない対人恐怖症対策に、孝之は頭を悩ませる。
結局のところ、いつもコレでつまずくのだ。
とはいえ、これは責められない。
一番つらいのは姉なのだから(林檎談)
なんとか対策を考えてやらないと本当に試験どころではなくなる。
「ああ、それでしたら保護者同伴でも試験を受けられるみたいですよ」
スマホを開けながら
「え!? ま、マジですか!??」
「ええ、ほらここ「特別処置」と書いてあります。身体や精神に障害があっても不自由なく試験が受けられる制度、となっていますね」
「ほ……本当だ……」
「対人恐怖症に対しての配慮もありまして……試験中でも保護者が側ににいてやれるそうです」
「へえ、なんだよそんな気の利いた制度があるのかよ。だったら孝之が一緒に付いてってやれば解決じゃないか」
一緒にスマホを覗き込みながら感心する
鎧を着込んだ結衣菜も孝之の隣でギッチョンガッチョンとうなずいている。
「ああ……でもこれには事前申請がいるみたいですね? 願書と一緒に提出とありますが?」
孝之を見てくる
「だ……出してません」
青くなってうつむく。
「やれやれ、迂闊だったな。……知ってりゃあんな冗談みたいな対策訓練しなくてもよかったのにな」
兜の隙間からゆらゆらと蒸気が漏れている。
「だ、だって……そんな制度あるなんて知らなかったし……」
「まぁ……学校や予備校を通さず個人で申し込んだのでしたら、見落としは仕方ないですね」
「うぅぅぅ……なんてこった……」
「しかしそうなると試験はもう二週間後でしょう? 申し込みなんてとっくに締め切られているでしょうから……別の方法を考えなければいけませんね」
「まったく、肝心なとこで抜けてんな孝之はよ」
やれやと肩をすくめる
とはいえ孝之はまだ高校生。
こうゆう制度があると、考えもしなかったのは責められない。
「べ……別な方法って……?」
またおかしな着ぐるみを持ち出す気じゃないだろうな。
不安になる孝之。
「う~~~~ん……では一週間ほど時間をもらえますか? デザイン部と相談して考えてみます」
やっぱり作る気だ……。
不安が的中してしまったが、いまのところ他にいいアイデアが浮かばない。
ここは
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