第92話 気付いた?
「……と、言うわけなんだ。いろいろあったけど、けっきょく元の鞘に収まってしまった、まいったよ……」
いつもの教室。
いつもの昼休み。
いつものように机を合わせて食事をする二人。
慎吾はそんな孝之のボヤキを聞いて、鼻から血をボタボタと
「き……貴様……いまなんと言った……?」
「うん? いや……だから、姉ちゃんは相変わらずだなって……」
「そこじゃない。ど・こ・の。ナ・ニ・ニ。収まったかって聞いてんだYO」
血走った目。
孝之はなぜ威嚇されているかわからず、一瞬戸惑うが、すぐに以心伝心し、
「ち、違うぞっ!? 元の鞘ってアレだぞ、フリダシに戻ったって意味だぞ!? 変な想像するなよ!?? 俺はどこにもオサメてねぇから!!」
中学生バリの想像力を悟って、先に否定した。
しかし慎吾はドンッと分厚い辞書を取り出と――――だららららららららら。
お札を数える機械のごとく、猛スピードでページをめくる。
「いや、調べ物ならスマホで……」
言いたい孝之だが、勉強熱心な慎吾は辞書派。なんでもこのほうがよく覚えられるとのことで、まぁそれはどうでもよく、なにを言い出すのかと思えば。
「きえぇぇええぇぇええぇぇぇぇぇっ!!!!」
――――ズドンッ!!!!
気合とともに、開けたページのとある項目を指でぶっ刺した。
みるとそこには『もとのさやへおさまる』と表記されており。意味は、
『(抜いた刀をもとの鞘に収める動作から) いったん縁が切れて仲違いしたものが、ふたたび元の関係に戻ることをいう。 おもに〝男女関係〟に用いる言葉』
と、記されていた。
「あ……い、いやこれは……そういう意味で言ったんじゃなくて……」
わかるだろ?
慎吾を見上げる孝之だが。
「嫁になるとかあらためて宣言されといてぇ!! そういう意味以外のなにがあるっていうん
ドバッとワイシャツを脱ぎ捨てる慎吾。
そしてどこからともなく具足を取り出すとすばやく装着。
頭に鉢巻。ロウソクを二本差し。
両手に
「先日!! あのラーメン屋で俺と誓った友情は嘘だったのか!! ともに味わったハイチュウ味のラーメン!! 大人になる時は二人一緒よと盃を交わしたあの甘酸っぱい味を貴様は忘れてしまったと言うのかーーーーーーーーーーっ!!!!」
「なんにも誓ってねぇし!? なにがハイチュウだ〝とろ~~りキス味〟なんて知らねぇよ!! まだ大人じゃねぇし!! 見るか!? 見るかぁっ!!??」
「おお見てやろうじゃないかっ!!!!」
そうして教室のみんなが楽しく昼食を食べている中。また二人はカーテンに包まってゴソゴソやり始めた。
そんな二人の邪魔をする暇人は、もはやこの教室には誰もいなかった。
一方その頃――――
「み、み、み、み、み、みっ!!!!」
来店するなりセミのように鳴く服飾メーカー営業マンこと、サラリーさん。
「……み? 水?」
コトンと一杯の水をカウンターに置く
サラリーさんはそれを一気に飲み干すとゼイゼイと息を荒げる。
そして大きく生唾を飲み込むと、
「み、三笠優衣菜っ!!」
優衣菜の名前を叫んだ。
「優衣菜? ……優衣菜はまだ今日来てないけど?」
はて?
首を傾げると、
「……やっぱり……」
何かを確信してうなずくサラリーさん。
「あ~~……もしかして……」
「街のショッピングモールへ得意先回りに行ってたんですよ。そうしたら、ある店にこんなポスターが貼ってありまして!!」
見せるスマホの画面には、半泣き顔をしつつ〝DO貞を殺すセーター〟を着てポージングしている優衣菜の姿が映っていた。
「そこの店長さんに聞きました!! あの鎧の変タ――――いや、女性!! あ、あ、あ、あの伝説のモデル三笠優衣菜だったんですかっ!??」
「伝説……てのはちょっと大げさだと思うけど。……まぁそうだよ」
否定してもしょうがない。
優衣菜はあまりいい顔をしないだろうが、自分でまいた種。
悪く思うなよと、肯定する。
するとサラリーさんはプルプルと興奮した顔で震え、血走った目で
「お、お願いします!! あ、あ、あの人を正式に我が社に紹介して頂けませんかっ!! ぜ、ぜ、ぜ、ぜひ専属モデルとして契約してもらいたいのです!!」
「はっ!? あ~~~~……いやまぁ正式にってもなぁ……」
困った笑顔を浮かべる
そんなところに運悪く。
「コーホー……ちょっと話を聞いてはくれないか……昼間孝之の部屋を物色していたら新作エロゲとオマケ特典のオッパイマウスパッドを見つけてな。アイツ私が勉強している間、一人でこんな自家発――――おや?」
――――カロロォォォォォォン。
カウベルを鳴らして鎧姿の優衣菜が入ってきた。
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